- 個人事業主にも、社会保険料は発生する。
- 事業主「自身」は、社会保険に加入できない(労災保険を除く)。
- 事業所が条件を満たせば、従業員を社会保険に加入させなければいけない。
- 事業主自身が社会保険に加入したいなら「法人設立」。
公開日:
自分で事業を立ち上げる場合、健康保険、労災保険などの社会保険はどうなるのしょうか。事業の代表者として、社会保険にを放ったらかしにしておくと「知らないうちに法律違反をしていた」「思っていたよりたくさんの保険料がかかってしまった」ということになりかねません。
今回は、個人事業主の社会保険について解説します。
自分がリーダーになって事業を始めるには、大きく2つの選択肢があります。
法人を立ち上げるには、必要な書類を揃え、法務局で申請をするなどの手順があります。社長1人しかいなくても会社は作れますし、合同会社の場合、5万円もあれば設立登記も可能です。
株式会社の代表に就任すれば「代表取締役」、合同会社であれば「代表社員」を定めて経営者になります。
会社を立ち上げずに、個人で継続して事業を行う場合は「個人事業主」です。1人で事業を行う場合に限らず、従業員を雇って事業を行う場合もあります。”オフィス〇〇”、”〇〇商店”など屋号を付けることもできます。
同じ”自営業”でも、個人にするか・法人にするかで社会保険の扱いは大きく違います。個人事業主になった場合、社会保険はどうなるのでしょうか?
個人事業主である”代表者自身”は、社会保険の対象になりません。労災保険を除いて、任意に加入することもできません。
ただし、経営する事業所には社会保険が適用されることがあります。つまり「事業主は」社会保険に加入できなくても、雇っている「従業員を」社会保険に加入させる必要があります。
個人事業主でも、従業員数や業種によって、従業員を社会保険に加入させる手続きや、社会保険料の支払いをしなければいけないのです。
事業主 | 従業員 | |
---|---|---|
厚生年金保険 | ✕ 加入できない | △ 義務もしくは任意 |
健康保険 | ✕ 加入できない | △ 義務もしくは任意 |
雇用保険 | ✕ 加入できない | ○ 加入(農林水産業など例外有り) |
労災保険 | △ 任意に加入 | ○ 加入(農林水産業など例外有り) |
社会保険の種類ごとに詳しく確認しましょう。「厚生年金保険と健康保険」、また「雇用保険と労災保険」では、互いの取り扱いが似ているところがあります。
老齢・死亡・障害状態のとき、年金が受け取れる厚生年金保険。また病気やケガのとき、治療にかかる負担額を抑えてくれる健康保険。
行っている事業が「強制適用事業所」に該当する場合は、厚生年金保険・健康保険が適用されます。ただし、個人事業主自身は厚生年金保険・健康保険に加入できません。
個人事業の場合、次の2つをどちらも満たす場合に、強制適用事業所になります。
適用業種 | 非適用業種 | |
---|---|---|
従業員5人以上 | ○ 強制適用事業所 | ― |
従業員5人未満 | ― | ― |
なお、一定の船舶も強制適用事業所になります(厚生年金の場合)。
従業員が5人未満の場合や、非適用業種の場合は、当然には厚生年金保険・健康保険が適用されません。「暫定任意適用事業」と呼ばれ、次のステップを踏んで、適用事業所となることができます。
求職者や従業員にとっては、自分で支払う「国民年金・国民健康保険の保険料」は大きな負担です。そのため”社会保険完備”の職場を選ぶ求職者も多いでしょう。求人の際にプラスに働く可能性があります。
失業、休職、職業訓練などの際に、給付を受けられる雇用保険。
労働者を1人でも雇うと、雇用保険が強制的に適用される事業所となります。ただし、個人事業主自身は、雇用保険に加入できません。
個人経営で、農林業・畜産業・養蚕業・水産業(船員を雇用する場合を除く)、かつ常時5人未満の労働者しかいない場合は、「暫定任意適用事業」となります。当然には雇用保険が適用されません。
暫定任意適用事業の場合は、厚生年金保険・健康保険と同様に、適用事業となるよう認可の申請をすることができます。
仕事中のケガなどに対し、治療費や収入を補填してくれる労災保険。
労働者を1人でも雇うと、労災保険が強制的に適用される事業所となります。ただし、個人事業主自身は、この”労働者”にはあたりません。
個人経営で、農林水産業、かつ雇用する従業員の数が一定数以下(危険作業のない農業の場合は5人未満、など)の場合は、「暫定任意適用事業」となります。当然には労災保険が適用されず、適用事業となるよう認可の申請をすることができます。
個人事業主自身は、通常は労災保険で保証されません。ただし、希望する事業主が”特別に加入”できる制度があります。
従業員数の少ない中小事業の代表者は、労災保険の「特別加入」を申請できます。
業種 | 常時使用する労働者数が |
---|---|
①金融、保険、不動産、小売 | 50人以下 |
②卸売、サービス | 100人以下 |
③上記①②以外の事業 | 300人以下 |
なお、特別加入するためには、労働保険の事務処理を「労働保険事務組合」に委託します。
人を雇わずに、次の個人事業をしている場合も、労災保険の特別加入を申請できます。
一人親方で組織する組合などを通して、申請する必要があります。
従業員が、同居している親族”のみ”の場合、これらの親族は「労働者」とはみなされません。
同居の親族以外にも従業員がいる場合は「ほかの従業員と同じように、事業主の指揮命令に従っていることが明確である」などの条件を満たして、各社会保険に加入できる場合があります。
ここまで見てきたように、労災保険を除いて、個人事業主自身は社会保険に加入できません。事業主が社会保険に入りたい場合はどうすればよいでしょうか。
個人事業主と異なり、代表取締役などの「法人の代表者」は、加入できる社会保険が増えます。
個人事業主 | 法人の代表者(役員報酬あり) | |
---|---|---|
厚生年金保険 | ✕ 加入できない | ○ 加入しなければならない |
健康保険 | ✕ 加入できない | ○ 加入しなければならない |
雇用保険 | ✕ 加入できない | ✕ 加入できない |
労災保険 | △ 任意に加入 | △ 任意に加入 |
社会保険に加入すれば、もちろん保険料を支払わなくてはなりません。会社員として勤めていると、保険料の負担は2分の1です。
しかし経営者としては、残った2分の1も会社負担分として納付しなければなりません。従業員に支払う給与や自分が受け取る報酬に、上乗せして負担がかかります。
いっぽうで、社会保険に加入できない事業主は「国民年金保険料」や「国民健康保険料(国保)」など、別の保険料を納める必要があります。
国民健康保険料は世帯人数に応じた保険料がかかるため、扶養する家族がいると特に割高になりがちです。家族がいる”ひとり社長”は、社会保険に加入することでかえって保険料が安くなる可能性もあります。
国保だけでは保障が不安だから…と、さらに民間の保険に加入している場合もあるかもしれません。社会保険に加入することで、こうした保険は節約できます。
事業をスタートする時、個人で始めるか、法人を立ち上げるかは、大きな選択肢です。その判断材料には「税金がお得なのは」「事務作業の手間は」「取引先からの信用は」といったもののほか、「社会保険」も必須の事項として考える必要があります。
個人事業にも社会保険料がかかる場合があることや、個人事業主自身は社会保険に加入できないことなど、ポイントを押さえておきましょう。