- 健康保険では、おじおば・甥姪も被扶養者に含めることができる。
- 130(180)万円未満+被保険者の2分の1未満の年収が条件(同一世帯の場合)。
- 非課税所得も収入にカウントする。
- 今後の法改正によっては、年収130万円未満でも扶養に入れない可能性も。
- 保険料と年金受給額を合わせると、生涯の手取りはプラスにもなる。
公開日:2019年12月22日
「扶養から外れないよう、年収130万円以上は働きたくない!」と気にする方は多くいます。
扶養に入れる基準は「年収130万円」だけではありません。また130万円を超えると本当に損なのか。生涯受け取れる年金額と併せて確認しましょう。
目次
社会保険で扶養される人(被扶養者)になれる範囲は次のとおりです。
被扶養者…扶養される人。”会社員の夫と専業主婦の妻”であれば妻のこと。
厚生年金で扶養できるのは「配偶者」、つまり夫か妻です。親や子などは、健康保険で扶養になる場合でも、公的年金には自分で加入して保険料を払う必要があります。
健康保険では、厚生年金と比べて広い範囲の人を扶養することができます。
生計維持関係とは、後に述べる「年収の基準」のことです。
これらの人は、年収の条件をクリアすることに加えて「同一世帯」である必要があります。ここでいう「同一世帯」とは、被保険者と「家計も住居も」同じにしていることです。
被保険者…社会保険に加入している本人。”会社員の夫と専業主婦の妻”であれば夫のこと。
別居している場合や、同居していても家計が別の場合は、被扶養者になれません。
被扶養者になれる人の範囲は前述のとおりです。
これらの人が被扶養者とされるには”生計維持関係”が認められなければいけません。簡単に言うと「被保険者に生計を支えてもらっています」ということです。その判断をする年収の基準に「130万円」が登場します。
年収130万円未満であればOKではなく、次の2つの条件をいずれも満たす必要があります。
年収が130万円以上あると、被扶養者になれません。60歳以上もしくは障害者の場合は、金額が180万円に緩和されています。
年収130万円未満であれば誰でも被扶養者になれるのでしょうか。
たとえば、妻が収入120万円でも、夫の年収が110万円という場合。この時に、夫が妻の生計を維持している…とは言いづらいですよね。年収の上限に加えて、次の条件を満たす必要があります。
収入は、給料だけを指すものではありません。税金がかからない”非課税収入”も、扶養を判断するときには収入とみなされることがあります。また、手取り額ではなく、税引き前の総支給額でチェックすることにも気を付けましょう。
年金収入も含めて収入とします。障害年金や遺族年金は、所得税がかからない収入です。しかし被扶養者になれるか判定する際には、障害年金や遺族年金も収入とみなされます。
雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)も、同様に収入に含めます。
年末調整のあと会社からもらう「源泉徴収票」には、年間収入の額が書いてありますが、ここには非課税になる通勤手当は入っていません。被扶養者の判断をする時には、非課税通勤手当も収入とみなされます。
退職金などの”一時的な収入”は、収入に含めません。
収入が増えて社会保険の被扶養者でなくなるのには「年収106万円」から「年収130(180)万円」まで3つの段階があります。
この基準は、特定の企業に勤めている場合のみあてはまります。従業員数が501人以上の企業か、501人未満であって「短時間労働者も社会保険に加入させる」と申し出ている企業が対象です。
例えば、次のような場合を検討します。
1カ月の収入は92,400円、年収は約110万円です。この場合、年収130万円未満ですが、勤務先で自分が「被保険者」になるため、被扶養者にはなれなくなります。年収だけではなくて、勤務時間など次の条件を全て満たす場合に被保険者になります。
正確には年収で判断するのではなく「月給8.8万円以上」の人を対象にしています。
週30時間以上働く人が対象になることが多いです。収入の額は判断基準になっておらず、
をどちらも満たすと、勤務先で社会保険に加入しなければならず、被扶養者にはなれません。
週30時間働いた場合の年収はというと、時給800円であれば年収約120万円、時給1,000円であれば年収約150万円になります。
年収が130万円以上(60歳以上・障害者の場合は180万円)になると、被扶養者にはなれません。給与以外の収入、失業手当や年金も含めて年収が130万円以上かどうか判断しましょう。
現在は主に従業員501人以上の大企業に”106万円の壁”が存在していますが、この企業規模を改正して「全ての会社を対象に」「51人以上の会社を対象に」などの案が挙げられています。
もし、すべての会社が対象になると、収入130万円未満かどうかではなく、給与収入106万円未満かどうかで扶養に入れるか判断するようになります。
将来は年収130万円未満で働いても、扶養には入れない可能性があるのです。
年末調整の時、税金が安くなる配偶者控除。年収130万円未満だと、配偶者控除が受けられるのでしょうか?
