- 税務調査が入る基準は所得額で決まるわけではない。
- 税務調査は任意調査・強制調査ともに拒否は不可能。
- 税務調査が入りやすい業種がある。
- 税務調査は確定申告をしていなくても入る可能性がある。
- 普段から帳簿つけや書類の管理をしっかりすることが一番の対策。
公開日:2021年3月11日
みなさんは『税務調査』に対してどのような印象をお持ちでしょうか?税務署の職員が突然大人数で押しかけてきて、家の中を洗いざらい調べて証拠を突きつけてくる…。そのような想像をしている人は少なくありません。
そこで今回は「どのような基準や確率で入るのか?」「いくらくらいの所得があると対象になるのか」「自分でできる税務調査対策を知りたい」という人のために、税務調査の基礎知識を解説します。
正しい知識を知ることで、税務調査を必要以上に恐れず対応できるようになりましょう。
税務調査とは、納税者が適正に税務申告しているかを調べるため、税務署員や国税局が自宅や事務所に訪問調査することをいいます。対象となる事業者は、法人に加えて自営業者・個人事業主・フリーランスです。
税務調査と監査は似ていますが、その中身はまったく別物です。税務調査は国税局または税務署が申告内容を確認するために行う調査です。一方の監査とは、公認会計士または監査法人が公認会計士法・監査基準・会社法などに基づき行う調査を指します。
税務調査には任意調査と強制調査の2種類があります。任意調査は税務調査を受ける納税者の任意による協力のもと行われますが、強制調査には納税者の承諾も拒否権もありません。
任意調査が行われるときは、事前に税務署から連絡があります。そこで日程調整をしていつ調査に入るかを決定します。任意調査の際に次のような対応をすると罰則を科せられることがあるので注意してください。
任意調査の際、税務署員は「質問検査権」を与えられているため、拒否はできません。また、正当な理由がないのに質問の回答を拒んだり、虚偽の記載をした帳簿書類等を提示・提出したりした場合には、 1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられることがあります。
任意といえども、調査には真面目な態度で臨みましょう。
納税者の承諾を得ることなく、強制的に行われる税務調査です。脱税額が1億円を超える、意識的・継続的な隠ぺい工作など悪質な犯罪の疑いがあるときに行われます。
国税局査察部(通称:マルサ)は、裁判所から令状(臨検・捜索・差押)を取って調査にあたります。強制調査が入った時点で脱税や所得隠しなどの裏取りがされている状態ですから、逃げることはまず不可能でしょう。
先にも述べたとおり、税務調査は法人・個人事業主にかかわらず入る可能性があります。しかし、全体的には主として法人の方に入る傾向が高いという事実もあります。
税務調査が入る確率は、国税庁が公表している『税務行政の現状と課題(PDF)』というレポートの中の実調率からある程度の判断ができます。
平成28年度の実調率は、法人3.2%、個人事業主1.1%となっています。計算上では法人で30年に一度、個人事業主に至っては100年に一度入るか入らないかという少ない確率です。
しかし、これは単に申告数に対して調査の実働人数が少ないという事情があるためです。実調率の低さはあくまで目安と考えた方がよいでしょう。
通説では所得が少ない、あるいは赤字の事業者あれば調査が入る確率は小さいと言われています。しかし、それはあくまでも噂にすぎません。なんらかの形で売上や経費の数字に不審な点があると発覚すれば、税務調査が入る確率もグッと大きくなるのです。
自分は売上も利益も少ないから、と帳簿や申告をおろそかにするのは絶対にやめましょう。
いくら所得があれば税務署が来るのか、実は明確な基準はありません。 しかし税務調査が入りやすいとされる事業者の傾向はあります。
以下は調査が入りやすいとされる事業者の代表的な特徴です。
売上が伸びることによって、事業規模が拡大したり人を雇ったりとマネージメントも必要になります。 それにともない「経理の粗雑化・書類の不備・申告漏れや修正も増えるのでは?」と判断されやすくなるのです。
売上に対して利益が少ないことが続くと、「経費を水増しして利益を下げ、 納税額を減らしているのでは?」と疑われる恐れがあります。税務署は業種ごとの売上と利益金額(利益率)の数字を把握しています。同業他社と比較して極端に利益率が低いのも不審に思われる原因です。
売上高が1000万円よりわずかに少ない状態の申告が続くと、「売上を過少に申告しているのでは?」と疑われ、税務調査の対象になる場合があります。
売上高が1000万円を超えると消費税の課税事業者となり、納税義務を負うことになります。それを回避するため(免税事業者であり続けるため)の偽装工作をする事業者が存在するのです。
