- 1回目と同一の傷病の場合、支給開始日から1年6カ月以内の休業に対し傷病手当金が支給される。
- 1回目と別の傷病の場合、連続3日間した4日目以降の休業に対し傷病手当金が支給される。
- 完治(医学的治癒・社会的治癒)後であれば別の傷病とみなされる。
- 傷病手当金の受給中に退職した場合、仕事に就ける状態に回復した後は傷病手当金を再受給できない。
公開日:2020年9月16日
傷病手当金を2回目以降も受給できるかは、休業した時期や休業の理由が同じ傷病とみなされるのか、別の傷病とみなされるのかによって大きく変わってきます。ここでは想定される状況ごとに、傷病手当金を2回目以降も受給するための条件と注意点について解説します。
目次
傷病手当金は、業務外の理由による病気やケガで元の仕事に就けなくなった人の生活を支える制度であり、次の条件を満たす場合に、給料の約3分の2相当額の給付を最長で1年6カ月の間受けることができます。
サラリーマンや公務員の人など、健康保険や共済保険の加入者が対象であり、自営業者やフリーランスの人など、国民健康保険の加入者は傷病手当金を受給できません(制度自体はあるが実施している自治体がないため)。
傷病手当金を受け取った後に復職し再度休業した場合、2回目以降の傷病手当金が支給されるかは、前述の支給条件を満たしていることに加え、仕事を休んだ時期や、1回目の受給時と同じ病気やケガが原因なのか、別の病気やケガが原因なのかによって違ってきます。
業務外の病気やケガで仕事を休み、傷病手当金を受け取った後に仕事に復帰し、再度同じ病気やケガが原因で仕事を休んだ場合、最初に傷病手当金が支給された日(支給開始日)から、1年6カ月以内であれば傷病手当金が支給されます。
2回目以降の支給には3日間の待機期間はなく、1日目の休業から傷病手当金が支払われます。
この1年6カ月は暦上の期間であり、仕事復帰後に出勤した日数も含んでカウントします。実際に傷病手当金が支払われた日数ではないので注意しましょう。また傷病手当金が支給されない待機期間は、支給期間の1年6カ月に含まれません。
出典:協会けんぽ
傷病手当金の支給開始日から1年6カ月が経過した後に、同じ病気やケガが原因で仕事を休んだ場合でも、完治後の再発と認められる場合には、別の傷病によるものとして傷病手当金が支払われます。
社会保険(健康保険)において「完治」したかどうかは、医学的に治癒したかという点のほか、「社会的治癒」があったと認められるかを考慮して判断されます。
社会的治癒が認められる状態とは、相当期間にわたり予防的医療(※経過観察や定期検査など)を除く医療の必要なく通常の生活を送り、仕事に就いている状態をいいます。
うつ病などの精神疾患やがんなど、医学的に完治したと判断することが難しい病気もあります。そのような病気でも、医療の必要がなく普通に仕事ができるまでに回復し、その状態が相当期間経過した後に再発したのであれば、別の傷病として傷病手当金が支給される可能性があるのです。
社会保険審査会の傷病手当金に関する裁決によると、精神障害の場合、再発予防のための通院や投薬を継続していていた場合でも、それが予防的医療と認められ、勤務を含む社会生活が維持されていれば、その間は社会的治癒の状態であったとする見解が示されています(平成26年(健)第18号・平成26年10月31日裁決)。
傷病名 | 社会的治癒に相当する期間 | 傷病手当金の支給可否 |
---|---|---|
腰部脊椎管狭窄症 (平成25年(健)第418号) |
約10年 | ○ |
クローン病 (平成25年(健)第830号) |
約2年 | ○ |
抑うつ状態・うつ病 (平成26年(健)第18号) |
約6年11カ月 | ○ |
脳腫瘍 (平成26年(健)第130号) |
約5年6カ月 | ○ |
心疾患・糖尿病 (平成26年(健)第326号) |
約1年7カ月 | ○ |
うつ病 (平成25年(健)第1392号) |
約3カ月 | × |
出典:厚生労働省HP「社会保険審査 裁決例一覧」より筆者作成
完治と認められるために必要な社会的治癒の期間は、おおよその目安として1年以上ですが、明確な基準はなく傷病の内容や個別の状況によって違いがあります。
最終的には給付を行う保険者(健康保険組合など)の判断となるため、自身で判断せず保険者や勤務先の担当部署に確認するようにしましょう。
