- パートの労働時間の規制は労働基準法上は正社員と同じ。
- 夫の扶養に入れるかは労働時間ではなく年収によって決まる。
- 社会保険については労働時間によって加入義務が分かれることがある。
公開日:2019年12月30日
パートで仕事をするとき、労働時間が増えると、夫の扶養に入れなくなったり社会保険の加入義務が生じたりします。
今回は、パートの労働時間について説明します。働きたいけれど仕事をする時間をあまり増やしたくないという人は、損しないために何に注意したらよいのかを知っておきましょう。
目次
パートとはそもそもどのような働き方なのかを知っておきましょう。
パートとはパートタイム労働者の略称で、短時間勤務の人を意味します。パートタイマーと呼ばれることもあります。
会社で定められている勤務時間のうち一部の時間だけ働く働き方で、非正規雇用の1つです。
正社員は1日7~8時間の就労時間が定められており、これをフルタイムと呼びます。パートの就労時間はフルタイムより短いのが普通ですが、正社員と同じフルタイムパートもあります。
正社員以外の働き方にはアルバイトもありますが、パートとの明確な区別はありません。
アルバイトとして募集するときには学生やフリーターをターゲットにしており、パートとして募集するときには主婦を想定していることが多くなっています。採用する企業側がどんな人材に来てほしいかを考えて言葉を使い分けているとも言えるでしょう。
パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)では、通常よりも労働時間が短く定められている労働者を「短時間労働者」として保護の対象にしています。
たとえば、パートであることを理由に正社員よりも低い待遇にすることは、パートタイム労働法で禁止されています。
フルタイムパートには、パートタイム労働法は適用されません。しかし、厚生労働省は、フルタイムパートの労働者に対してもパートタイム労働法の趣旨をふまえた雇用管理を行うことが望まれるという指針を出しています。
非正規雇用の1つに、派遣があります。派遣とは、派遣会社に雇われ、派遣先で働くという形態です。実際に働く会社に直接雇用されるパートやアルバイトとは全く違う独特の形態になります。
派遣で働くときには、労働者派遣法が適用されます。また、派遣にはフルタイムもありますが、短い時間の場合にはパートタイム労働法が適用されることもあります。
働く時間が少なくてすむので、家事や子育てと両立しやすいのがメリットです。長期間働くことを前提としていないケースも多いので、求人もたくさんあり、採用もされやすくなっています。
「すぐに働いてお金を稼ぎたい!」という場合にはパートが手っ取り早いと言えます。労働日数の調整もしやすく、実際に働いてみて合うかどうか確かめてから、働く日数を増やしたり減らしたりできることもあります。
パートで働く場合、収入によっては税金がかからないこともあります。社会保険に加入しなくてもよいケースもあるので、働いた分を丸々もらえることもあります。
パートは勤務時間が短い従業員ですが、どのくらいの時間働くことになるのでしょうか?就労時間の規制について見てみましょう。
賃金や就労時間など、雇われて働く人の労働条件について定めた法律が労働基準法です。正社員、契約社員、アルバイト、パート、派遣などの雇用形態にかかわらず、雇われて働く人には労働基準法が適用されます。
労働基準法で定められている労働時間の上限は、次のようになっています。
1日の労働時間(休憩時間を除く) | 8時間 |
---|---|
1週間の労働時間(休憩時間を除く) | 40時間 |
パートであっても、上記の時間が上限になります。なお、働く時間の下限については特に規定はありません。
職場によっては、パートでも残業を頼まれることがあります。残業(時間外労働)をすれば、残業手当を払ってもらえます。
時間外労働の賃金については、労働基準法により次のようなルールが定められており、原則としてこのルールに従った割増賃金が支払われることになります。
労働基準法上は労働時間の下限はありません。ただし、仕事をするときに子供を保育所に預けなければならない人は、就労時間の下限にも注意しておく必要があります。
保育所を利用するための就労時間の下限については、月48~64時間の範囲で自治体が定めることになっています。就労時間が少なすぎると保育所を利用できないことがあるので、あらかじめ調べておきましょう。
法律上の規制のほか、会社の就業規則でも就労時間のルールが設けられていることがあります。
就業規則は、その会社の従業員が守らなければならないルールです。常時10人以上の従業員がいる事業所では、必ず就業規則を作成しなければなりません。
就業規則がある会社では、労働時間や賃金などの労働条件は、就業規則に記載されています。なお、法律に違反する就業規則は作れないので、就業規則で労働基準法を超える就労時間を定めることはできません。
会社は、一般の従業員の就業規則とは別に、パート専用の就業規則を作成してもかまいません。労働基準法上は正社員もパートも労働時間の上限は同じですが、就業規則を見ると働く時間が違うケースはあります。
