- 傷病手当金は業務外の病気やケガで働けなくなり、給料が支払われない場合に支給される。
- サラリーマンや公務員など健康保険(共済保険)加入者が対象で、自営業者など国保加入者には支給されない。
- 給料の約3分の2の相当額が、最長で1年6カ月間支給される。
- 申請には、診断書ではなく意見書により働けない状態であることの証明が必要。
公開日:2020年9月8日
病気やケガで働けなくなり、収入が減ってしまうリスクに対し、サラリーマンや公務員には「傷病手当金」という心強い制度があります。
傷病手当金を受け取るためには、どのような条件があり、どんな手続きをしなければならないのでしょうか?診断書による代用の可否など、傷病手当金について知っておきたいポイントを基礎から解説します。
傷病手当金は、会社員や公務員などが業務外の病気やケガで働けなくなり、給料が受け取れない場合に、加入する健康保険から支給される給付金(制度)のことをいいます。
傷病手当金は健康保険や共済組合が行う給付制度であり、会社員や公務員などが支給の対象です。パートやアルバイトでも健康保険に加入している場合には傷病手当金の対象となります。
国民健康保険(国保)における傷病手当金は、保険者(市区町村等)に財政上の余裕がある場合に、自主的に条例を定めるなどして「行うことができる(任意給付)」となってはいますが、2020年8月時点で傷病手当金制度を実施している自治体はありません。
そのため、国保に加入する自営業や個人事業主、フリーランスの人などが病気やケガで仕事を休んでも、給付は受けられません。
新型コロナウイルスによる療養のため、2020年1月1月〜9月30日までに休業した場合、国の財政支援により国保加入者・後期高齢者医療制度加入者にも傷病手当金を支給する特例が実施されています。
新型コロナウイルスによって休業を余儀なくされた方については、回復後に申請を行うようにしましょう。詳細は厚生労働省やお住まいの自治体のHPなどでも確認できます。
出典:厚生労働省
療養のために仕事を休み給料が支払われなかった日について、1日あたり次の計算式で計算される金額が支給されます。
傷病手当金(日額)=(支給開始日以前12カ月の各月の標準報酬月額の平均額)÷ 30 ×2/3
報酬の範囲
標準報酬の対象となる報酬は、基本給のほか、役付手当、勤務地手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、残業手当等、労働の対償として事業所から現金又は現物で支給されるものを指します。なお、年4回以上の支給される賞与についても標準報酬月額の対象となる報酬に含まれます。
出典:協会けんぽ
次のような給付を受けている場合には、傷病手当金が支給停止となったり、傷病手当金の給付額が減額されたりすることがあります。
傷病手当金は、支給開始日から仕事に復帰するまで最長で1年6カ月の間支給されます。
仕事に復帰した後に、同じ病気やケガで働けなくなった場合、再度傷病手当金を受け取ることができますが、支給期間は当初の支給開始日から1年6カ月のままです。働けない状態がそのまま継続し、1年6カ月を経過すると傷病手当金は受け取れなくなります。
出典:協会けんぽ
退職日(健康保険等の資格喪失日前日)までに継続して1年以上の被保険者期間がある人の場合、傷病手当金を受け取れる状態で退職すると、退職(資格喪失)後でも傷病手当金を受け取ることができます。
ただし、退職後に仕事ができる状態に回復した時点で傷病手当金は受け取る資格はなくなり、その後仕事ができない状態になったとしても、再度傷病手当金を受け取ることはできません。
出典:協会けんぽ
退職日に引き継ぎや挨拶のため出社し、出勤扱いとなってしまうと「休業状態のまま退職」という条件を満たさなくなり、退職後に傷病手当金を受け取れなくなってしまうため、注意しなければなりません。
どうしても出勤しなければならない場合は退職日よりも前にするなど、調整が必要です。
健康保険や共済組合には「任意継続」という仕組みがあり、保険料を全額自己負担することで退職後も任意で加入を継続することができます。
ただし、任意継続では傷病手当金の給付はなく、任意継続期間中に発生した病気やケガが原因で仕事に就けなくなったとしても、傷病手当金は支払われません。
傷病手当金を受給するには、次の4つの条件をすべて満たした上で自ら申請を行う必要があります。
「業務外」で生じた病気やケガの療養のため、仕事を休んでいることが1つ目の条件です。ここでいう療養には、健康保険等が適用される診療や入院のほか、自宅療養も含まれます。
自費診療の場合については、仕事に就けないことの証明があれば対象になります。ただし、美容整形など病気とみなされないものは対象となりません。
仕事中(業務上)や通勤中に生じた病気やケガが原因の場合、労災保険の補償対象になるため、傷病手当金は支払われません。
療養のために休業前にしていた仕事ができない状態であることが2つ目の条件です。仕事に就けない状態であるかは、担当医など療養担当者の意見などをもとに、本人(被保険者)の仕事内容を考慮して判断されます。
休業前に行っていた本来の業務に耐えられるかが基準となるため、同じくらいの労働制限が必要な場合でも、その人の仕事内容によって、傷病手当金が支給される場合と支給されない場合がでてきます。
傷病手当金は、療養のため仕事を連続して3日間休んだ後、4日目以降の仕事に就けない日を対象に支給されます。この「待機3日間」については給料の支払いの有無は問われず、有給や公休日(会社で定められた休日)も含んで働けない日をカウントします。
