- 正社員と比べて、4分の3以上働く場合、社会保険に加入しなければいけない。
- 週20時間・月収8.8万円以上働く場合、一定の会社では社会保険に加入しなければいけない。
- 企業規模「501人以上」は撤廃が議論されている。
- 中小企業でも、社会保険の対象になるパートタイマーが増える可能性がある。
公開日:2019年11月1日
働く人が職場で加入する保険のことを「被用者保険」と言います。
これらの保険料は、給与から天引きされ支払います。このうち「健康保険・厚生年金保険」を、特に社会保険と呼んだりします。40歳以上65歳未満であれば、健康保険料と併せて、介護保険料も支払います。
パートタイマー・アルバイト従業員は、どのくらい働いた場合に社会保険に加入することになるのでしょうか。実は、「勤務先の規模」によっても異なります。
目次
パートタイマー、アルバイトという言葉は、健康保険法や厚生年金保険法には登場しません。パートやアルバイトといった働き方を、これらの法律では「短時間労働者」と呼んでいます。
ここでいう短時間労働者とは、1週間の所定労働時間が「同一の事業所に雇用される”通常の労働者”に比べて短い労働者」です。
所定労働時間…会社ごと、労働者ごとに、個別に決めた労働時間のことです。
これに対し、「法律で」決まっている労働時間の上限のことを「法定労働時間」と呼びます。
通常の労働者とは、いわゆる「正社員」のことです。同じ職場に正社員がいない場合は、正社員に準ずるような働き方をしている社員を基準にします。
同じ業務に就いている正社員より勤務時間が短い場合は、無期限で雇われていても「短時間労働者」となります。
パートタイマーしか勤務しておらず、比較できる正社員がいない場合は、パートタイマーが通常の労働者になってしまうのでしょうか?
この場合は「事業所の営業時間に対して、どのくらい勤務しているか」などをもとに総合的に判断されます(日本年金機構 疑義照会より)。
正社員を雇うことのある会社で、たまたまパートタイマーしかいない場合などでは、パートタイマーが「通常の労働者」にはならないということです。
事業所の中には、社会保険が適用される「適用事業所」と、そうでない事業所があります。
適用事業所であれば、パート・アルバイトなどの短時間労働者が社会保険に加入するかどうかは、①4分の3基準、②5要件と呼ばれる2つの決まりで判断します。どちらかに該当すれば、社会保険に加入し、保険料を支払う必要があります。
①4分の3基準では、週30時間以上働く場合に対象となる可能性が高く、②5要件では週20時間以上働く場合に対象になります。
ただし、これらの条件を満たしても適用除外となる場合もあるので、併せて説明します。
次の2つの条件に、どちらも当てはまる場合は、健康保険・厚生年金保険の被保険者になります。
所定労働日数…会社ごと、労働者ごとに、個別に決めた労働日数のことです。
4分の3基準を満たす場合は、次の5要件に関係なく、被保険者となります。
一般的に、正社員の労働時間は法律の上限と同じ「週40時間」になっていることが多いです。そのため「正社員の4分の3」とは「週30時間」を目安にできます。
4分の3基準のどちらか片方でも当てはまらない場合には、次の5つの要件すべてに当てはまるとき、健康保険・厚生年金保険の被保険者になります。
5つの要件を詳しく確認しましょう。
20時間以上かどうかは「あらかじめ決められた」労働時間で判断します。たとえば、普段は18時間勤務だが、残業でたまたま20時間以上になった場合などは、残業時間は判断に含めません。
期間を決めずに(ずっと)雇われる場合や、契約期間が「1年」「2年」などの場合は、雇用期間1年以上の見込みがあると判断されます。
雇用期間が「6カ月」などと短い場合でも、次のような場合には雇用期間の見込みが1年以上と判断されます。
あらかじめ決まった賃金で判断します。年額だと105.6万円の賃金ですが、判断は「月額の賃金」で行います。
残業した分の賃金は除いて判断するなど、次の手当は計算に含めません。
これらの賃金は、88,000円以上かどうかの判断をする際には賃金に含めません。ただし、保険料を計算する時には、これらの賃金も含めた金額をもとに保険料が発生します。
昼間学生を指します。夜間学校・定時制・通信制などに通う人は、加入対象になります。
「国・地方公共団体に属する事業所」もこの中に含まれます。人数は店舗・支店ごとではなく、企業全体で判断します。
適用除外に当てはまる場合は、たとえ「4分の3基準」や「5要件」を満たしていても、健康保険・厚生年金保険が適用されません。
日雇いで働く人が1カ月より長く働いた場合や、当初2カ月と決めていたが3カ月働くようになった場合は、それより後は被保険者になります。