会社は従業員に就業規則を周知させなければなりません。会社に就業規則があれば、労働時間などの労働条件を確認しておきましょう。
扶養には税法上の扶養と社会保険の扶養があります。それぞれどれくらい働けば損しないのかを見てみましょう。
税法上は従来、年間収入103万円以下なら損しないと言われてきました。妻が働いても、年収103万円以下であれば、妻には所得税がかかりません。
また、妻の年収が103万円以下であれば、夫は配偶者控除により38万円の控除を受けることもできるので、夫の税金も安くなります。
税制改正により、平成30年以降は妻の年収が150万円以下なら、夫は配偶者特別控除により38万円の控除を受けられるようになりました。そのため、現在では150万円が壁になるといわれています。
税法上の扶養は、時間ではなく収入が基準になります。年収103万円の場合、月収は8万5,000円くらいです。
たとえば、時給1,000円の場合には月85時間(週21時間)程度、時給1,200円の場合には月70時間(週17時間)程度までに抑えれば、税金面では損しません。
所得税がかからない年間収入の上限は103万円ですが、住民税は100万円以上でかかるのが一般的です。たとえば、年収101万円になると約7000円の住民税がかかります。
夫の社会保険の被扶養者になれば、自分で保険料を払う必要がありません。被扶養者になるためには年収が130万円未満でなければならないので、130万円の壁と呼ばれます。
主婦がパートで働くとき、次の条件を満たしていれば、自分で社会保険に加入しなければなりません。年収が130万円より少なくても、夫の扶養に入れないことがあることに注意しましょう。
なお、3の月額賃金8万8,000円は年間の賃金で言えば約106万円になるので、106万円の壁と呼ばれることがあります。
パート主婦の年収の壁については、以下の記事もご参照ください。
社会保険に加入しなければならない要件には、賃金の額や会社の規模の条件のほかに、労働時間の条件もあります。
たとえば、月収が9万円であっても、時給1,500円なら1か月あたりの労働時間は60時間です。この場合、1週間あたり15時間程度になるので、他の条件を満たしていても、社会保険に入らなくてもすみます。
年収106万円を超えている場合でも、時給によっては働く時間を調整することで、夫の扶養に入れることがあります。
以下、主婦が従業員が501人以上いる会社で1年以上時給1,000円のパートをすると仮定し、仕事をする時間が増えるに従って税金等がどう変わるのかを見てみます。
子供が小さい間はあまり仕事の時間を増やしたくないという人も多いと思います。1日2~3時間程度の仕事なら、子供が幼稚園に行っている間にもできます。
たとえば、1日3時間で週3~4日程度なら、労働時間は週10時間、月40時間程度です。この場合には、月収4万円、年収48万円くらいなので、所得税・住民税はかかりません。社会保険に入る必要もないので、夫の扶養内で働けます。
子供が小学校くらいになったら、働ける時間を増やしたいという人も多いでしょう。たとえば、1日4時間で週5日程度なら、週20時間、月80時間程度になります。
この場合、月収8万円、年収96万円となり、所得税・住民税は課税されません。労働時間は週20時間以上ですが、月収8.8万円未満なので、社会保険の加入義務も生じません。
週5日でも9時~17時はきついという場合には、1日6時間程度の勤務に抑えることがあると思います。1日6時間で週5日程度働けば、週30時間、月120時間くらいになります。
この場合、月収12万円、年収144万円となるため、所得税・住民税が課税されます。所得税・住民税の概算は次のようになります。
なお、このケースでは年収130万円以上となっているため、夫の被扶養者になれません。自分で社会保険に加入しなければならず、給料の13~14%程度の保険料を払う必要があります。
税金等を合計すると
となり、手取り年収は118万1,300円です。社会保険に入れば手取りが大きく減ってしまいますが、将来の年金が増える、病気やケガで休んでも傷病手当金がもらえるなどのメリットもあります。
手取りが減っても一概に損するとは言えませんが、どうせ負担が生じるなら、もう少し働く時間を増やしてもいいでしょう。
フルタイムパートの場合には、1日8時間で週5日、週40時間というケースが多くなります。この場合には、月160時間となり、月収16万円、年収192万円です。所得税・住民税、社会保険料は次のようになります。
この場合、所得税・住民税・社会保険料の合計は39万3,100円、手取り年収は152万6,900円となります。
税金や社会保険料はたくさん払わなければなりませんが、その分年収も増えているので、働き損とは感じにくいかもしれません。
ですが、パートにはボーナスが出ないこともあるので、フルタイムで働くなら正社員を目指した方が良いでしょう。
主婦が夫の扶養内で働きたいという場合には、103万円や150万円という年間の収入を基準に考えます。
社会保険も106万円、130万円という年収が基準になりますが、同じ収入でも労働時間によって加入の必要性の有無が変わってくることがあります。
パートで働くときには、あらかじめ時給と労働時間から年収がいくらになるかを計算し、税金等について考慮しておきましょう。