- オーナー経営者は自分の役員報酬を自由に決めることができる。
- 役員報酬は会社法や税法において厳しく制限されている。
- 役員報酬の決め方は、会社と個人のバランスが重要。
公開日:2020年10月12日
会社の役員報酬をどれくらいにするか、悩んでいる中小企業経営者も多くいるのではないでしょうか。役員報酬は、従業員の給料と違い、会社法や税法でさまざま制限が設けられています。今回は役員報酬を決める際の判断基準や相場について解説していきます。
税法において役員とは、取締役、執行役、会計参与、監査役など会社の業務執行や会計業務、監督業務を行い、その責任を担う役割をもつ人をいいます。まず、それぞれの役割を見ていきましょう。
取締役とは、株式会社においては必ず設置しなければならない機関であり、株主総会で選任されます。また、会社の業務執行の意思決定機関として取締役会を設置する会社(取締役会設置会社)においては、取締役の中から対外的に会社を代表する「代表取締役」が選出されます。
執行役とは、「指名委員会等設置会社」にのみ設置される機関をいいます。取締役会が決定した方針や重要な事項を実行する機関であり、取締役が兼任するケースも多く見られます。
会計参与は、会社の決算書である計算書類を作成します。実務においては経理担当者と連携して計算書類や附属明細書を作成していくことになるでしょう。会計参与になれるのは、監査法人や税理士法人、公認会計士、税理士に限られています。
監査役は株主総会で選任され、取締役の職務執行を監査する役割を担っています。これには業務監査と会計監査とあり、業務監査は取締役の職務執行が法令・定款を遵守して行われているかどうかを監査します。
会計監査は、定時株主総会に提出される計算書類が適正かどうかを監査します。そして株主総会の招集通知において、業務監査と会計監査の結果が監査報告書として添付されます。
役員報酬は、会社法において「定款または株主総会の決議によって定める」と規定されています。役員報酬はその総額について、株主総会で承認を得なければなりません。また、あまりに高い報酬だと税務署(国税庁)から否認され、損金として認められない可能性もあります。
各役員が担っている職務内容や従業員・同業他社の給与水準のほか、将来の事業計画や法人税と所得税のバランスなど、総合的に検討したうえで決定されます。
会社が雇用関係にある従業員に支払うお金が「給与」です。給与と役員報酬は明確に区別されなければなりません。なぜなら役員報酬と給与では、税務上の取扱いが大きく異なるからです。
給与は、原則として全額損金算入となるのに対し、役員報酬の損金算入には、税法上一定の条件が定められています。たとえば、毎月同じ報酬金額でなければ損金算入が認められないという条件があります(定期同額給与)。
なぜこのような条件が求められているかというと、たとえば、オーナー企業の社長が自身で報酬を決めることができるという立場を利用して、利益が見込まれた年の決算の直前に役員報酬を増やし、不当に法人税を免れるなどの調整に使われるのを避けるためです。
上で述べたとおり、税務上、役員報酬が損金として認められるためには一定の条件があり、その条件として「定期同額給与」「事前確定届出給与」「利益連動給与」の3つがあります。
役員報酬は、原則として「定期同額給与」で支払わなければなりません。この定期同額給与は、事業年度開始から3ヵ月以内に株主総会または取締役会で金額を決定する必要があります。
そして、年度中は毎月同じ額の給与を支給することになり、原則としてその年度中に変更することはできません。毎月同額を払うことで役員報酬を損金に算入することができます。
役員には、従業員に対して支払われるような賞与(ボーナス)はないのが一般的です。しかし、賞与に似た制度として「事前確定届出給与」という制度があります。
事前確定届出給与を適用するためには、事前に「支払いの時期」と「金額」を税務署に届けなければなりません。届け出た金額を役員報酬として支払うことで、損金として認められます。
利益連動給与とは、大会社など同族会社ではない会社が、利益に関する指標を基準としてに役員報酬を決定するという制度です。利益連動給与を採用するには、以下の要件を満たす必要があります。
