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労災保険で補償される範囲とは?給付条件・補償内容etc.をFPが解説!

労災保険で補償される範囲とは?給付条件・補償内容etc.をFPが解説!

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西岡 秀泰

西岡 秀泰

社会保険労務士、FP2級

生命保険株式会社に25年勤務し、FPとして保険・年金販売を関わってきました。現在は、社会保険労務士事務所を開設し、労働保険・社会保険に関する企業サポートを行うとともに、日本年金機構の年金事務所・相談員をしています。社会保険労務士は公的な保障制度により、FPは私的な保険を活用して「ひと」が抱えるリスクに対応します。両者の経験・知識、また関連する税金や金融商品についてお役に立つ情報をお届けします。

この記事のポイント

  • 労災保険は、基本的にアルバイト・パートを含むすべての労働者が対象。
  • 労災保険の災害は、仕事中の起きた「業務災害」と通勤中に起きた「通勤災害」。
  • 業務災害の認定ポイントは、「災害と業務の因果関係が認められること」。
  • 通勤災害の認定ポイントは、「合理的な経路と方法によって移動し、中断・逸脱がないこと」。
  • 労災の保険給付は、療養・休業・障害・介護・死亡などに対し幅広く手厚い補償が特徴。

新型コロナウイルス感染症にかかったときの労災認定や、高齢者による労災事故の発生増加が話題となっていますが、労働災害(以下、労災と記載)保険はすべての労働者が安心して仕事するために必要な制度です。

現在労災申請を考えている人だけでなく、会社勤務など労働者として仕事をする方に対して、労災保険の補償範囲や給付条件、補償内容について解説します。

 

労災保険制度とは

労災保険制度とは

労災保険制度とは、会社員などの労働者が仕事中や通勤の途中にケガや病気になったり死亡した場合に、労働者や遺族を保護するために労働災害保険給付を行う制度で、「労災補償金」や、省略して単に「労災」と呼ばれることもあります。

労働者を使用する会社は必ず労災保険に加入しなければならず、保険料は全額会社負担です。

 

労災保険の対象は適用事業所のすべての労働者

労災保険の対象となるのは、適用事業で働くすべての労働者です。適用事業は「労働者を使用する事業」で、ほかの制度で守られる国や地方公共団体等以外のすべての事業です。しかし、個人経営の小規模の農林水産業は暫定任意適用事業といい、労災保険に加入してないケースがあります。

労働者は、アルバイトやパート、日雇い労働者、外国人労働者を含みます。経営者や自営業者以外のほとんどの人が、労災保険の対象となります。

 

労災保険と認定される災害は、業務中や通勤中の負傷・疾病など

労災保険と認定される災害は業務災害と通勤災害に区分され、仕事中や通勤中のケガや病気、障害、死亡などが対象となります。

しかし、休憩時間中に私用で外出した際の事故や、帰宅途中に飲みに行った際の事故などは対象にはなりません。業務災害や通勤災害と認定されるには、一定の条件を満たす必要があります。

 

補償内容は保険給付と社会復帰のための費用支援など

労災保険の補償は、労働災害による治療や休業、死亡などに対する保険給付、被災労働者への支援(社会復帰促進等事業)などがあります。保険給付については後で解説しますが、社会復帰促進等事業には次のようなものがあります。

社会復帰促進等事業
社会復帰促進事業 療養やリハビリテーション施設の設置・運営(労災病院の運営など)
義肢や義眼などの補装具の費用の支給、顔面などの醜状を軽減するための再手術などの外科後処置
被災労働者等援護事業 特別支給金(労災の保険給付の上乗せ)、労災就学援護費などの支給
労災の年金受給権を担保とした小口融資(年金担保資金貸付)
安全衛生確保等事業 労災防止に関する啓蒙指導などに対する補助金支給
事業主の未払い賃金の立て替え払い事業

 

労災保険と認定される範囲と条件

労災保険と認定される範囲と条件

労災保険の対象となるのは業務災害と通勤災害ですが、それぞれ労災と認定されるには一定の条件があります。労災認定されるかどうかで、治療費や休業・障害・死亡時の補償は大きく異なるため、認定条件は労災受給の最重要ポイントとなります。

 

 

業務災害の認定は「業務との因果関係」がポイント

業務災害と認定される条件は、仕事中に起きた災害と従事していた業務との間に因果関係があることです。

 

「業務との因果関係あり」と認められるケース

「業務との因果関係あり」と認められるのは、下記のケースです。

  • 仕事中や作業の準備・後始末・待機中
  • 事業所施設内での休憩中、トイレなどの作業中断中
  • 出張中(自宅と出張先の往復を含む)
  • 緊急対応などの急な呼び出しによる会社の車での通勤途上
  • 全従業員参加の運動会への参加中(業務の性質が認められる場合)

 

