マネタス

「3倍返しのペナルティ」とは?失業保険の不正受給になるケースをFPが解説

「3倍返しのペナルティ」とは?失業保険の不正受給になるケースをFPが解説

カテゴリー:

著者名

大野 翠

大野 翠

芙蓉宅建FPオフィス代表、宅地建物取引士、2級FP技能士(きんざいFPセンター正会員)

芙蓉宅建FPオフィス代表。金融業界歴10年目(2020年現在)。お金と不動産の専門家。生命保険、損害保険、各種金融商品の販売を一切行わない「完全独立系FP」として、プロの立場から公平かつ根拠のしっかりしたコンサルティングを行っています。一般消費者の金融に関する苦手意識を払拭すべく、ライフワークとして「超・初心者向けマネー勉強会」を毎月テーマを変えて開催しています。

この記事のポイント

  • 雇用保険に関する正しい知識を持つことで不正受給は防ぐことが可能。
  • 判断に迷う場合はすぐにハローワークへ。
  • 不正受給が特に悪質な場合は詐欺罪で刑事告訴もあり得る。
  • 内容によっては雇い主が責任を負う場合もある。
  • 基本手当の不正受給は返還義務+返還額の2倍のペナルティ(3倍返し)。
  • 失業認定申告書には正しい内容を記載し申告しよう。

失業保険とは、簡単にいうと「雇用保険に加入する働き方をしていた人が、離職した場合などに受給できる最低限の生活費」です。もちろん、基本的には受け取る権利のあるお金ですので、どなたでも平等にその権利はあります。

しかし、該当事由を満たしていない場合や、違反行為に抵触しながら気づいていない場合もあり、その際は不正受給とみなされ罰則やペナルティを課されることになります。今回はこの「不正受給」について解説していきます。

 

【失業保険の不正受給①】失業保険とは

失業保険とは

何らかの理由により(会社都合・自己都合)離職した場合に、受け取る権利の発生するお金のことを、一般的に「失業保険」や「失業手当」と呼びます。

正式には、失業保険ではなく「雇用保険」と言い、失業手当ではなく「基本手当」という名称です。ここからは、雇用保険と基本手当について概要を解説します。

 

管轄はハローワーク

雇用保険の申請の手続きに関して管轄はハローワークです。ヤングハローワークや、マザーズハローワークなどの簡易的な機能のみの施設ではなく、お住まいの地域の要となっているハローワークにて手続きをしなければなりません。

前の勤め先を退職された際に、雇用保険被保険者証などの書類を一式受け取ると思いますので、それらを持参して手続きを行うことになります。

 

雇用保険について

雇用保険で受給できるお金には、以下のものがあります。

  • 基本手当(いわゆる失業手当や失業保険と呼ばれるもの)
  • 就職促進給付(再就職手当など)
  • 教育訓練給付(一般教育訓練給付金など)
  • 雇用継続給付(高年齢雇用継続給付など)

 

基本手当について

雇用保険で受給できる権利のあるお金のうち、最も代表的なものは「基本手当」です。これは「失業保険」や「失業手当」と一般的に呼ばれているもので、離職後に次の仕事が決まるまでの間、所定の要件を満たすと「生活費」としてもらえる給付金です。

ちなみに、雇用保険における基本手当は所得とはみなされず、非課税扱いとなります。

ただし確定申告をした方が良い場合などもありますので、こちらの記事もご参考になさってください。

 

【失業保険の不正受給②】基本手当給付の内容と流れ

基本手当給付の内容と流れ

雇用保険における基本手当を受給するためには、一定の要件を満たし、所定の手続きを済ませる必要があります。ここからは、その一連の流れについてそれぞれ解説していきます。

 

手続きの方法

離職(退職)した場合、退職時にこれまで勤めていた会社から「雇用保険被保険者証」などの書類を受け取ります。これは、在職時に雇用保険に加入していた証明書となり、基本的には離職時に必ず受け取ることになります。

これらの書類を持って管轄のハローワークへ行き、離職票に記入し基本手当を受給するための準備に入ります。

 

受給開始までの流れ

受給開始までには、一定の期間と手続きを踏む必要があります。一般的には以下の流れになります。

  1. 離職
  2. 受給資格決定
  3. 受給説明会への参加(日程は予め決まっています)
  4. 失業の認定を受けるまでの期間の求職活動
  5. 失業の認定(4週に1度は活動状況をチェックされます)
  6. 受給開始

 

受給開始までの期間について

雇用保険における基本手当の受給が実際に開始されるまでには、前職を離職した理由によって期間の差があります。離職理由は大きく二つで「会社都合」と「自己都合」に分けられます。

会社都合とは、勤務先の倒産などによるやむを得ない離職の場合です。自己都合とは、転職を希望して退職した場合など働いている側の意志で退職した場合です。

詳細については、こちらの記事にまとめていますので参考にご一読ください。

 

【失業保険の不正受給③】不正受給は詐欺

不正受給は詐欺

とても残念なことに、本来であれば「働きたい人を応援するお金」である雇用保険に関して、不正受給をする(しようとする)人が少なからずいることも確かです。手当の不正受給は必ずばれます。不正受給は雇用保険法で厳しく罰せられます。

これらの中でも特に悪質な場合は、詐欺罪として刑事告訴され処罰を受けることもあります。不正受給がばれた場合のペナルティについては以下の項目で詳しく紹介します。

 

 

該当した場合のペナルティ

不正受給が発覚した場合、その日以降の基本手当は打ち切りとなります。さらに、これまで受け取った給付金の全額返還を命じられます。

この返還命令の金額とは別に、ペナルティとして「不正受給の額の約2倍の額以下の金額」を納めなければなりません。これを、いわゆる「3倍返し」と呼び、不正受給がいかに厳罰に処されるかおわかりいただけるかと思います。