中小企業はほとんどが同族会社であり、利益連動給与の対象とはなりません。
「2019年(令和元年)民間企業における役員報酬(給与)調査」によると、役員報酬の平均年間報酬は以下のようになります。
企業規模・役職 | 社長 | 副社長 | 専務 | 常務 | 監査役 |
---|---|---|---|---|---|
全規模 | 4,622.1 | 3,923.6 | 3,189.6 | 2,461.4 | 1,715.6 |
3000人以上 | 7,372.6 | 5,449.6 | 4,501.5 | 3,396.2 | 2,426.1 |
1,000人以上 3,000人未満 |
4,554.3 | 3,460.3 | 3,066.9 | 2,382.0 | 1,655.5 |
500人以上 1,000人未満 |
3,963.1 | 2,856.4 | 2,461.8 | 2,126.6 | 1,417.9 |
出典:2019年(令和元年)民間企業における役員報酬(給与)調査
上記の調査は上場会社や大会社も含まれています。中小企業はオーナー兼社長である場合が多く、事業規模も小さいため、上記の平均報酬をそのまま参考にすることは難しいでしょう。
役員報酬を決める判断基準として、年収として必要な水準を決めるケースと、会社の目標とする売上高利益率などの指標から決めるケースがあります。
役員報酬の決め方として、役員個人が生活に必要とする資金から決定する方法が考えられます。そこで気を付けなければならないのが税金です。
役員報酬に課せられる所得税は給与所得に該当し、累進課税で最大税率45%となります、一方の、法人所得(当期純利益)に課せられる法人税の実効税率は約30%です。
所得税率の速算表によると、課税所得が900万円を超えた場合、法人税よりも税負担が重くなることがわかります。
課税所得金額 | 税率 |
---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% |
40,000,000円 以上 | 45% |
オーナー社長の場合は役員報酬を自由に決めることができますが、報酬を高くして税負担を大きくするか、会社に財産を残して税負担を軽くするか、バランスを考えて報酬額を決定しなければなりません。
会社は一般的に事業計画を策定し、それを目標に事業を行うことで軌道に乗せることができます。この事業計画の目標値として、維持すべき売上高利益率という経営指標があり、以下の算式で表すことができます。
つまり、目標とする売上高利益率が5%であったとすると、これを達成することができる範囲を役員報酬の目安とすることができます。
役員報酬が最適かどうかは、ROA(総資本利益率)を判断基準の1つとすることができます。ROAとは、事業に投下されている総資産からどれだけの利益が得られたのかを示す指標で、事業の収益性・効率性を示す指標でもあります。
ROAの以下の計算式で求められます。
ROAは一般的に、5%以上あれば優良企業といわれています。役員報酬を多くもらいすぎているとROAは低くなり、経営という視点でいえば、優良企業とは見られない可能性もあります。あくまでもひとつの考え方ですので、参考程度に知っておきましょう。
会社法上、役員報酬は株主総会において決めることとされています。しかし、多くの中小企業はオーナー兼社長である場合が多く、役員報酬の決め方に社内規定のようなものもありません。
したがって、会社のオーナーは自身の役員報酬の金額を自由に決めることができ、対外的にも決算書などの開示義務もないので、上場会社のような株主総会での承認も必要ありません。
このような事情もあり、ほとんどの中小企業経営者は、法人税と所得税の税負担のバランスを見ながら、独断で役員報酬の金額を決めているのが実態です。
社長個人にお金を残す場合と会社にお金を残す場合、いずれにおいてもメリット・デメリットがあります。
会社は急激な業績不振に陥ることも考えられます。そのようないざという場合に備えて、会社の自己資本を強固なものにしておくべきです。そのため、役員報酬を低く設定し、会社にお金を残したほうが財務体質はよくなります。
