- マイナンバーを年金機構に届けていれば、住所変更は不要。
- 従業員住所の機構への登録状況は、一覧表で請求できる。
- 転居と併せて給料の諸手当が変更になることも。2等級以上の差で随時改定が必要に。
公開日:2020年1月1日
従業員が引っ越しをした場合、事業主は何の手続きをしなければいけないのでしょうか。社会保険の住所変更手続きや、関連する給与・税金などの手続きについて解説します。
従業員は、引っ越ししたときは速やかに会社に申し出ましょう。社会保険の手続き自体は、事業主が行うものがほとんどです。
例外として、厚生年金に高齢任意加入(適用事業所に勤務の場合)をしている場合の住所変更は、被保険者自身で手続きが必要です。
では、従業員から住所変更の申出を受けた会社はどう対応すればいいのでしょうか。
従業員の住所変更で、社会保険の手続きが必要な場面は限られます。手続きが必要になるのは、マイナンバーと基礎年金番号が結びついていない従業員の住所変更です。
個人番号(マイナンバー)と基礎年金番号が紐づけされている従業員の場合は、厚生年金保険の住所変更手続きは不要です。
日本年金機構は、住民基本台帳ネットワークシステムを利用して、定期的に被保険者の住所変更を把握しています。
一方で、マイナンバーと基礎年金番号が結びつけられていない人が住所変更した場合は、住所変更手続きが必要です。
社員のうち、マイナンバーと基礎年金番号が紐づいていない社員を、どうやって把握すればよいのでしょうか。
日本年金機構は、定期的に「マイナンバー未収録者一覧」を事業主に送付して、マイナンバーを届け出ていない従業員を知らせています。
マイナンバーを届け出ることで、厚生年金の氏名変更や住所変更といった手続きを省略することができ、事業主の手間も省けます。
現在は、入社時に手続きする「資格取得届」に原則としてマイナンバーを記入することになっています。
届出書類 | 健康保険・厚生年金保険 被保険者住所変更届 |
---|---|
提出先 | 事業所の所在地を管轄する年金事務所 |
提出期限 | 速やかに |
添付書類 | 原則不要 |
書式は年金事務所に置いてあるほか、日本年金機構のホームページからダウンロードして入力することもできます。手書きの場合は2枚複写、ダウンロードする場合は2枚まとめて入力できるエクセルデータになっています。
2枚複写になっているのは、被扶養配偶者(扶養している夫や妻)がいる場合、夫婦まとめて住所変更を届け出るためです。
事業主は、登録している従業員の住所の一覧表を年金機構に請求することで、住所が正しく登録されているかどうかまとめて確認することができます。
住所一覧表から住所の誤りに気付いたときは、一覧表を赤ペンで修正して簡単に住所変更をすることもできます。(氏名や生年月日の変更がある場合は、別途届け出が必要です)
申請書は、日本年金機構のホームページや年金事務所に備え付けされています。活用してみましょう。
全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している場合、住所変更は不要です。マイナンバーを届け出ていないなどの理由があって住所変更が必要な場合も、厚生年金保険と同じ書類で手続きは完了します。
加入しているのが健康保険組合の場合、組合によっては住所変更の届け出が必要なこともあります。
健康保険組合…企業ごとに組織され、健康保険事業を行うもの。主に大企業に健康保険組合がある。
雇用保険や労災保険では、従業員の住所が変更になっても手続きは不要です。
なお労災保険では、他の社会保険のように”被保険者”という言葉がありません。労災保険の手続き上、社員が入社しても名前や住所を届け出る必要はありません。
引っ越しとあわせて諸手当が変更になることがあります。支給額や控除する税金・社会保険に誤りがないよう留意しましょう。
引っ越したということは、ほとんどの場合で通勤距離も変わるはずです。通勤距離が長くなって通勤手当が増えたり、距離が短くなり手当が減ったりします。
通勤手当を支給するかどうか、支給するとしたらいくらかは事業主が任意に定めるルールです。(このうち、所得税がかからない通勤手当の額には法律の上限があります。)会社の規定に沿った支給額に変更しましょう。
