- ケガや病気で会社を休み、給料が出ない時に「傷病手当金」が受け取れる。
- 申請をしないと受け取れない。
- 最短4日間の休業から申請できる。
- 給付金は給料の3分の2相当、給付金の端数処理についても解説。
公開日:2019年11月21日
勤め先で健康保険に加入していると、病気やケガのとき3割の自己負担で医療機関を受診することができます。
この健康保険には、病院での自己負担額を抑える以外に、病気やケガで働けなくなった時の収入をカバーする保障もあります。それが「傷病手当金」です。
身近な病気やケガでも使えますが、自分で申請しないと受け取れません。申請手続きも難しくないので、病気やケガに備えて知っておきましょう。
目次
病気やケガが理由で仕事を休んだ場合、休んだ間は給料が貰えなかったり、給料が減ってしまったりすることがあります。
この場合に、減った収入の一部を保障してくれるのが傷病手当金です。健康保険の被保険者である人が利用できます。
勤務先で、健康保険に加入している本人が対象です。市区町村で加入手続きをする「国民健康保険」に加入している場合は、傷病手当金制度はありません。
どちらが保険者になっている健康保険も対象になります。親や配偶者の「被扶養者」になっている場合は、傷病手当金を受け取ることはできません。
医療機関を受診するときに使う「健康保険証」をご覧になってみてください。被保険者本人であれば、自分の勤め先が書いてあり、”本人(被保険者)”といった印字があります。この場合、傷病手当金を申請できる「被保険者」です。
家族の扶養になっている場合は、家族の勤め先が書いてあり、”家族(被扶養者)”といった印字があります。
傷病手当金を受給するためには、次の1~4の要件をすべて満たす必要があります。
必要と認められれば、自宅で療養する場合や、自費診療を受けた場合も対象になります。一方で美容を目的とした整形手術は、対象になりません。
業務災害・通勤災害によって負ったケガや病気は、対象になりません。この場合は、健康保険ではなく労災保険から給付が行われるからです。
給与明細には「労災保険料」と書かれていることはないので、「自分は労災保険の対象になるの?」と分からない人もいるでしょう。
実は、ほとんどの労働者は労災保険の給付を受けることができます。労災保険の保険料は、事業主が全額を支払っています。労働者を1人でも雇ってる事業主は、当然に労災保険が適用されます(一部の農林水産業を除く)。
アルバイトでも、勤務時間に関わらず対象になります。労働災害が起こった場合は、労災保険から給付を受けましょう。
ここでいう仕事の内容は、傷病手当金を受ける本人の本来の業務に就けるかどうかで判断します。
3日間継続して、休業している必要があります。傷病手当金が受け取れるのは、早くても4日目以降の期間です。
1日 | 2日 | 3日 | 4日 | 5日 | →4日目から受給 |
---|---|---|---|---|---|
休み | 休み | 休み | 休み | 休み |
3日間の待期期間には、会社の定休日や、有給休暇も含めることができます。
勤務時間中に病気が発生して途中から働けなくなった場合は、この1日目も待期期間に含めます。一方で、退勤後に働けなくなった場合は、翌日から待期期間を計算します。
1日 | 2日 | 3日 | 4日 | 5日 | →4日目から受給 |
---|---|---|---|---|---|
勤務の途中から休業 | 休み | 休み | 休み | 休み |
待機期間は、同じ傷病について1度だけ計算します。その後に出勤日を挟んで、再度休業が必要になったとしても、2回目以降は「連続して3日の待期期間」は必要はありません。
1日 | 2日 | 3日 | 4日 | 5日 | →5日目から受給 |
---|---|---|---|---|---|
休み | 休み | 休み | 出勤 | 休み |
傷病手当金を受け取る休業日に、事業主から給料が支払われているときは、原則として傷病手当金は支給されません。
有給休暇を使っている日は、待期期間に数えることはできますが、”有給”の休暇なので傷病手当金は支給されません。
なお、給与が支払われていても、その額が傷病手当金の額よりも少ないときは、その差額が支給されます。
傷病手当金以外の給付金を受け取ることができる場合は、傷病手当金の金額が調整されたり、受給額がゼロになったりします。同じ疾病に限らず、別の疾病で給付金を受け取っている場合も調整の対象になります。
傷病手当金は、同じ病気・ケガに対して支給開始日から1年6ヵ月を限度に支給されます。
支給開始日とは、3日間の待期期間が終わったあと、初めて傷病手当金を受け取る日です。
途中でケガ・病気が治って出勤していた期間も、この1年6カ月に含みます。そのため、1年6カ月中に出勤した期間がある場合、受け取ることができる日数は1年6カ月より短くなります。
