- 貸株サービスは、保有している株式を証券会社に貸し出して金利を受け取れるサービス。
- 金利が年率10%を超える銘柄もある。
- 配当金も受け取れるが、「貸株配当相当額」になり雑所得の扱いになるので注意が必要。
公開日:2020年10月15日
株式を保有していると得られる利益(インカムゲイン)として、配当や株主優待のほかに貸株サービスがあります。しかし、貸株サービスを利用している人は少ないのではないでしょうか。この記事では貸株の仕組みとメリット・デメリットについて解説します。
貸株サービスとは、投資家が保有している株券などを証券会社に貸し出し、証券会社から貸株金利を受け取れるサービスです。金利は銘柄ごとに証券会社によって決められ、高いものだと年率10%以上の銘柄もあります。
証券会社は、投資家から借りた株券をほかの投資家(機関投資家)などに貸し出すなどして運用を行います。貸株の仕組みは、決済安定性や流動性の向上など、市場機能の発揮に大切な役割を果たしているのです。
投資家が貸し出した株式は、貸株市場で証券会社から機関投資家に貸し出されます。そして、そこで得た金利が貸株料として個人投資家に支払われるのです。
貸株サービス利用中の株であっても、売り注文を出せば自動的に貸株が解除され、売却も可能です。売却するときに貸株を解除する手続きは必要ありません。貸株中であってもいつもと同じように自由に売却できるという利便性があります。
このようなサービスは、インターネット証券を中心に投資家に提供されています。ただしサービス内容は証券会社によって異なるので、詳細を各社のホームページで確認する必要があります。
出典:日本取引所グループ
貸株サービスのメリットは、主に次の3つです。
貸株サービスを利用するのに手数料はかかりません。また、貸株金利は貸株市場での受給をもとに証券会社がそれぞれ決めているため、銘柄によって異なります。ほとんどの銘柄は0.1~0.2%程度ですが、高い銘柄になると年率10%を超えるものもあります。
たとえば、貸株サービスを行っている楽天証券では、年率1%以上の銘柄が515銘柄、年率13%以上の銘柄が3銘柄あります(2020年9月14日時点)。
貸出金利が年率1%の銘柄を100万円分貸し出す場合、年間1万円の金利を受け取れるのです。保有している株式を貸し出すだけで貸株金利を受け取れるというのは、貸株サービスの大きなメリットといえるでしょう。
貸株サービスを利用する2つ目のメリットは、保有している株式を有効利用できるという点です。
株式の利益にはキャピタルゲインとインカムゲインの2種類があります。キャピタルゲインとは株式を売却することによって得られる売買差益のことです。たとえば10万円で購入した株式が15万円になったときに売却すれば、差額5万円がキャピタルゲインになります。
そしてインカムゲインとは、株式を保有している間に得られる利益です。株式では配当金や株主優待などがインカムゲインになります。
配当金とは、株主に分配される現金での配当のことです。株主は持株に応じて利益の還元を受ける権利を持っています。配当金は会社の利益の状態によって増減や有無が決まります。
ただし、会社によっては利益があっても配当金を支払わない場合もあります。また株主優待とは、企業が株主に自社の商品や割引券をプレゼントすることです。
配当だけでなく、株主優待からもリターンが得られるので、インカムゲイン投資は人気があります。さらに貸株を利用すれば、保有している間に貸株金利を受け取れるので、インカムゲインを増やせるのです。
もちろん株式は値下がりリスクがありますが、もともと保有していた株を貸し出すだけなので、貸株自体でリスクが高まるわけではありません。
貸株で発生するリスクは証券会社が倒産することですが、その点は銀行と同じでも、預金金利の何十倍、何百倍といった金利がもらえる可能性があるのです。
信用取引をするには、「委託保証金」が必要です。委託保証金は現金が一般的ですが、保有している株式を「代用有価証券」として担保にすることもできます。そして、この代用有価証券を貸株として利用できるのです。