「業務との因果関係あり」と認められないケース

「業務との因果関係あり」と認められないのは、下記のケースです。

  • 自分の業務とは無関係な他人の業務を会社の指示なく手伝ったときの事故
  • 出張中に業務とは関係のない催し物に行ったときの事故
  • 勤務中に暴漢に襲われたなどの事故(あきらかに業務に起因しない事故)

 

業務上の疾病の認定

業務上の疾病は、業務と相当因果関係にある疾病をいい、厚生労働省令「労働基準法施行規則別表第1の2」にて具体的に列挙されています。

しかし、事故によるケガの場合と比べて、過労による脳梗塞・心筋梗塞や仕事の心理的負荷による精神障害など、労災認定が難しいケースがあります。

厚生労働省の平成30年度「過労死等の労災補償状況」では、脳・心臓疾患の労災認定率(支給決定件数÷請求件数)は37.8%、 精神障害は31.8%で、どちらも認定率は高くはありません。

業務上の疾病の認定

業務上の疾病の認定2

 

通勤災害は「合理的な経路と方法」での移動が対象

通勤災害と認定される通勤は、就業(出社または帰宅)のために自宅と職場の往復などを「合理的な経路と方法」で行うことです。

「合理的な経路と方法」とは社会通念上、一般的に通る経路と方法で、会社に申請した通勤方法と違っていても問題ありません。しかし、無用な遠回りや飲酒運転などは「合理的な経路と方法」に該当しません。

また、自宅と職場の往復以外でも、下記のケースは通勤と認定されます。

  • 複数の事業所で勤務する場合、最初に勤務する会社から次の会社までの移動
  • 単身赴任者の赴任先住居と家族の住む実家との往復などの移動(移動日など要件あり)

 

通勤の「逸脱・中断」は通勤災害の対象外

通勤災害で注意が必要なのは、通勤と認定されない「逸脱・中断」です。逸脱・中断以降の移動は通勤災害の対象外となります。

  • 逸脱:通勤の途中で合理的な経路から逸れること
  • 中断:通勤とは関係のない行為(飲酒、映画鑑賞など)を行うこと

ただし、飲み物を買うなどのささいな行為や、日常生活上必要な行為として下記のケースは通勤災害の対象となります。

  • 日用品の購入など
  • 病院での診察・治療など
  • 要介護状態にある所定の親族の介護(継続的なものに限る)

 

労災保険の給付内容

労災保険の給付内容

労災保険の給付内容は、労災病院での治療費など現物支給されるものと、給付金として現金が支給されるものがあり、支給申請は労働基準監督署(いわゆる労基)などで行います。

給付内容は、治療費、休業や障害、介護、死亡など状況に応じて下記のとおりです。

労災保険の給付内容
給付名 給付内容
療養(補償)給付 傷病の治療に対し必要な療養を給付
休業(補償)給付 傷病で休業する場合に休業4日目から給付 ※傷病(補償)年金の給付開始まで給付
障害(補償)給付 傷病の治癒後に所定の障害が残ったときに年金または一時金を給付
遺族(補償)給付 傷病により死亡したときに遺族に対し年金または一時金を給付
葬祭料・葬祭給付 傷病により死亡したときに葬儀を行った人に給付
傷病(補償)年金 療養開始後1年6か月経過して傷病が治癒せず、所定の障害状態にあるとき年金を給付
介護(補償)給付 障害(補償)給付または傷病(補償)年金の受給者で所定の障害状態にあり介護を受けているときに給付
二次健康診断等給付 会社の定期健康診断で所定の異常の所見があるときに二次健康診断、特定保健診指導を給付

※給付の名称について、業務災害で支給されるものは「補償」という言葉が入ります。たとえば、業務災害では休業補償給付、通勤災害では休業給付という名称になります。

 

 

労災保険の給付金額は給付基礎日額を基準に計算

労災保険の給付金額は、療養(補償)給付や介護(補償)給付、二次健康診断等給付を除いて、給付基礎日額を基準に決まります。

たとえば、休業給付の金額は「休業1日につき給付基礎日額の60%」、障害1級の障害年金額は「1年につき給付基礎日額の313日分」などです。

 

給付基礎日額の計算

給付基礎日額 = 直近3か月の賃金 ÷ その期間の暦日数

 

療養(補償)給付

療養(補償)給付は、労災によるけがや病気の療養費に対する給付です。受診する病院によって給付方法が異なります。

  • 労災病院・労災指定医療機関:無料で療養の給付を受けられます。
  • 上記以外の病院:療養費全額の給付を受けられます。

また、健康保険の療養費は3割などの自己負担があるのに対し、療養(補償)給付では自己負担がありません。(第三者行為による事故などでは一部負担金あり)

 