単身赴任か家族と同居か、持ち家なのか賃貸かといったことを理由に、住宅手当(家賃補助)に差を付けている事業主もあります。この場合は引っ越しによって、住宅手当も変更になる可能性があります。
諸手当が変更されたことに加えて次の条件を満たす場合には、厚生年金保険・健康保険の「随時改定」の対象になります。
社会保険料は、毎月の給与に保険料をかけて計算しているのではありません。
毎年1回、4~6月の給与を基準にして、その人の報酬を50段階(健康保険は31段階)にランク付けします。このランクを「標準報酬月額」と言います。
例えば、4~6月の3カ月間の給与が、平均して21万円以上23万円以下だった場合は「標準報酬月額22万円」になります。9月から翌10月までの1年間、この標準報酬月額に保険料率をかけて保険料を計算します。
この年に1回の改定を「定時決定」と言いますが、これ以外の時期に大きく給与が変動した場合に、定時決定を待たずに標準報酬月額を変更するのが「随時改定」です。
この3つ全てを満たした場合に「月額変更届」を提出して随時改定を行います。
「固定的賃金の変動」には、通勤手当、住宅手当などの諸手当の変更を含みます。
残業などで給与の額が大幅に変更になっても「固定的な賃金が変わった」というキッカケがない限りは、年の途中で月額変更届は必要になりません。
この変動には、残業代など「固定的賃金」ではないものも含めて計算します。
ただし、
など、変更のキッカケになったのが”手当が増えた”なのに、”総支給額は減った”場合は、対象になりません。逆も同じです。
”手当が増えた”ことに加えて”残業代も多かった”ので、結果として2等級の差が生じた場合は、改定の対象になります。
報酬支払い基礎日数は、次のように数えます。
アルバイト・パートタイマーだが社会保険に加入している時は、3カ月とも11日以上の報酬支払い基礎日数があれば構いません。
(正社員の4分の3以上の労働日数と労働時間があるバイト・パートの場合は、正社員と同じく17日以上あるかどうかで判断します。)
届出書類 | 健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者月額変更届 |
---|---|
提出先 | 事業所の所在地を管轄する年金事務所 など |
提出期限 | 該当したら速やかに (少なくとも変更後3カ月分の賃金を支給したあと) |
添付書類 | 原則不要 |
提出先は年金事務所です。ただし健康保険組合に加入している場合は、組合へも別途書類を作成し、提出しなければいけない場合があります。
標準報酬月額が変更になると、毎月の厚生年金保険料・健康保険料・介護保険料も変わります。
収入額が変更になると、そこから計算する源泉所得税額も変更になります。
源泉所得税は、その月の給与を基準に計算するので、社会保険料(厚生年金・健康保険・介護保険)とは違い、毎月変更になる可能性があります。
企業型DC(確定拠出年金)、財形貯蓄年金など、勤務先を通して従業員が加入しているサービスも、住所変更手続きが必要です。
在職中は、勤務先を経由して取り扱い金融機関に変更手続きをするケースが多いようです。取り扱い金融機関・運営管理機関などに、必要な手続きを確認しましょう。
引っ越しによって、家族構成が変更になったことも想定されます。
例えば転居の理由が、両親の生計を支えるため実家で同居することだとすると、両親を健康保険の被扶養者にする場合もあるでしょう。引っ越しとあわせて扶養する家族の変更があれば、手続き漏れがないようにしましょう。
年末調整の書類は11~12月ごろに従業員に配布しますが、住所変更があった場合はどうすればよいのでしょうか。
年末の時点で引っ越しが決まっているのであれば、翌年の1月1日時点で実際に住むべきところを記載してもらいましょう。1月1日に住民票のある住所地で、住民税を課税するためです。
社会保険の分野では、マイナンバーを活用した手続きの省略が進められています。住所変更しても手続きが不要なことも多いです。
引っ越しによって家族構成が変わったり、通勤距離が変わったりした場合、被扶養者が増えたり給与額が変更になることもあります。住所変更によって、家庭をとりまく他の状況も変わっているかもしれません。派生する手続きがないか気にかけておくと良いですね。