税務署は脱税する事業者の傾向を把握していますから、見つかった場合は税務調査が入る可能性が非常に高いでしょう。
国税庁の『令和元事務年度 所得税及び消費税調査等の状況』の資料では、事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な業種が公表されています。以下は上位5業種を抜粋した表です。
順位 | 業種 | 1件あたりの申告漏れ所得金額(万円) | 1件あたりの追徴税額(加算税)(万円) | 前年の順位 |
---|---|---|---|---|
1 | 風俗業 | 3,373 | 1,053 | 1 |
2 | 経営コンサルタント | 3,321 | 1,354 | 3 |
3 | キャバクラ | 2,873 | 822 | 2 |
4 | 太陽光発電 | 1,718 | 294 | ‐ |
5 | システムエンジニア | 1,280 | 190 | 4 |
出典:令和元事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(PDF)
税務署は、これらの業種は脱税や申告漏れが多いと認識しています。該当する事業者は注意しましょう。
これらに該当する事業者は、金銭授受の証拠が残らず売上金の隠ぺいを行いやすいと判断され、税務調査の対象になりやすいといえます。
税務申告をしていない個人事業主やフリーランスでも、取引先に税務調査が入れば、相手との取引内容がすべて明らかになります。脱税にあたる行為が発覚した場合、取引先への反面調査をもとに追徴課税を受けることになります。
実際に税務調査が入ったとき、重点的にチェックされる項目を以下にまとめました。
税務調査が入ると決まったら、帳簿や領収書などの必要書類をまとめて提出できるように準備しなければなりません。円滑な調査のためにも税務調査の流れを知り、調査に対しての心構えをしておきましょう。
ここでは任意調査の流れを簡単にご説明します。
任意調査の場合は、事前に税務調査の日にちを納税者と相談して決定します。税理士に立会いを依頼するなら三者間で日程調整が必要です。
当日は税務調査官(1人ないし2人)が来訪し、2〜3日かけて調査が行われます。
ひと月ほど経過すると調査結果の連絡が来ます。納めた税金が少なすぎる、あるいは還付される税金が多すぎた場合は修正申告の指導があるので、指示に従ってください。もし新たな問題点の指摘や追加の質問事項があれば再調査となります。
追徴課税とは、過少申告や無申告が発覚した場合のいわばペナルティで、本来払うべき税金とそれに上乗せで支払わなければならないお金(附帯税)の総称です。追加で支払う附帯税には4種類あります。
期限内に申告・納税をしたが、 本来申告すべき金額より少なかった場合の追徴課税です。
正当な理由もなく期限内に申告をしなかった場合の追徴課税です。 申告漏れもここに入ります。
源泉徴収税を期限までに納付しなかった場合の追徴課税です。
非常に悪質な不正と判断された場合に課される、もっとも重いペナルティである追徴課税です。
税務調査は疑わしい事業者だけではなく、正しく申告や納税をしている事業者のところにも入ります。 過度の不安を感じずに、落ち着いて冷静に対応するようにしましょう。
税務調査では帳簿やレシートなどの必要書類を提出し、申告内容に間違いがないかをチェックします。
帳簿付けやレシートの管理がずさんだと、「この人はいい加減な申告をしているのではないか?」と不信感を与えることになってしまいます。普段からきちんと帳簿をつける習慣を身につけておくことが大切です。
仕事が忙しくてどうしても帳簿にかける時間がないという場合は、お金はかかりますが税理士に依頼することを検討しましょう。
税務署から調査が入る、と連絡があった後に契約することも可能です。税務調査に立ち会ってもらうことで調査をスムーズに進行・完了できるのは大きなメリットではないでしょうか。
税務調査官といえど人の子。敵意をむき出しにしたり、横柄な態度で接したりするようなことがあれば、 「この人はやましいことをしているのでは?」と疑われ、厳しく調査されるケースも考えられます。
『個人事業主でそれほど稼いでいなければ税務調査はやってこない』このような噂を耳にすることもあると思います。
しかし、実際は所得の額にかかわらず、白色申告者や赤字の事業者、さらには無申告であっても、税務署から『怪しい』と判断されたら調査が入る可能性は十分にあるということを覚えておいてください。
特に現金商売が主である自営業やコンサルタント業は脱税が疑われやすい業種です。日頃から帳簿を正確につけて、公正明大な事業を行う心がけをしっかりと持つようにしましょう。
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