休業(補償)給付

休業(補償)給付は、労災によるけがや病気で休業せざるを得ない場合に、休業4日目より「休業1日につき給付基礎日額の60%」を受給できます。休業(補償)給付のない最初の3日間の休業は、会社が手当を支払う必要があります。支給要件は下記のとおりです。

  • 療養のために休業していること
  • 労働不能であること
  • 賃金の支払いがないこと
  • 待期期間(休業の最初の3日間)が満了していること

支給期間は休業が続く間ですが、傷病(補償)年金が始まると支給は打ち切りです。また、障害(補償)給付を受ける場合は病気が治癒しているので、「療養のために休業」している場合に給付される休業(補償)給付は給付されません。

 

障害(補償)給付

障害(補償)給付は、労災によるけがや病気が治癒(または症状固定)したときに所定の障害等級に該当した場合、年金または一時金で給付されます。障害等級が1級~7級は年金、8級~14級は一時金になります。

障害(補償)給付の金額
障害等級 年金額
第1級 給付基礎日額の313日分
第2級 給付基礎日額の277日分
第3級 給付基礎日額の245日分
第7級 給付基礎日額の131日分

 

傷病(補償)年金

傷病(補償)年金は、療養開始後1年6か月経過して傷病が治癒(または症状固定)せず、所定の障害状態(傷病等級1級~3級)にあるときに休業(補償)給付に代えて年金で給付されます。

よって、傷病(補償)年金や休業(補償)給付、障害(補償)給付は、同時期に支給されることはありません。

傷病(補償)年金の金額
傷病等級 年金額
第1級 給付基礎日額の313日分
第2級 給付基礎日額の277日分
第3級 給付基礎日額の245日分

 

遺族(補償)給付

遺族(補償)給付は、労災により労働者が死亡したときに遺族の人数などに応じて年金で給付されます。

遺族(補償)給付の受給権者となるのは、①配偶者、②子、③父母、④孫、⑤祖父母、⑥兄弟姉妹のうち、死亡した労働者の収入によって生計を維持していた者です。

夫や父母、祖父母、兄弟姉妹については55才以上であることが要件で、さらに55才以上60歳未満の間は支給停止(若年停止)されるなどほかにも詳細な要件があります。

遺族(補償)給付
遺族の人数 年金額
1人 給付基礎日額の153日分
※55才以上または障害状態の妻がいる場合は175日分
2人 給付基礎日額の201日分
3人 給付基礎日額の223日分
4人以上 給付基礎日額の245日分

また、上記に該当する遺族がいない場合(死亡した労働者の収入によって生計を維持していなかった、年齢要件を満たしていなかったなど)、遺族に対し遺族(補償)一時金として、給付基礎日額の1000日分の一時金が給付されます。

 

介護(補償)給付

介護(補償)給付は、障害(補償)年金または傷病(補償)年金受給者のうち、現に介護を受けていて障害等級第1級、第2級の精神・神経障害および胸腹部臓器障害に支給されます。

介護(補償)給付は、月単位でその月に支給した介護費用の額が実費支給されますが、給付額には上限と最低保証額が設定されています。

 

特別支給金

特別支給金は、記事冒頭で解説した社会復帰促進等事業の「被災労働者等援護事業」として、これまで説明してきた労災の保険給付の上乗せとして給付されます。

労災の保険給付が月々の賃金から算出した給付基礎日額をもとに計算するのに対し、特別支給金は定額であったり、直近1年間のボーナスから算出した算定基礎日額をもとに計算したりします。

 

算定基礎日額の計算

算定基礎日額 = 直近1年間の賞与 ÷ 365日

特別支給金の支給額
支給金 金額
休業特別支給金 休業4日目から給付基礎日額の20%
障害特別支給金
障害特別年金
障害特別一時金
・障害特別支給金:障害等級に応じて342万円(1級)~8万円(14級)
・障害特別年金:算定基礎日額の313日分(1級)~131日分(7級)
・障害特別一時金:8級~14級まで等級別の一時金
傷病特別支給金
傷病特別年金
・傷病特別支給金:114万円(1級)~100万円(3級)
・傷病特別年金:算定基礎日額の313日分(1級)~245日分(3級)
遺族特別支給金
遺族特別年金
・遺族特別支給金:一律300万円
・遺族特別年金:遺族数に応じ算定基礎日額の153日分~245日分

 

労災保険のまとめ

労災保険は、労働者が安心して仕事をするために必要な制度で、基本的にすべての労働者が対象となります。パートやアルバイトも対象となるので、仕事中にケガをしたのに会社から労災の話がない場合は、会社(対応されない場合は労働基準監督署など)に相談しましょう。

労災保険の補償内容は健康保険などと比較して手厚くなっていますので、申請漏れのないよう注意が必要です。認定条件や補償内容が複雑なので会社や専門家に相談する必要がありますが、すべて他人任せにするのではなく労働者として最低限の知識は身につけておきましょう。

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