さらに、納付命令分の全額及び不正受給した金額の返還が全て終わるまでの間、年に5%の延滞金が発生します。また、命令に従わず放置していると財産の差し押さえもあります。

これまでの受給分を全額返還+不正受給額の約2倍以下のペナルティ納付=3倍返し

 

不正は必ず発覚する

ハローワークでは、このような不正が行われないように、様々な調べ方を用いて徹底して不正を取り締まっています。不正受給を見逃してしまうことは、正しく受給している方たちとの不均等を生むことにもなります。

正しく受給している方たちへ迷惑をかけないためにも、ハローワークでは常に取り締まりを強化しています。

 

具体的な調査方法

不正を取り締まる為の具体的な調査方法には、一般的に以下のようなものがあります。ただし、これら一つだけの調査で発覚するのではなく、二重、三重での調査を行っているため、小さな不正でも見逃さないよう徹底されています。

  • 勤務先の帳簿や各種書類による記録照合
  • 直接、雇用保険被保険者を訪ね事情を訊く
  • 直接、会社などを訪問し会社側から事情を訊く
  • 一般の方からの通報(電話、メール、投書など)
  • 会社側への調査協力依頼

雇用保険被保険者による不正だけではなく、その不正に協力した雇い主(会社側)も厳しく罰せられます。

 

不正受給の主な動機と内容

不正受給には、二つのパターンが考えられます。ひとつは「わかっていてバレないだろうと不正をする」場合、もうひとつは「勘違いから結果的に不正受給をしたことになる」場合です。

前者の場合は本人の意思で不正をしているので罰せられるべきですが、少なくとも後者の「勘違い」や「認識不足」の結果として不正をしていた場合に関しては、正しい知識をもって未然に防ぐことが出来ます。

また、判断に悩む場合は必ずハローワークに相談しましょう。

 

不正受給の主な動機

不正受給をしてしまった方の動機として、よくあるものは以下のものがあります。これらは全て不正受給に該当します。

  • 離職後に自営業を始めたが開業届も未提出だからバレないと思った
  • 超短期のアルバイトで給与手渡しの為バレないと思った
  • 知り合いの仕事を少し手伝った際の謝礼程度は不正にならないと思った
  • 知人を手伝っただけで交通費しか受け取っていないから良いと思った
  • 居住地ではない他県での短期アルバイトだからバレないと思った

 

不正受給の事例

具体的な不正受給の事例として、よくあるものを以下に紹介します。「こんなことも不正受給にあたるのか」と感じるような事例も中にはあるかもしれませんが、万が一不正受給をしてしまうと認識の甘さでは済まされませんのでお気を付けください。

  • 退職後に再就職するつもりがないにも関わらず、求職活動を行ったようにみせかけ基本手当を満額受給する
  • アルバイト等賃金の発生する行為をしたにも関わらず、失業認定申告書に記載しなかった
  • 前職の離職後、自営業など会社員以外の働き方を始めたにもかかわらず偽りの申請をした
  • そもそも求職活動を行っていないのに「失業認定申告書」に偽りの内容を記載した

 

「失業認定申告書」とは

失業認定申告書とは、離職に伴う手続きをハローワークで行った後、受給説明会に参加することで発行されます。受給説明会は、簡単に言うと雇用保険制度についての講習会です。ここで正しい基本手当の受給について等を学びます。

この失業認定申告書は、失業認定に必要な項目が記載されており、正しい求職活動をしているにもかかわらず、働く意欲があるのになかなか仕事が見つからない状態であることの証明になります。

一カ月に一度程度、失業の認定のためにハローワークに出向く必要がありますが、その際にはこの申告書と「雇用保険受給資格者証」などを持参しなければなりません。

 

【失業保険の不正受給④】意図しない不正受給を防ぐためには

意図しない不正受給を防ぐためには

ここまでで、雇用保険についての基礎知識や手続きの流れ、どのようにして受給するか等についてお解りいただけたと思います。不正受給は厳しく罰せられますから絶対にしてはいけません。

しかし、上にまとめた事例の中で、ひょっとしたら「これくらいでも不正に当たるのか」と思う項目があった方もいらっしゃるかもしれません。また、不正と気付かずに抵触する行為を行おうとしていた場合もあるかもしれません。

不正受給を防ぐために大切なことは、良いか良くないかをご自身で判断するのではなく、実際の状況に関して正しい内容をハローワークへの提出書類に記しましょう

離職後の働き方に関することであったり、実際に受給するまでの間や、基本手当受給前後のアルバイトなどに関しても申告すべき内容になります。偽りなく申告することで、自分の身を自分で守ることにも繋がります。

不正受給を防ぐためには、自己判断は絶対にせずハローワークに正しい内容を申告しましょう。

 

失業保険の不正受給に関するまとめ

いかがでしたか。ご本人の意志で不正受給をすることはもちろん絶対にやってはいけない行為ですが、ご本人の知らない間に違反行為に抵触している場合も考えられます

失業保険を受給することになった際には最低限の知識をもって、普段から気を付けておくことをオススメします。不正受給の罰則は厳しく、その不正は必ず露呈します

最も重い罰として、詐欺罪でも刑事告訴もあり得ますので「ばれないだろう」という安易な気持ちで不正に手を染めることは絶対にやめましょう。不正受給に抵触してしまうのではないか?などの判断に悩む場合は、早めにハローワークに相談しましょう。

雇用保険に関する以下記事もおすすめ☆