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出産で高額療養費は適応できる?適用の有無や払い戻し金額の速算表をご紹介

出産で高額療養費は適応できる?適用の有無や払い戻し金額の速算表をご紹介

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岡崎 隆宏

岡崎 隆宏

社会保険労務士、1級FP技能士、CFP

社会保険労務士・1級ファイナンシャルプランニング技能士・CFP®。 1児の父親として育児に携わりながら、妻の妊娠・出産に立ち会う中で、妊娠・出産における社会保障制度についてどうあるべきかについて真剣に考える。 現在は、社会保障とお金の関係について講演やブログで情報を発信することで、一人でも多くの人にお金と社会保障について正しい認識を持ってもらうための活動を行っている。 得意分野は「妊産婦等の社会保障制度」「年金」「ワークライフバランス」「家計見直し」など。

この記事のポイント

  • 高額療養費は、保険適用対象の治療に対して、自己負担上限額を超えた場合に超えて支払った部分について払い戻す仕組み。
  • 自己負担限度額は、標準報酬月額・報酬月額によって変わる。
  • 出産に関する費用は、保険の適用が有無があるため、高額療養費の適用が可能かどうかの確認が必要。

高額療養費は、医療費が高額になった場合において、自己負担分について上限を設定し、その上限額を超えて支払った医療費の部分について払い戻す仕組みとなっています。ただし、健康保険の適用される診療に限りますので、出産に関する費用の中には、高額療養費の適用を受けることができない事もあるのが注意すべき点です。

今回は、高額療養費制度と出産費用との関係性について、これだけは理解していただきたいという内容を解説していきます。

 

出産に関する費用で保険の適用が受けられるものと受けられないもの

出産に関する費用で保険の適用が受けられるものと受けられないもの

出産に関する費用には、健康保険の適用を受けることができるものと適用を受けることができないもの(全額自費負担)があります。高額療養費は保険適用対象の治療などに対して支給されるため、保険適用対象なのかどうかを確認しておくことも重要なことになります。

実際に窓口で支払う場合においては、3割負担の部分と全額自己負担部分とが混在する形で支払うことになることが多いため、保険適用が受けられるかどうかについては、明確に区分することが必要になります。

 

出産費用で保険の適用が受けられる場合

保険の適用が受けられる出産費用としては、帝王切開や切迫早産などの異常分娩や妊娠・出産に伴う合併症などのように治療が必要とされる場合に健康保険の適用が受けられます。つまり、これらの出産に関わる費用の総額が自己負担額の上限額を超える場合については、高額療養費の申請を行うことで上限額を超えた部分について払い戻しが行われます。

出産に関しては、予定日を過ぎると早まることなどがありますが、高額療養費の申請期限は自己負担額を支払った日の属する月の翌月1日から2年間とされています。

 

出産費用で保険の適用が受けられない場合

保険の適用が受けられない事例としては、自然分娩で出産を行った場合が該当します。自然分娩の場合は、治療となるような医療行為がないため、保険の適用対象とはならず、高額療養費の対象とはなりません

高額療養費の対象とはなりませんが、出産に関する給付である「出産手当金」や「出産育児一時金」の支給があるため、これらの給付により、実質的な自己負担がほぼないものとなります。

 

出産費用に関する高額療養費はいくらぐらいもらえるのか?

出産費用に関する高額療養費はいくらぐらいもらえるのか?

初めにも述べたように、出産費用は正常分娩の場合は保険適用外となり、高額療養費の支給を受けることができませんが、帝王切開や切迫早産、妊娠中の合併症などといった治療が必要な場合であれば保険適用されます。では、具体的に出産費用について高額療養費が発生した場合、いくらぐらいになるかについて見ていきます。

 

帝王切開による出産を行った場合

帝王切開による出産の費用は保険の適用対象となりますので、高額療養費の対象となります。帝王切開による出産の費用は平均すると約55万円(平成26年度時点)であるといわれていますが、保険の適用対象となる部分は、帝王切開にかかる費用のみとなっているため、それ以外の入院時の食事代などの費用の負担分については保険の適用外となる点(つまり、この部分については全額自己負担となり、高額療養費の適用を受けられないということです。)に注意が必要です。

 

具体例(条件)

  • 帝王切開による出産にかかった費用(10割負担であった場合の支払総額):60万円
  • 実際に病院に支払った医療費(3割負担による支払額):18万円
  • 被保険者の標準報酬月額:40万円

 