季節を定めていても4か月を超える期間働く場合や、臨時的事業でも6カ月を超えて働く場合は、はじめから被保険者になります。
また、健康保険の場合「船員保険」「国民健康保険組合」「後期高齢者医療保険」に加入している人も適用除外です。健康保険ではなく、これらの保険が優先されます。
「国民健康保険”組合”」と「国民健康保険」は別のものです。
国民健康保険組合とは、医師国保・土木建築国保など、同じ業種の組合員で組織されています。
国民健康保険とは、職場で健康保険に加入していない人を対象に、市区町村単位で運営されています。
適用除外の中には「被扶養者であること」という条件はありません。
被扶養者…扶養されている人のこと。たとえば、会社員の夫と短時間パートの妻の場合「妻」のことを指して言います。
家族の被扶養者になっていても、基準を超えて働けば、社会保険に必ず加入しなければいけません。扶養に入るか、勤務先で保険に加入するかを自分で選択することはできません。
勤務時間の短いパートタイマーだが時給が高い場合や、ボーナスが高額な場合などです。
被扶養者になるには年収基準(130万円未満/60歳未満の場合)があるので、年収が高くなると被扶養者にはなれません。自分の勤務先で保険に加入しようと思えば、4分の3基準、もしくは5要件で決まっている労働時間以上働いている必要があります。
「配偶者の扶養にもなれないし、勤務先で社会保険にも加入できない」という場合もあり得るのです。(国民健康保険や、国民年金に加入する必要があります)
実は、この5要件が登場したのはごく最近です。近年、社会保険の加入対象者が広がっています。”被用者保険の適用拡大”と言われるものです。今後はどうなるでしょうか。
前述の「5要件」が新設され、大企業と国の事業所を中心に、パートタイマーの社会保険適用が拡大されました。この時は、国の事業所・被保険者数501人以上の企業のみ対象でした。
2017年4月からは、被保険者数500人以下の企業でも労使合意があれば、パートタイマーの適用拡大が可能になりました。地方公共団体に属する事業所も適用対象になりました。
保険に加入するパートタイマーをさらに増やすことが、厚生労働省で議論されている途中です。この9月にも最新の検討状況が明らかにされたところです。
特に企業規模の要件については、撤廃すべきと議論に上がっています。就職活動をするとき、通常は労使合意があるかまでは分かりません。入社した会社によって保険に入れないのは不合理…とも考えられます。
適用拡大の背景には、女性・高齢者の労働参加や、人手不足が挙げられます。
パートでも自分の職場で社会保険に加入できれば、”130万円の壁”と呼ばれる扶養の要件を気にする必要はなくなります。扶養から外れないようにと年末にシフトを少なく調整し、現場では人手不足…といった問題の解消も狙っています。
ただし、適用が広がったため社会保険に加入した人のうち、国民年金第3号被保険者(いわゆる主婦パート)だった人は2割ほどに留まります。
実は一番多いのは、自分で保険料を納めないといけない「国民年金第1号被保険者」だった人で、約4割です。これらの人のうち約半分は、国民年金保険料が未払いだったり、減免されていたりしました。社会保険に加入することで、年金保険料を確実に納め、年金額を増やすことができます。
ここから分かるのは、社会保険の適用拡大は、”配偶者に扶養されていた”いわゆる主婦パートの人のみを対象にしているのではないということです。生活スタイルや家族の形も多様化しています。これまで将来の年金が確保できなかった人たちにとっては、生活を支える大きな保障になります。
詳しくは以下の資料を読み進めるのもおすすめです。
厚生労働省:第7回働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会 資料(2019.9.2)
健康保険・厚生年金保険に加入して「被保険者」になると、受け取れる給付金も増えます。いずれも、被扶養者であれば受け取れないものです。
納めた保険料は「出費が増えるから損」ではなく、もしもの時のリスクに備えるお金になっています。これだけの保障を、加入時の健康状態にかかわらずカバーしてくれます。
社会保険に加入しなければいけないパートタイマー・アルバイトの人の範囲は、年々広がっています。社会保険に入りたくても入れなかった人にとっては、嬉しい流れと言えるでしょう。
今は社会保険に入っていないという人も、法律の改正によって、将来は加入の対象になる可能性があります。「家族の扶養に入れるかどうか」で労働時間を調整する働き方は、一般的でなくなるかもしれません。
加入する要件や、加入した場合のメリットについて、今のうちに押さえておきましょう。
パート主婦の働き方についてはこちらの記事をご覧ください。