ただし、信用取引口座を開設していると貸株サービスを利用できない証券会社もあります。楽天証券など、信用口座を開設していても貸株が利用できる証券会社を利用するようにしましょう。
続いて、貸株サービスのデメリットについても確認しておきましょう。
貸株をしたままでは、配当金や株主優待が受けられない場合もあるので注意が必要です。
ただし、所定の手続きを取れば、貸株しながら配当金や株主優待も得られます。そして多くのネット証券では、基準日に自動的に株券が口座に戻されるような設定が可能です。
また、株主優待の中には長期保有が条件のものがありますが、貸株をしてしまうと保有期間が切れてしまう恐れがあります。貸株で「株主優待優先」を選べば権利確定日に一時的に保有状態に戻せますが、長期保有の期間は切れてしまいます。
ですから、複数株を保有している場合は一部を残し、残りの株式を貸し出すことによって利息をもらうという方法がオススメです。長期保有の条件を満たしながら金利ももらうことができます。
貸株サービスを利用中の証券会社が倒産した場合、貸株中の株券などが返済されないリスクがあります。貸株サービスを活用して貸し出された株式は、投資者保護基金による保護対象になっていないからです。
今のところ貸株サービスを提供しているのは大手ネット証券に限られているので、破綻リスクは低いものの、万が一のときには株式が返ってこないリスクもあると覚えておくようにしましょう。
株式を保有している投資家は、配当金を受け取れます。しかし、貸株をしている銘柄では、配当金ではなく貸株配当金相当額が支給されます。この貸株配当金相当額は、配当所得ではなく「雑所得」の扱いになるので注意が必要です。
たとえば1万円の配当金の場合、特定口座にしておけば20%が源泉徴収され、8,000円が振り込まれて終了です。
しかし、貸株配当金相当額は配当所得ではなく雑所得なので、8,000円が振り込まれるのは同じですが、確定申告をすると8,000円に対する所得税まで取られてしまう、いわゆる二重課税になってしまうのです。
貸株配当相当額は、株式投資による過去の損失と相殺できる「損益通算」の対象にもなりません。所得が多い人の場合、総合課税の雑所得になると配当所得以上の税率が課される恐れもあります。
損益通算ができないということは、前年に株式投資で損失を出していた場合でも利益を圧縮できるメリットがなくなるため、税制面のデメリットについては注意が必要です。
最後に、貸株サービスを活用できる証券会社を紹介します。
SBI証券のプレミアム金利適用銘柄では、比較的高い金利をもらえます。また、最高金利の上限を設けている証券会社もありますが、SBI証券では最高金利の上限はありません。そして、金利の見直しは随時行われます。
SBI証券の優待権利自動取得サービスでは、「優待優先」と「金利優先」の2つのコースが用意されています。優待優先コースでは、株券の貸出を一時的に解除し、株主優待の権利を取得。権利落ちになったら、再び自動で貸株サービスを開始します。
一方の金利優先サービスでは、株券をすべて貸し出し、株主優待の権利は取得せずに貸株金利の取得を優先します。そして配当金相当額も、証券総合口座へ自動的に入金されるので便利です。
SBI証券では、信用取引口座を開設していても貸株サービスを利用できます。信用取引の必要保証金以外の株式は貸株金利をもらえるので、ムダのない運用が可能です。
信用取引を控え、定期的に金利収入を得たい場合は貸株に設定し、積極的に信用取引で収益を得たい場合は代用有価証券にするなど、銘柄ごとの設定ができます。
楽天証券の貸株サービスは、高い金利が魅力。1%以上のボーナス金利銘柄が515銘柄あり、年率13%以上の銘柄も3銘柄あります(2020年9月14日時点)。
株式を貸し出すと株主の権利も移転してしまいますが、楽天証券の株主優待・配当金自動取得サービスを利用すれば、貸株サービスを利用していても配当金や株主優待を自動で受け取れます。株主優待・配当自動取得サービスには、次の3つのコースがあります。
