- 退職したら翌日から健康保険は使えないが、受け取れる給付もある。
- 退職後の医療保険は、任意継続・扶養・国保の選択肢がある。
- 任意継続するなら、20日以内に申請が必要。
公開日:2019年11月29日
仕事を退職したら、それまで使っていた健康保険証はどうなるのでしょうか。
社会保険のうち「健康保険」には、退職後も加入し続けられる”任意継続”の制度があります。退職したあと高額になりがちな保険料を抑えられるメリットがあります。任意継続以外にどんな選択肢があるのかも知っておきましょう。
併せて、以下記事で社会保険に関する基礎知識を再確認いただくのもおすすめです。
目次
勤務先を退職する場合、翌日から健康保険の給付を受ける資格は無くなります。健康保険証は会社の指示に従って、速やかに返却しましょう。退職日までに会社へ返却できるとよいでしょう。
医療機関で提示を求められなかったからといって、うっかり退職の翌日以降に、在職時の保険証の情報のまま治療を受けたらどうなるのでしょうか。
もし自己負担3割で治療を受けた場合、後から治療費の7割を返還しなければいけません。返還の手続きには手間もかかります。
被扶養者になっている家族の保険証も、退職日の翌日からは使用できません。家族が持っている保険証も含めて、返却漏れがないようにしましょう。
実は、退職して健康保険証を返却した後でも、一定の期間に限り受け取れる給付があります。いずれも、給付額は在職時と変わりません。
退職日に傷病手当金を受けていて、かつ退職日まで引き続き1年以上被保険者だった場合は、支給開始日から最大1年6カ月まで引き続き傷病手当金を受け取ることができます。
出産手当金も同様です。退職日に出産手当金を受けていて、かつ退職日まで引き続き1年以上被保険者だった場合は、出産の日後56日まで出産手当金を受け取ることができます。
退職した本人が、退職後3カ月以内に亡くなった場合、健康保険から「埋葬料」もしくは「埋葬費」が支給されます。金額は最大で5万円です。
そのほかにも、退職した後の傷病手当金を受けている人や、傷病手当金の支給が終わってから3カ月以内に死亡した人も受給できます。
退職した日の翌日から6カ月以内に、被保険者だった本人が出産した場合は、出産育児一時金が支給されます。一児につき原則42万円です。ただし、退職日まで引き続き1年以上被保険者であった場合に限ります。
なお、退職したあと家族の健康保険の扶養になった場合は、家族の健康保険からの「家族出産育児一時金」を受給する資格も発生します。重ねて受給はできないため、どちらかを選んで受給します。
期間をあけずに再就職し、再就職先で健康保険に加入できる場合は、続けて健康保険の被保険者になるため、医療保険の心配はないでしょう。
もし次のように健康保険に加入できない事情がある場合は、失業中にも何かしらの公的医療保険に入らなければいけません。
たとえ病院にかかる予定がなくても、公的医療保険には必ず加入しなければいけません。
加入していなかったことが後から分かった場合は、保険料をさかのぼって請求されることもあります。
では退職後の公的医療保険には、どんな選択肢があるでしょうか。
続けて健康保険に加入できない場合は、この「1→2→3」の順に検討してみましょう。
健康保険の被扶養者が増えても、被保険者が負担する保険料は増えません。まずは被扶養者になれるかどうか検討してみましょう。
保険料や給付など、両制度を比較してみましょう。
国民健康保険の保険料は、市区町村のHPなどで試算もできます。個別に計算してみないと判断できませんが、退職直後は国民健康保険のほうが保険料が高くなるケースが多いようです。国民健康保険では、前年の所得額や、家族の人数に応じて保険料を計算します。
国民健康保険(国保)と任意継続の保険料、家族の保険料も含めどちらが安くなるか計算してみましょう。
倒産・解雇・雇止めなどの理由で退職した場合には、国民健康保険料の軽減を受けられることがあります。お住いの市区町村に相談してみましょう。
では、3つの選択肢から「任意継続被保険者になる」ことを選んだ場合、受けられる給付や支払う保険料はどうなるでしょうか。
任意継続とは文字通り、健康保険に加入する資格を”任意”に”継続”できる制度です。
傷病手当金と出産手当金を除いて、被保険者だった時と同じ給付が受けられます。負担割合や給付額も、被保険者であるときと変わりません。
配偶者・子・親など、被扶養者の治療についても引き続き給付が受けられます。
〇可 | 療養の給付(3割の自己負担で治療を受けられる)
家族療養費(2~3割の自己負担で治療を受けられる) 高額療養費(1カ月の自己負担が高額になった時、お金が戻ってくる) 出産育児一時金(1児あたり42万円) 埋葬料、埋葬費、家族埋葬料 |