傷病手当金は、休業1日ごとに支給されます。1日あたり支払われていた報酬の額を「標準報酬月額」をもとに算定し、その3分の2程度が傷病手当金の額になります。
標準報酬月額とは、社会保険料を決める際に基準にするおおよその月給のことです。その人に支払われている4~6月の賃金をもとに年1回見直されるほか、昇給や減給があった際にも変更されます。
次のような収入の場合、傷病手当金の額はいくらになるでしょうか。
1~9月 | 標準報酬月額 30万円 |
---|---|
10~12月 | 標準報酬月額 34万円 |
翌1月~ | 休業 |
(30万円×9カ月 + 34万円×3カ月)÷12=31万円
「継続する12カ月間」が対象になります。例えば入社してから5カ月しか経っていない場合は[5カ月間の標準報酬月額の合計額÷5]で計算します。
このように支給開始日以前の期間が12カ月に満たない場合、30万円が上限になります(平成31年4月以降に支給開始の場合)。
31万円÷30=10,333.33… ≒10,330円
10円未満の端数は四捨五入します。
10,330円 × 2/3 =6,886.66… ≒6,887円
1円未満の端数は四捨五入します。
1日あたり6,887円、30日あたり206,610円の傷病手当金が受け取れます。
健康保険事業を行う「保険者」は、大きく2つに分けられます。
健康保険の事業を行っているのが「健康保険組合」である場合、法律で決まった金額にプラスして独自の給付金を支給しているところもあります。
例えば1日の給付額が本来は「3分の2(約67%)」のところ「80%、85%」などに増額されたり、給付期間が「最長1年6カ月」のところ「2年、3年」と長く受け取れたりする場合があります。詳しくは、加入している健康保険組合に確認しましょう。
傷病手当金は、実際に休業したあとに申請できます。休業”見込み”では申請できません。休業期間が4日~1カ月程度であれば、疾病が治り復職してから申請すればよいでしょう。
休業の1日ごとに2年を経過すると、時効によって権利が消滅してしまい請求できなくなります。
数カ月にわたって休む場合は、何日分をまとめて申請するかは法律で決まっていません。協会けんぽでは、給与の締め切り日ごと・1カ月単位の申請を勧めています。
(全国健康保険協会ホームページより)
申請書には、自分を含めて3者の記入欄があります。
申請書は、健康保険事業を行う保険者によって違います。協会けんぽであれば、ホームページから印刷して使用できます。
医師の記入をもらってから、会社を経由して申請するのがスムーズでしょう。協会けんぽの場合は、事業主経由ではなく、協会けんぽに直接郵送することもできます。
治療が長引いて仕事に就くことができず、やむなく会社を退職することもあるかもしれません。条件を満たせば、退職日のあとも引き続き傷病手当金が受け取れる場合があります。
2つの条件をクリアする必要があります。
まず、退職した時点で傷病手当金を受けることができる状態にあることです。退職日に出勤したときは、退職後の傷病手当金は受け取りできません。
加えて、引き続き1年以上の被保険者期間があることです。「引き続き1年以上の被保険者期間」は、1日も空白期間のない被保険者期間です。
空白がなければ、転職で勤務先が変わったり、組合から協会けんぽに保険者が変わったりしても、期間を通算することができます。任意継続被保険者であった期間は含めません。
たとえばインフルエンザで1週間会社を休んだ場合も、傷病手当金は受け取ることができるのでしょうか?
受給要件を満たせば、もちろん受け取ることができます。1週間の休みであれば、最大4日分の手当金です。(休業1週間ー待機期間3日間)
ですが、休業が数日程度であれば傷病手当金を受け取らずに有給休暇を使うという選択肢もあるでしょう。
有給休暇 | 傷病手当金 | |
---|---|---|
金額 | 給与の100% | 給与の3分の2 |
開始 | 1日目から | 4日目から |
日数 | 個人別に付与されている日数
勤務年数・勤務日数によって~20日(1年につき) |
1年6カ月 |
対象者 | 雇われてから6カ月継続して勤務している
8割以上出勤している |
健康保険の被保険者 |
休業開始から3日間は有給休暇を使い、4日目から傷病手当金を申請することもできます。
傷病手当金の申請の際には、医療機関にも書類を記入してもらう必要があるので、手間はゼロではありません。状況によって、どちらの制度を使うか判断するとよいでしょう。
傷病手当金は、申請しないと受け取れない給付金です。病気・ケガで4日以上休業する際は、勤務先にも相談して受給漏れのないようにしましょう。
なお、社会保険と国民健康保険の違いについてはこちらで詳しく解説しています。