- 法人税の計算は、会計上の利益に調整項目を加味して計算する。
- 会計上の費用の多くは、税務上、損金として認められる。
- 費用として計上しても、税務上は損金として認められない項目がある。
- 損金として認められない項目を把握することで節税対策となり得る。
公開日:2020年9月13日
会社の経営では法人税を避けることはできません。法人税を理解するうえで、「益金」「損金」という言葉の理解は非常に重要です。特に「損金算入」「損金不算入」という言葉の意味・内容については、しっかり理解しておくべきでしょう。
今回は、節税に関わる「損金算入」「損金不算入」についてわかりやすく解説していきます。
個人が事業から得た利益(所得)に対して課される税金が所得税であるのに対し、法人税は、会社が事業から得た利益に対して課される税金のことをいいます。
会計上、会社の利益は「収入」から「費用」を差し引いて計算します。一方、法人税は「益金」から「損金」を差し引いて計算される所得に法人税率をかけて計算します。
原則として「収入」=「益金」、「費用」=「損金」となりますので、会計上の利益に法人税率をかけることで法人税の金額を簡単に求めることができます。
原則として、法人税額を求めるには会計上の利益をベースに計算します。しかし、税務では課税の公平性や政策的理由の観点から、収益と益金、費用と損金が完全にイコールとはなりません。
この場合、会計上の利益を調整して法人税を計算する必要が出てきます。
たとえば、会計上は費用として計上したにもかかわらず、法人税を計算するうえでは費用(損金)として認められない場合、会計上の利益にその費用分をプラスする調整を行う必要があります。この調整項目のことを「損金不算入」といいます。
会計上の利益にプラスしたりマイナスしたりする調整項目や調整が不要な項目をまとめると、以下のようになります。
上で述べたとおり、費用と損金がイコールとならない場合もありますが、多くの費用は損金として認められています。つまり、「多くの費用=損金となる」と考えていいでしょう。ここでは、「費用=損金」と認められるものを勘定科目別に見ていきます。
勘定科目とは、何らかの取引を行ったとき、その取引を会計帳簿に記帳する際に使用する項目のことです。たとえば、経費の中でも通信費や旅費交通費、会議費などさまざまな勘定科目があります。
このような取引を、勘定科目を使って記帳する作業を「仕訳」といいます。主な経費の勘定科目は以下のとおりとなり、すべて税務上も損金と認められると考えていいでしょう。
勘定科目 | 内容 |
---|---|
広告宣伝費 | ホームページやパンフレット、ちらしなどの宣伝費用 |
会議費 | 打合わせ、会議の飲食代など |
旅費交通費 | 電車、タクシー、バス代、出張宿泊代など |
通信費 | 電話料、インターネット利用料、切手代、宅配代金など |
保険料 | 生命保険や損害保険の保険料 |
地代家賃 | 会社や店舗、事務所、駐車場の賃借料 |
水道光熱費 | 電気代、水道代、ガス代など |
事務用品費 | 文房具などの購入費用 |
外注費 | 外部業者への業務委託費用 |
研修費 | セミナー費用や研修に参加するための費用 |
雑費 | 他の勘定科目に当てはまらない少額の費用 |
上で述べたとおり、会計上の費用と税務上の損金は一致することがほとんどですが、なかには会計と税務の目的の違いからイコールとならない項目があります。
それでは、損金と認められない代表的な費用である以下の6項目について見ていきます。
役員報酬・賞与は、原則として損金に算入されます。しかし、税務上も役員報酬が損金と認められるためには、「年間を通して毎月同額でなければならない」などの要件が求められています。
役員報酬は社長自身が自分で自分の報酬を決めることができるという性質があります。したがって、たとえば期末近くになって「今年は利益が出たから、社長の報酬を増やそう」「役員報酬や賞与を増やして会社のお金を使いこもう」ということもできてしまいます。
また、役員報酬や賞与の額を自由に変えることができると、法人税を不当に抑えることも簡単にできてしまうので、これを防ぐため税務では厳しい要件を求めています。
交際費とは、取引先と良好関係を維持するために贈答や接待を行う場合に支出する費用のことをいいます。また、寄付金とは、事業と直接関係はないものの、自治体や地域の団体などに見返りを期待することなく金銭やその他の経済的利益を提供することをいいます。
税法では、交際費も寄付金も一定額までは損金と認められますが、限度額が定められており、その限度額を超えると超えた金額は損金算入が認められません。
