- 個人事業主が事務所や店舗として借りて支払っている家賃は全額経費にできる。
- 自宅で事業を行っている場合は、事業として使用している割合に応じて按分計算する必要がある。
- 帳簿には按分計算した比率を必ず摘要欄に記載する。
公開日:2020年5月4日
個人事業主で支出した費用については、経費として計上することで所得を圧縮して節税することができます。ただ、個人事業主は法人に比べると経費として認められる範囲が非常に狭いので、経費漏れのないよう徹底することが大切です。
そんな中、よくご質問をいただくのが家賃の取り扱いについてです。そこで本記事では、家賃を経費として計上する場合の注意点について詳しく解説します。
自宅とは別に事務所を借りて個人事業を営んでいる場合は、支払っている家賃全額が経費として認められます。これは当然といえば当然です。
例えば、個人事業でラーメン屋をしていた場合、ラーメン屋の店舗の家賃は全額経費として計上して節税することが可能です。問題なのは、次のようなケースでしょう。
個人事業主の方の中には、事業が拡大するまで自宅兼事務所のような形で、自宅で事業を行うケースがよくあります。最近では、業種によってはパソコンさえあれば営業することができるので、余計な出費を抑えるために自宅で起業する人は少なくありません。
このケースでは、次の2つのパターンが考えられます。
自宅が賃貸物件の場合は、実際に支払っている家賃が経費として計上できるかどうかが問題となります。結論からいうと、経費にできますが全額ではなく一部に限られます。
あくまで経費として認められるのは、事業として使っている限度までです。自宅ですから100%事業というのは理屈が通りませんので、概ねどの程度の割合を使っているのかで割合を算出することになります。
例えば、3Kの物件で1室だけ事業用で使うのであれば、家賃9万円だとして3等分して3万円だけ事務所の家賃として経費に計上するやり方です。このように事業として使用している部分を按分して計算します。
賃貸ではなく、すでに所有しているマイホームの1室で個人事業をしている場合は家賃が発生していません。このような場合、自分から家賃をとって自分に支払うといった経理処理はできるのでしょうか。
結論からいうと、できません。ただし、ローンで購入しているマイホームで未だ返済中の場合は、返済利息を事業として使用している部分と按分計算して必要経費にすることは可能です。
返済利息の一部を経費として計上する場合、注意しなければならないのが住宅ローン控除です。住宅ローンを組んでいる方の多くは住宅ローン控除を利用しており、住宅ローンの年末残高の1%の税額控除が受けられます。
非常に節税効果が高いのですが、仮に利息の一部を経費として計上してしまうと住宅ローン控除に影響が出てきてしまうのです。
そもそも住宅ローン控除は、購入する物件が自分の住居を購入するということを前提にして低金利で貸付を行っているので、事業として使用することは想定していません。
そのため返済利息を経費に按分して仕分けしてしまうと、使用している部分の住宅ローン控除についても受けられなくなってしまうのです。
物件価格にもよりますが、これはかなりの被害を受けることになります。そのため、経費にできるからといって安易に経費にすることはあまりおすすめできません。
家賃を経費として計上する際には、前提として賃貸借契約書が必要になります。時々、大家さんや管理会社に領収書を出すよう要求する人がいますが、基本的には賃貸借契約書で代用することが可能です。
ただし、賃貸物件の場合は賃貸借契約書があったとしても、もう1点注意しなければならないことがあります。それは使用用途です。
例えば、居住用のアパートに住んでいる場合、賃貸借契約書の使用目的の欄に「住居専用」と書かれていることがあります。おそらく普通の居住用賃貸物件には、ほぼみんなこの記載があります。
もしも、自宅で個人事業をしている方の賃貸借契約書に住居専用と書かれていると、契約違反に該当する可能性が出てくるため注意が必要です。住居として借りている部屋については、事務所として勝手に使用することができません。
どうしても自宅兼事務所にしたい場合は、事前に大家さんに相談して許可をもらい、その旨を書面で出してもらう必要があります。ネット通販など、人の往来がなく他の住戸への影響がほとんどないような場合であれば認められる可能性もあります。
人を呼んでセミナーをやったり、物を販売するとなってくると、大家さんの許可が下りなかったり、そもそも行政側の許認可で引っかかる可能性があるので十分注意しましょう。
こういう話をすると、それなら経費にはしないなら大丈夫かとよく聞かれますが、決して大丈夫ではありません。賃貸借契約書の使用用途はあくまで実態で判断しますので、家賃の一部を事務所の経費として青色申告や白色申告しているかどうかは関係ありません。
実際に事務所として営業している時点で、それは契約違反です。例えば、物件の集合ポストに無断で事務所名の表札を出すことも、契約違反に該当する可能性がありますので十分注意しましょう。
自宅兼事務所の家賃を経費として計上する場合の按分計算について実際にやってみます。
例えば、家賃6万円の物件で個人事業を計画したとします。賃貸借契約書の使用用途の問題もクリアできているとして、30㎡あるうちの10㎡を事務所として使用してパソコンなどを設置しました。この場合、経費として計上できる家賃は次のように計算します。
これが実際に経費として計上できる家賃額になります。実際に使用している割合を床面積で出すことが難しいという場合は、使用する時間など何らかの合理的な説明がつく方法によって、家賃を按分計算します。
例えば、6時間だけ事業の用に供している場合であれば、6/24の割合で家賃を按分計算して、経費として申告するといった対応を検討する必要があるでしょう。いずれにしても、合理的な根拠があることがとても大切です。
このようにして計算した家賃は、地代家賃に仕訳をして経費として計上します。例えば、先ほどの事例のように2万円を家賃として計上する場合は、次のように記載します。
借方:地代家賃20,000円
貸方:普通預金20,000円
摘要:按分比率1/3
このように必ず按分比率を記載するようにしましょう。按分比率が書かれていないと、実際の家賃を全額経費として計上していると誤解されて、税務調査の対象になる恐れがありますので注意しましょう。
個人事業主の方が支払う家賃は、経費の中でも比較的大きな金額であり、しかもランニングコストとして発生するものなので、経費にできるかどうかは課税される税金を大きく変動させることになります。
特に賃貸の自宅を事務所として使用している方で、大家さんからの許可が得られている場合については、家賃を按分計算して経費として計上することが節税につながります。
按分割合の判断が難しいという場合は、すぐにでも税理士に相談をしてできるだけ経費として計上することをおすすめします。
また仕訳をする際には、必ず按分比率を摘要欄に記載することも重要です。記載が漏れていると、全額を計上していると誤解されますので気をつけましょう。
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