高額療養費の金額の速算表

標準報酬月額、報酬月額 自己負担限度額 多数回該当の場合
標準報酬月額が83万円以上の者、または、報酬月額が81万円以上の者 252,600円+(総医療費(10割負担の場合の医療費のこと)ー842,000円)×1% 140,100円
標準報酬月額が53万円~79万円の者、または、報酬月額が51.5万円以上81万円未満の者 自己負担限度額:167,400円+(総医療費ー558,000円)×1% 93,000円
標準報酬月額が28万円~50万円の者、または、報酬月額が27万円以上51.5万円未満の者 80,100円+(総医療費ー267,000円)×1% 44,400円
標準報酬月額が26万円以下の者、または、報酬月額が27万円未満の者 57,600円 44,400円
被保険者が市区町村民税の非課税者等 35,400円 24,600円

 

自己負担額の上限額

標準報酬月額が40万円ですので、上記の速算表から「80,100円+(医療費総額(10割負担の場合の医療費総額)ー267,000)×1%」で算定することが分かります。この計算式を当てはめてみると、この人の自己負担額の上限額は、「80,100円+(600,000円-267,000円)×1%=83,430円」となります。

 

高額療養費の金額

実際に支払った自己負担額から、先程計算した自己負担額の上限額を控除することで、この人が支給を受けることができる高額療養費の金額が算定されます。

これより、「180,000円(実際に支払った自己負担分)ー83,430円(自己負担額の上限額)=96,570円(高額療養費の金額)」が高額療養費として申請することで払い戻される金額となります。

 

いつまでに申請すればよいか?

実際に帝王切開による出産が行われた日の属する月の翌月1日から2年以内とされています。(つまり、出産日が平成31年1月6日であれば、その翌月である「平成31年2月1日から2年後の平成33年1月31日まで」に申請をすればよいということになります。)

 

出産に関する高額療養費についての注意点

出産に関する高額療養費についての注意点

出産に関する費用は基本的には医学的な治療ではない為ため、保険の適用はありませんが、帝王切開や切迫早産等の異常分娩や妊娠による合併症などの場合は保険適用があるため、高額療養費の適用はあります。しかし、保険の適用があるのは異常分娩などの出産に関する費用に限られているということです。

そのため、実際に負担しなければならない額についても、3割負担の部分と全額自己負担の部分とが混在する形になってしまうため、医療費を支払った際に区分しておくことが必要になります。

なお、1年間に4回以上高額療養費の支給が行われる場合は多数回該当といい、4回目以降の高額療養費の自己負担額の上限額の基準が変わります。入院期間が長期化する恐れがあったりする場合には注意が必要になります。

 

 

高額療養費の適用があるもの

異常分娩などによる出産費用以外にも、出産に関する費用で保険適用を受けることができる内容として、以下のような症状があげられます。

  • つわり(重症妊娠悪阻)
  • 流産・早産
  • 子宮頸管無力症
  • 妊娠高血圧症候群
  • 逆子・前置胎盤の超音波検査
  • 児頭骨盤不均衡の疑いでのX線撮影
  • 微弱陣痛などで陣痛促進剤を使用
  • 分娩停止や胎児機能不全などによる鉗子分娩・吸引分娩
  • 頸管損傷・会陰裂傷Ⅱ度以上による縫合術
  • 赤ちゃんの新生児集中治療室への入院 など

いずれの症状についても、保険適用があるため、高額療養費の支給対象とされます。

 

高額療養費の適用がないもの

以下に該当するものについては、保険の適用が受けられないため、高額療養費の適用を受けることができません。

  • 差額ベッド代
  • 入院時の食事費
  • 病院への交通費
  • 外来診療の医療費が21,000円未満のものなど

これらの費用については、出産に関する費用であるかどうかは関係なく、基本的に保険の適用を受けることができない費用とされています。

 

出産に関する高額療養費まとめ

出産に関する費用は、保険の適用があるものと保険の適用を受けることができないものがあるため、どの費用が保険の適用があり、どの費用は保険の適用外であるかを理解することが大切です。そうすることで、窓口で支払をした後に申請を行う上でもスムーズに進めることができるようになります。

忘れてはいけないこととしては、高額療養費は健康保険の給付の一つですので、保険の適用がなければ、高額療養費を支給すること自体できないということにもなります。

出産に関する高額療養費については、治療が必要かどうかという点に注意すれば、保険適用の有無についても判断ができることが多いですので、不明な点があった場合は、保険者(協会けんぽや健保組合など)に問い合わせをすることで、事前に疑問点を解消することも併せて行うことが望ましいです。

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