いいえ、社会保険で扶養かどうかと、税金を計算するとき扶養であるかは別の話です。
例えば、妻の年収が50万円しか無くても、夫の年収が1,000万円を超えていると、夫は配偶者控除を受けられません。
また、妻の年収が130万円以上の場合であっても、150万円以下であれば、配偶者控除と同額の「配偶者特別控除」が使え、夫の所得税・住民税が安くなります。(夫の年収が900万円以下の場合)
では、社会保険の扶養の範囲を超えて働いたときには、収入はどう変わるのでしょうか。
給与から社会保険料を支払うようになります。厚生年金保険料は18.3%、健康保険料はおよそ10%で、会社と従業員が半分ずつ負担します。
月収10万円であれば「標準報酬9.8万円」とグループ分けされ、年金・医療を合わせた保険料は月13,818円(R元年度/東京都/40歳未満の例)です。
市区町村役場の窓口に行き、国民年金・国民健康保険に加入する手続きをします。国民「年金」保険料は給与に関わらず一律です。令和元年度の保険料は月16,410円です。
国民「健康」保険料がいくらになるかは、お住いの市区町村に確認してみましょう。
被扶養者でいるメリットは、社会保険料が抑えられることです。1人の被保険者が、3人を扶養していても、5人を扶養していても、負担する健康保険料は1人分のままです。
家族がいると、会社が「扶養手当」「配偶者手当」などを支給してくれることがありますが、家族の収入が増えると支給してもらえなくなる場合もあります。
手取り収入だけを見ると、扶養でいることはメリットのようにも思えますが、勤務先で自分が社会保険に加入することと比べてデメリットも沢山あります。
社会保険料の負担がかからないように収入を抑えて、いっぽうで毎月多額の生命保険料を支払っている…というのはもったいない話です。社会保険に加入するほうが、リスクに手広く備えられるかもしれません。
年収130万円の場合、負担する社会保険料はおよそ15%、年間約20万円です。ここから雇用保険・所得税・住民税がさらに引かれますが、年金・健康保険料ほどは高くありません。
年収 | 社会保険料 | 手取り |
---|---|---|
110万円 | ― | 約110万円 |
129万円 | ー | 約129万円 |
130万円 | 約20万円 | 約110万円 |
160万円 | 約24万円 | 約136万円 |
つまり、年収110万円で働く場合と、年収130万円で働く場合では、手取りがあまり変わりません。年収150~160万円まで働けば、手取り収入が130万円ほどの水準になります。
しかし、130万円以上働き、年間の手取りが20万円減ったからといって、必ずしも損するわけではありません。
先ほど述べた「社会保険に入っていると受けられる保障」が受けられるようになります。もちろん将来の年金額にも反映されます。
実際に老後の年金額を計算してみましょう。年収5万円、1カ月に4,000円分ほど多く働いて、扶養を超えた場合を考えます。(※金額は全て概算)
(A)扶養の範囲 | (B)自分で社会保険に加入 | |
---|---|---|
年収 | 125万円/年 | 130万円/年 |
40年間で増える収入 | ー | +200万円 |
40年間で払う社会保険料 | ー | -780万円 |
20年間(65~85歳)受け取る年金の差額 | ー | +580万円 |
差額の合計 | ー | ±0円 |
毎月の収入だけ見ると「収入が減った…」と思っても、生涯で受け取れる額には変わりがないかもしれません。
年金は終身受け取れますから、この例であれば90歳、95歳と生きると収支はプラスに転じます。(ただし、後述する「加給年金」が受け取れなくなるなど、一概に年金が増えるとは言えないので注意しましょう。)
もちろん、ケガや病気、出産の際には、先ほど挙げた保障も受けられます。
配偶者をずっと扶養していた場合は「配偶者加給年金」がプラスされます。これが”扶養手当””配偶者手当”などと呼ばれることもあります。
年齢によって加算される額も含めると、年間約25~39万円です。昭和18年4月2日以降に生まれた人は、最高額の約39万円を受け取れます。
しかし加給年金が受け取れるのは、被保険者が年上の場合のみ。5歳差であれば5年間、1歳差であれば1年間のみ受け取ることができ、被扶養者が年上の場合は受け取れません。
加給年金の受け取りが終わると、今度は被扶養者だった人の年金に”振替加算”がプラスされますが、昭和41年4月1日以前生まれの人だけが対象です。
つまり加給年金は、生年月日や夫婦の年齢差によって受け取る額が大きく違います。「扶養していると、年金にも扶養手当がつくからラッキーだよね」とも言えないのです。
扶養を超えると、どんな変化があるかイメージが湧いたでしょうか。扶養でいるために収入を調整する、という働き方は今後変わってくるかもしれません。
自分は「何のために」扶養の範囲で働いているのか。保険料を抑えて手取りを増やしたい…というだけなら、実は損をしているかもしれません。
目指すものは何なのか、キャリアアップなのか、家庭や趣味に時間を割くことなのか…その希望によって「扶養に入るかどうか」の方向性は変わります。今一度、自分の希望に合った働き方なのかを考えてみましょう。