仕事中に業務外の理由で生じた病気やケガによって仕事に就けない状態となった場合、その日は実際には出勤していますが、待機3日間の1日目としてカウントします。
出典:協会けんぽ
待機3日間は「連続」していることが条件であり、休業日が累計で3日以上になっても連続していなければ傷病手当金は支給されません。2日休んで1日出勤するということを繰り返していると、いつまで経っても傷病手当金を受け取れないのです。
一度待機が完成した後は連続して休まなければならないという条件はなく、休業と出勤を繰り返していても、仕事を休んで給料が支払われなかった日に対して傷病手当金が支払われます。
傷病手当金は、休業中の収入を保障し生活を支える制度であり、仕事を休んでいても給料が支払われている場合には支給されません。ただし、支払われる給料が傷病手当金の額を下回る場合には、その差額分は支給されます。
傷病手当金は仕事復帰後の事後申請が原則であり、勤務先の担当部署などを介して手続きを行います。
ですが休業が長期にわたる場合、事後申請ではその間の収入が途絶えてしまいます。この場合、1カ月など期間を区切って申請を行い、復帰までの間に傷病手当金を分割して受け取るのが一般的です。分割して受け取る場合には、その都度申請が必要です。
傷病手当金の申請手続きは次のような流れで進めていきます。
傷病手当金の申請では、傷病手当金請求書のほか、必要に応じて次のような書類を準備します(協会けんぽの例)。
支給開始日以前12カ月以内に勤務先(事業所)の変更があった人 | 以前の事業所の名称、所在地、その事業所に使用されていた期間がわかる書類(原本) |
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障害厚生年金の給付を受けている人 | ・障害厚生年金給付の「年金証書」またはこれに準ずる書類のコピー ・障害厚生年金の額、支給開始年月日を証明する書類および直近の年金額を証明する書類(「年金額改定通知書」など)のコピー |
老齢退職年金の給付を受けている人 (申請期間が資格喪失後の場合) |
・老齢退職年金給付の「年金証書」またはこれに準ずる書類のコピー ・老齢退職年金の額、支給開始年月日を証明する書類および直近の年金額を証明する書類(「年金額改定通知書」など)のコピー |
労災保険から休業補償給付を受けている人 | 「休業補償支給決定通知書」のコピー |
ケガが原因の場合 | 「負傷原因届」 |
第三者による病気・ケガが原因の場合 | 「第三者行為による傷病届」(交通事故/その他) |
被保険者が亡くなり、相続人が請求する場合 | 被保険者との続柄のわかる「戸籍謄本」など |
書類の名称や書式などは、加入している健康保険組合などによって違いがあります。
申請書類は被保険者情報と申請内容を自身で記入し、勤務状況や給与の支払い状況については勤務先の担当者に、病気やケガの状況と仕事ができないことの証明は療養担当者(担当医など)に記入してもらいます。
出典:協会けんぽ
療養のために休んだ期間(申請期間)には、待機期間(3日間)と公休日(土日祝)を含めて記入します。
仕事の内容は「事務員」などではなく、「経理担当事務」「プログラマー」「自動車組立」など具体的に記入します。
退職後の申請の場合、被保険者証の番号や仕事内容は、在職時のものを記入します。
出典:協会けんぽ
出典:協会けんぽ
病気やケガの状況や初診日、仕事ができない期間などについては、傷病手当金申請書類のうちの「療養担当者の意見書(協会けんぽの場合)」を、担当医など療養担当者に直接記入してもらう必要があります。意見書を診断書で代用することは認められません。
医師から意見書をもらうには料金がかかりますが、保険が適用されるため、3割負担の人であれば300円です(医療点数100点)。
記入した申請書は、保険者(健康保険組合など)へ提出します。勤務先の担当部署を介して提出するケースが多いですが、退職後の申請など、自身で提出しなければならない場合は郵送などで提出します。
協会けんぽの場合、申請書が協会けんぽに到着してから原則10営業日後に、指定の口座に振り込まれます。
傷病手当金を申請する際には、次のような点に注意が必要です。
傷病手当金は実際に働けなかった日を対象に支給されるもので、医師などによる証明日は、申請期間(働けなかったことを証明する期間)以降の日付でなければなりません。医師にいつまで休んでくださいといわれたような場合でも、その期間分を事前に申請することはできません。
療養のために休んだ期間に公休日(会社で定められた休日)が含まれている場合には、その公休日も傷病手当金の支給対象になります。
土日祝日を公休日としている会社が多いですが、勤務先の会社がそれ以外の曜日などを公休日としていれば、当然その日が対象になります。申請期間の日数を数える際には、数え間違えないよう注意しましょう。
申請期間の途中で転院した場合には、それぞれの病院で治療を受けた期間について、両方の病院の医師などに意見書を記入してもらう必要があります。
傷病手当金は2年経つと時効により受給できなくなります。受給開始日ではなく、それぞれの支給対象日の翌日から起算して2年間で時効になります。申請漏れのないようにしましょう。
傷病手当金は、サラリーマンや公務員などが業務外の病気やケガで働けなくなった場合に、生活の大きな支えとなる制度です。
申請には、病気やケガによりもとの仕事ができない状態であることを証明してもらう必要があり、担当医など療養担当者が意見書に直接記入する形で行います。一般的な診断書では代用できないため注意しましょう。