- 特別加入できるのは、「中小事業主等」「一人親方等」「特定作業従事者」「海外派遣者」。
- 特別加入が可能ならば、補償内容が幅広く、また補償が手厚い労災加入がおすすめ。
- 特別加入の保険給付は一般加入とほぼ同じだが、保険料の計算方法は異なる。
- 補償の対象となる業務災害・通勤災害は、一般加入とは異なるので注意が必要。
公開日:2020年8月17日
建築工事中にけがをした場合、建設会社に勤める労働者は労災保険が適用されますが、下請けの一人親方ならば元請会社の労災保険は適用されません。一人親方や労働者と一緒に仕事をする中小事業主は、「労働者」ではないため労災の一般加入ができないからです。
このような中小事業主や一人親方を保護するのが労災保険の特別加入制度です。今回は、特別加入制度の対象者や加入条件のほか、保険給付や加入手続きについて解説します。
労災保険の特別加入制度とは、労災保険に一般加入できない事業主や自営業者などのうち、所定条件を満たす人が特別に労災加入できる制度です。
労災保険の対象は労働者ですが、業務の実態や災害の発生状況などからみて、労働者に準じて保護することがふさわしいと考えられる人が特別加入の対象となります。
労災保険と雇用保険をあわせて労働保険といいますが、労災に特別加入できる事業主や自営業者も雇用保険には加入できません。
特別加入の場合は、労災の対象者以外にも対象となる災害や加入手続きなどの点で一般加入とは異なります。主な相違点は下記のとおりです。
一般加入 | 特別加入 | |
---|---|---|
加入義務 | 強制加入(加入義務あり) | 任意加入 |
対象の災害 | 共通の業務災害・通勤災害 | 加入者ごとに設定された業務災害・通勤災害 |
加入手続き | 労働基準監督署に保険成立届を提出 | 労働保険事務組合などを通じて加入申請書などを提出 |
健康診断 | なし | 職歴により加入時健康診断 |
特別加入の対象となる事業主や自営業者の中には、特別加入している人としていない人がいます。理由は、特別加入には下記のメリット・デメリットがあるからです。
特別加入できる事業主や自営業者などは、一般の労働者と同様に労働上のリスクを負うことから、補償内容が幅広く、ほかの労働・社会保険や民間の保険よりも補償が手厚い労災への加入をおすすめします。
特別加入の対象となるのは、下記の4種のうち所定の条件を満たした人です。
それぞれについて、特別加入の条件を見ていきます。
厚生労働省の「中小事業主等特別加入状況(平成30年度末現在)」によると(以下同様)、中小事業主等の加入者は約109万人(事業主は約65万人、その家族従業員数は約44万人)と、4種の特別加入者のうちで最多となっています。
中小事業主等とは、①労働者数が下記規模の事業主、②事業主の家族従事者、③事業主以外の役員のことです。
業種 | 労働者数 |
---|---|
金融業・保険業・不動産業・小売業 | 50人以下 |
卸売業・サービス業 | 100人以下 |
上記以外の業種 | 300人以下 |
中小事業主等が特別加入するための要件は下記の2つです。
(※)労働保険(労災保険・雇用保険)に加入していること
また、特別加入する場合は、事業主本人のほか家族従事者など対象者全員が加入しなければなりません。(病気療養中など実態として事業に従事していない事業主は除外可能)
一人親方等の加入者は約61万人で、約59万人の建設業の一人親方と、約9千人の個人タクシー・貨物運送業者(個人のトラック運転手など)が大半を占めます。
一人親方等とは、労働者を使用しないで下記の事業を行う①一人親方、②自営業者、③その事業に従事する人をいいます。
一人親方等が特別加入するための要件は下記のとおりです。
特別加入団体を事業主、一人親方等を労働者とみなして労災保険を適用します。
特定作業従事者は約11万人で、特定農作業従事者が約7万人、指定農業機械作業従事者が約3万人で大半を占めます。
特定作業従事者とは、下記のいずれかに該当する人です。
上記区分に該当するかどうかは、区分ごとに詳細な条件が定められています。
たとえば、特定農作業従事者は「年間の農産物の総販売額が300万円以上」または「経営耕地面積が2ヘクタール以上の規模を有している」ことのほか、所定の作業を行う農作業者が該当します。
特定作業従事者が特別加入するための要件は下記のとおりです。
一人親方等と同様に、特別加入団体を事業主、特定作業従事者を労働者とみなします。
海外派遣者は、約1万社の従業員約10万人が特別加入しています。
海外派遣者とは、下記のいずれかに該当する人です。
海外派遣者が特別加入するための要件は下記のとおりです。
「海外出張者」は特別加入の対象外です。「海外出張者」は、労働の提供の場が海外でも国内の事業場に所属し、国内の使用者の指揮で勤務する労働者です。
一方、「海外派遣者」は、海外の事業場に所属し、海外の使用者の指揮に従って勤務する労働者とその事業場の使用者です。
特別加入の保険給付は下記のとおり一般加入とほぼ同じですが、給付額を決める「給付基礎日額」や「補償の対象となる災害」については違いがあります。
※一般加入と異なり、「二次健康診断等給付」はありません。
特別加入の給付基礎日額は、3,500円から25,000円(16区分)の間で任意で申請できますが、最終的には労働局長が決定します。給付基礎日額が高いと保険給付も高くなりますが、保険料も上がります。
労災保険料の計算は下記のとおりです。給付基礎日額と保険料は比例します。
労災保険料=給付基礎日額×365日×労災保険率
労災保険料=25,000円×365日×18/1000=164,250円
労災保険料=賃金総額×労災保険率
補償の対象となる災害(業務災害と通勤災害)は、一般加入と特別加入では異なるケースがあります。
特別加入の業務災害で、一般加入との主な相違点は下記のとおりです。
特別加入の通勤災害は、基本的には一般加入と同じです。ただし、一人親方等のうち下記については通勤災害の対象外で補償はありません。
特別加入の手続き方法は、加入者ごとに異なります。
特別加入の必要書類は「特別加入申請書」または「特別加入に関する変更届」です。
下記の場合は、「特別加入申請書」が必要です。
上記以外の場合は「特別加入に関する変更届」が必要です。
なお、加入者の職歴(「粉じん作業を行う業務」など)によっては加入時健康診断が必要になります。診断結果次第で特別加入できないこともあります。
特別加入申請書等は、所轄の労働基準監督署長を経由して労働局長に提出しますが、「中小事業主等」は労働保険事務組合を通じて、「一人親方等」や「特定作業従事者」は特別加入団体を通じて行うことになります。
「海外派遣者」についてのみ、特別加入申請書等を直接提出することになります。
労災保険の特別加入制度は、一般加入できない「労働者でない人」が特別に加入できる制度です。対象は「中小事業主等」「一人親方等」などですが、加入対象者や特別加入の要件が詳細に定められています。
特別加入と一般加入では、給付基礎日額や保険料、補償の対象となる災害などが異なるので注意が必要です。労働者と同様のリスクを負う特別加入対象者は、補償内容が幅広く、また補償が手厚い労災加入を検討してみましょう。