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✕不可 | 傷病手当金(休業で減った収入を保障)
出産手当金(休業で減った収入を保障) |
従業員として勤めている間は、健康保険料のうち2分の1が給与から天引きされ、残った2分の1は会社が負担していました。
【例】標準報酬月額(月収)20万円、健康保険料率10%の場合 | |
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本人が負担する保険料 | 10,000円 |
勤務先が負担する保険料 | 10,000円 |
ところが任意継続被保険者になると、保険料の全額を負担しなければいけません。簡単に言えば、負担する保険料は退職前の2倍になります。
【例】退職時の標準報酬月額(月収)20万円、健康保険料率10%の場合 | |
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本人が負担する保険料 | 20,000円 |
勤務先が負担する保険料 | ー |
任意継続の場合、標準報酬月額は退職時の金額を使用しますが、保険者ごとに上限があります。協会けんぽであれば、令和元年度は標準報酬月額(月収)30万円が上限です。
任意継続被保険者になるためには、そう細かい要件はありません。退職後、健康保険・船員保険・後期高齢者医療などの医療保険制度で被保険者になる場合は、任意継続できません。
退職した翌日から2年間限りです。延長はできません。
任意継続を希望する場合は、退職日の翌日から20日以内に保険者に申し出なければいけません。
保険者…保険事業を行うもの。全国健康保険協会もしくは各健康保険組合。
加入している健康保険が、全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合は、各都道府県にある支部で手続きができます。
健康保険組合に加入している場合は、各健康保険組合に問い合わせるなどして、手続き方法を確認しておきましょう。
毎月の保険料は、その月の10日までに支払います。例えば4月分なら、4月10日までに支払います。
初回の保険料は、保険者が指定する日に支払います。例えば3月31日から4月29日までの間に退職した場合、4月分から保険料を支払い始めます。
初回の保険料を期日までに支払わなかった場合には、始めから任意継続被保険者になれなかったことになります。2回目以降の保険料も、納付期日までに保険料を支払わなければ、翌日から資格を失ってしまいます。くれぐれも気を付けましょう。
任意継続被保険者としての保険証は、在職時の保険証とは別のものです。任意継続を申し出てから2~3週間ほどで、本人の手元に新しい保険証が届きます。
保険証が届くまでに医療機関にかかる場合は、医療機関の窓口で、まだ保険証が届いていないことを伝えましょう。もし10割負担で治療を受けた場合、自己負担を超えた金額は、保険証が届いた後で保険者に請求できます。
全国健康保険協会では、令和元年10月から、申出後1週間程度での保険証交付が可能になりました。早めの交付を希望する場合は、任意継続の申出をするときに、退職証明書等を添付する必要があります。
いったん任意継続被保険者になると、自分の希望で任意継続をやめることはできません。「やっぱり国民健康保険に変更したい」と思っても2年間は手続きできないのです。どんなときに任意継続が終わるかは、決められています。
再就職しなかったり、再就職先に健康保険がなかったりと、何もないまま2年が経つと、任意継続被保険者の資格を失います。この場合は、市区町村で国民健康保険に加入しましょう。
被用者保険のなかで、任意継続の制度があるのは健康保険だけです。勤務先で他に加入していた社会保険はどうなるのでしょうか。
20歳以上60歳未満の人が失業した場合は、退職日の翌日が属する月の分から、年金保険料を支払います。扶養していた配偶者がいる場合は、配偶者の年金保険料もかかります。
保険料は月額16,410円(令和元年度)ですが、失業後は保険料を支払うことが負担になることもあるでしょう。国民健康保険は、失業を理由として保険料の免除申請ができます。保険料全額の免除や、一部金額の免除があります。
再就職して経済的に余裕ができた場合に、後から保険料を納めることもできます。
健康保険の任意継続ができる期間は、退職翌日から20日間と短いです。
また任意継続をする以外にも、国民健康保険に加入したり被扶養者になるなど、他の選択肢もあります。
退職してから慌てて考えるのではなく、事前に検討して手続きの方法を確認しておくことをおすすめします。