金利優先コースでは、株式の自動返却は行わないので、貸株金利を継続して取得できます。そして権利確定日には、貸株金利が通常の5倍になるというメリットがあるのです。また配当金は、配当金相当額として預り金に入金されます。
株主優待優先コースでは、株主優待の権利確定日に自動的に口座へ株式が返却され、株主優待の権利を受け取れます。株主優待がない場合は、配当金は配当金相当額として預り金に入金されます。
貸株しながら配当金も優待も欲しい人に適したコースです。配当金や株主優待の権利確定日に自動的に口座へ株式が返却され、配当金や株主優待を受け取れます。
信用貸株とは、信用取引の代用有価証券の株式を貸し出すことで貸株金利を受け取れるサービス。
これまで信用取引の代用有価証券として利用している株主に関しては貸株サービスを利用できませんでしたが、信用貸株を利用することによって、代用有価証券による信用取引の余力を維持しながら貸株金利を受け取れるようになりました。
貸出ししている代用有価証券でも原則80%で評価するので、掛け目の変更はありません。また、貸し出し中でも売却や現渡しが可能です。
現渡しとは信用取引の決済方法のひとつで、売り建てた株式を決済するとき、手元にある、またはほかの方法で取得した同銘柄・同株数の株式を差し入れて決済することです。
マネックス証券の貸株サービスの手続きは簡単にできるのが特徴です。ウェブサイト上で申し込むだけで、翌営業日から自動的に算出されます。
一度申し込めば、新しく買った株は自動的に貸株に出され、売却するときは自動的に解除されるので、特別な手続きは必要ありません。また、一部の株だけを貸し出すという指示もできます。ただし、信用取引口座を開設している場合は貸株サービスを利用できません。
マネックス証券の貸株サービスなら毎日金利がつくので、長期だけでなく短期保有する銘柄でもコツコツと金利を受け取れます。また通常の金利の年率0.1%よりも高い金利がつく「ボーナス金利銘柄」も多く用意されています。
さらに、ボーナス金利には上限がありません。2020年7月10日以降の貸株金利では、0.5%以上5%未満の銘柄が308銘柄、5%以上の銘柄が47銘柄もあり、最大で15%の貸出金利がついています。
また、株券を貸し出している間は配当金を受け取れない代わりに、配当金相当額を受け取れます。
松井証券に保有している株式を貸し出すことで、株式に応じた貸株金利を受け取れます。貸株サービスを利用していても、保有している株はいつでも売却可能です。
松井証券の貸株金利の最低金利は0.2%で、最高金利の上限はありません。口座で眠らせている株式を活用し、収益機会を広げたい投資家にとって便利なサービスといえるでしょう。
配当金や株主優待も事前の設定でしっかり受け取ることができます。また、権利確定日でも松井証券に株式を貸し付けることで、配当金や株主優待よりも金利を優先して受け取る設定も可能です。
松井証券の貸株サービスにおける権利取得方法は、以下の3つから選べます。
権利確定日でも貸株を継続することで、貸株金利を受け取り続けることができるサービス。ただし配当金は、配当金相当額として証券口座に入金されます。
株主優待の予定のある銘柄について、権利確定日前に貸株を解除して株主優待を受け取れるようにする設定です。株主優待のない銘柄で発生する配当金は、配当金相当額として証券口座に入金されます。
株主優待があるかないかに関わらず、権利確定日前に必ず貸株を解除することで、配当金と株主優待の両方を受け取れるようにする設定です。
松井証券では、信用口座を持っていても貸株サービスが利用できます。保有している株式を信用取引の担保にしながら、さらに貸株サービスで貸株金利を受け取れるのです。
担保にしている株式が貸株で貸付されても、原則80%で評価するので維持率に影響はありません。
貸株サービスを利用すれば、保有している株式を証券会社に預けることによって、貸株金利が受け取れます。銘柄によっては10%を超える金利をもらえるので、お得なサービスといえるでしょう。
ただし配当金は貸株配当相当額になり、配当所得ではなく雑所得の扱いになります。収入によっては税負担が大きくなるので、貸株サービスのメリット・デメリットを理解した上で利用するようにしましょう。