交際費や寄付金を際限なく認めてしまうと、多額の交際費や寄付金を支出して不当に税負担を免れるおそれがあるためです。
我が国にはさまざまな種類の税金があります。この税金にも損金になるものとならないものがあります。法人税や住民税、加算税、延滞税などは損金とはなりません。一方、法人事業税や法人市民税、印紙税、固定資産税、不動産取得税などは損金として認められています。
固定資産は、取得価額を資産の種類ごとに決められた「耐用年数」に応じて、毎期規則的に費用化することになっています。これを減価償却といいます。
そして、税務では資産ごとに「法定耐用年数」が定められており、この耐用年数で計算した減価償却費を超える減価償却費を費用として計上している場合、超えた部分は損金として認められません。
たとえば、200万円の事業用機械を会社独自の償却方法に従って5年で償却し、200万円÷5=40万円を当期の減価償却費として計上したとします。一方、税務上の法定耐用年数は10年であったとすると、償却限度額は200万円÷10=20万円ということになります。
この場合、償却限度額を超えた部分の40万円-20万円 = 20万円については、損金処理は認められません。
貸倒引当金や賞与引当金など、将来発生する可能性のある費用を見積もり、その見積もり額を当期の費用とすることを引当金繰り入れといいます。
税務上は、引当金については要件や計算方法が厳格に定められており、また損金として認められる金額にも限度額があります。
棚卸資産や固定資産など、取得した当初より評価額が下がった場合には、会計上「評価損」を計上します。しかし、これがそのまま税務上損金と認められる場合は少なく、災害による場合など認められる場合は限られています。
節税対策は会社の規模によって異なることもありますが、さまざまな方法があります。
法人税を計算する際において、損金算入となるものと損金算入とならないものがあります。損金算入の対象となるものを最大限活用することで、節税につながります。それでは、いくつかの節税対策方法を見ていきましょう。
貸倒引当金とは、回収見込みの少ない金額を見積もり、債権の金額から差し引くときに必要な勘定科目で、貸倒引当金を使うことにより債権の正当な価値(時価)を貸借対照表上であらわすことができます。
上で述べたとおり、貸倒引当金の計上には限度額があります。限度額を超える貸倒引当金を計上した場合、超えた分については損金不算入となります。このことはつまり、限度額いっぱいまでは損金に算入することができるということになります。
貸倒引当金を限度額まで計上することで「損金」が増え、所得を減らすことができ、節税が可能となります。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティー共済)とは、仮に取引先が倒産した場合など、それにともない自分の会社が経営難や連鎖倒産に陥ることを防ぐための制度です。掛金を損金に算入できる税制優遇が受けられます。
生命保険料や中小企業倒産防止共済(経営セーフティー共済)に加入すれば、解約時や経営難の際に一定の金額を返戻金として受け取ることができます。したがって、これらの保険料の支払いについては資産へ計上すべき支出といえます。
しかし、これら保険への加入で、その全額もしくは一部を「損金」として計上することが認められています。
社内の交際費や慰安旅行(社員旅行)費は、常識的な範囲での支出は「損金」として認められます。ただし、開催した年月日や参加した者の人数、利用場所、費用の金額などの詳細を記した書類は税務調査の際に必要な資料となりますので、必ず保管しておいてください。
古くなった備品などの固定資産や、資産として残っている在庫商品を廃棄することで、資産に計上されていた金額を「損金」として計上することができます。この場合は「廃棄証明書」など廃棄を証明できる書類を入手し、保管してください。
減価償却資産(固定資産)は原則として、毎期一定の方法で費用化するのが原則です。
この点、会社の規模(資本金の金額)にもよりますが、青色申告をしている中小企業が30万円未満の減価償却資産を購入した場合、購入にかかった金額を一括で「損金」として処理することが認められています。
今回は、法人税の計算するうえで理解しておきたい損金算入・損金不算入について解説いたしました。特に損金不算入項目を理解することは法人税の節税対策をするうえでも、しっかり理解しておきたい項目となります。
損金不算入項目は決まりきった項目なので、事例を通して理解することをおすすめします。