前回の支給原因となった病気やケガが完治したと認められ、別の傷病として新たに傷病手当金が支給される場合には、改めて待機期間が必要となります。支給期間は新たな支給開始日から最長で1年6カ月です。
1回目の傷病手当金の原因となったときとは別の病気やケガで仕事を休んだ場合は、新たに傷病手当金の支給対象となります。改めて3日間連続で仕事を休んだ後、4日目以降の休業に対して傷病手当金が支給され、支給期間は新たな支給開始日から最長で1年6カ月です。
胃がんの治療のため休業し、転移により大腸がんと診断された場合など、傷病名は違っても当初の傷病と関連があると判断され、同一の傷病とみなされることがあります。
この場合の支給期間は、1回目の支給原因における支給開始日から起算して1年6カ月であり、後から生じた傷病によって支給期間が延長されることはありません。
同じ箇所を骨折したような場合など、傷病名が同じであってもすでに完治し、1回目と2回目の傷病に関連がなければ別の傷病として傷病手当金が支払われます。
傷病手当金の受給中に別の病気になったり、ケガを負ったりしても、傷病手当金は重複して支払われず、受け取れる傷病手当金の額は変わりません。
ただし原因が異なる傷病であれば、支給期間はそれぞれについて計算されるため、最初の傷病の支給期間終了後に別の傷病の支給期間が残っていれば、残った支給期間中の休業に対して傷病手当金が支払われます。
前職時に傷病手当金を受給し、転職後に同じ傷病が原因で再度傷病手当金を受給する場合、加入する健康保険(保険者)が変わっていても支給期間は通算されます。この場合も支給期間は当初の支給開始日から1年6カ月です。
2回目以降の傷病手当金の申請は、おおむね1回目の請求と変わらず、傷病手当金支給申請書を記入し、保険者(健康保険組合等)に提出して行います。
ただし傷病手当金支給申請書以外の添付書類については、基本的には変更があるもののみ提出します。必要書類は加入ししている健康保険によっても違うため、あらかじめ確認しておくようにしましょう。
傷病手当金支給申請書は、被保険者情報と申請内容を自身で記入し、勤務状況や給与の支払い状況については勤務先の担当者に、病気やケガの状況と労務不能と認められる期間の証明は療養担当者(担当医など)にそれぞれ記入してもらいます。
申請ごとに申請期間が変わるため、傷病手当金支給申請書の使い回しはできません。
同一傷病(関連する傷病を含む)により2回目以降の申請を行う場合、傷病手当金支給申請書には「何回目の申請であるか」の回数を記入し、被保険者情報や申請期間などの申請情報は、1回目の申請と同様に、今回申請する内容で記入します。
出典:協会けんぽ
担当医による意見書は申請ごとに必要であり、その都度料金がかかります。傷病手当金の意見書の発行料には保険が適用されるため、3割負担の人であれば300円です(医療点数100点)。
出典:協会けんぽ
退職日(健康保険等の資格喪失日前日)までに継続して1年以上の被保険者期間がある人の場合、待機期間経過後、傷病手当金を受け取れる状態で退職すると、退職(資格喪失)後にも引き続き傷病手当金を受給できます。
傷病手当金は、退職後に仕事に就ける状態に回復した時点で受け取る権利がなくなり、その後再び仕事に就けない状態になったとしても再受給できません。
出典:協会けんぽ
退職後も引き続き傷病手当金を受け取るには、休業(欠勤)状態のまま退職する必要があります。退職の挨拶や引き継ぎなどのため退職日当日に出勤してしまうと、この条件を満たさず、退職後に傷病手当金を受け取れなくなってしまうため、注意しなければなりません。
どうしても出勤しなければならない用事があるならば、退職日の前日までに済ませておくようにしましょう。
健康保険や共済組合には「任意継続」という仕組みがあり、保険料を全額自己負担することで、退職後も一定期間(通常2年間)は任意で加入を継続できます。
ただし、任意継続期間中には傷病手当金の制度はなく、任意継続期間中に発生した病気やケガが原因で仕事に就けなくなっても、傷病手当金は支払われません。
傷病手当金を2回目以降も受給できるのは、前回と同一の傷病で支給開始日から1年6カ月以内に休業した場合、あるいは別の傷病で休業した場合です。同じ傷病が再発した場合でも、完治後の再発であれば別の傷病とみなされ、再度傷病手当金を受給できます。
完治とみなすか、傷病手当金を支給するかの最終的な判断は保険者(健康保険組合等)が行います。傷病手当金が支給される可能性があるなら、まずは申請してみましょう。