また、事業拡大のために設備投資を考えている場合も、ある程度会社にお金を残しておかなければならないといえるでしょう。
仮に、役員報酬を低く設定して生活費が足りなくなった場合は、会社から「役員貸付金」としてお金を借りることになります。役員貸付金は決算書に計上され、あまりに多額だと、たとえば銀行融資の審査の際に問題となり借入できない可能性があります。
役員貸付金は実質返済されないお金とみなされて、マイナス評価につながる可能性がありますので注意が必要です。
会社にお金を残した場合と比較して、社長個人にお金を残す場合の最大のメリットは、「自由に使えるお金である」という点にあります。当然ですが、会社のお金は社長の私用で自由に使うことはできません。それに対し、社長が役員報酬で受け取ったお金は自由に使うことができます。
たとえば、会社が資金不足になった場合でも、一時的な補てんを目的として社長個人のお金を使うことができます。
この補てんは、社長から会社への貸付となり、会社の決算書には「役員借入金」として計上されます。役員借入金は返済期日も督促もないお金で、実質会社の「資本金」とみなすことができます。
事実、金融機関が融資の審査を行う際、役員借入金を資本金とみなしている金融機関もあります。このように、個人のお金はプライベートにはもちろん、会社用にも使うことができます。
役員報酬の金額は銀行融資の際の審査基準となります。役員報酬が多いか・少ないかが問題ではなく、その役員報酬額で、社長がどの程度の生活水準であるかがポイントです。
金融機関が会社に融資をする際、ほとんどのケースで社長が保証人となります。したがって、社長の個人財産がどの程度であるかは重要な審査ポイントになります。社長とその家族が、役員報酬から生活費としていくら使って、手元に残る余裕資金がいくらなのかということです。
余裕資金が多ければ、審査においても個人資産が多くあると判断され有利に働くことになります。一方、役員報酬が低く生活資金としてほとんどが消費されていれば、手持ちの資産が少ないと判断され、マイナス評価となります。
したがって、融資のことまで視野に入れるなら、役員報酬は高めに設定して社長の個人資産を多くしておくことも重要です。
役員報酬の額は、事業承継の際にも影響します。役員報酬が低ければ、会社の自己資本は多くなります。自己資本が多い会社の自社株は、評価が高くなります。すなわち株価が高くなるということです。
本来株価が高くなることはよいことですが、事業承継の際には大きなリスクとなりかねません。なぜなら、後継者は自社株を引き継ぐ際に、自社株を取得するために多額の資金を用意しなければならず、後継者にとって大きな負担となる場合があるためです。
相続や贈与で引き継ぐ場合であっても多額の税金が発生します。株価が高いと自己資金でまかない切れない可能性があるのです。
会社を引き継ぐために多額の借金をするのでは、その後の会社経営に大きな影響を及ぼすでしょう。このような事態を避けるため、会社に貯まった財産を放出し、株価を下げる必要があります。
上記の対策として、役員報酬が有効な手段となりえます。自分の役員報酬を高く設定し、徐々に会社から個人に財産を移行していくのです。また、後継者に対しても高めの役員報酬を設定し、事業承継の準備資金を用意しつつ、会社財産を減らすことも可能です。
このように、役員報酬が低いままだと事業承継の際に大きなリスクを抱えていることになります。あえて役員報酬を高く設定することも、タイミングによっては必要となります。
ただし、事業承継のタイミングに合わせて役員報酬を短期間に一気に上げるのは、税務上問題となるので注意が必要です。
税務調査で事業承継の際の納税を不当に免れるための臨時的昇給とみなされれば、役員報酬自体が不相当に高額と判断され、損金不算入になることも考えられます。事業承継は長期的に計画し実行しなければなりません。
今回は役員報酬の決め方について解説しました。役員報酬の相場は事業規模や事業のタイミングでも異なり、社長の事業戦略によっても変わってきます。
役員報酬の決め方は、会社と個人のバランスが重要です。どちらかの手元資金の最大化を図るのではなく、全体の最大化を目的に役員報酬額を決定する必要があります。