- 妻は夫の退職金のうち、婚姻期間または同居期間に対応する部分の2分の1をもらえる。
- 夫の定年退職まで10年以内なら、将来受け取る退職金も分けてもらえる可能性がある。
公開日:2019年1月21日
女性が熟年離婚する場合には、老後の資金が足りなくなることに不安を感じるはずです。老後の資金になるものと言えば、主に年金と退職金。
年金には離婚時年金分割の制度が用意されていますが、退職金の分割制度はありません。ただし、退職金は財産分与により分けてもらえる可能性があります。
ここでは、離婚時に夫の退職金を財産分与してもらう方法について説明します。退職金は金額も大きいですから、老後の資金として忘れずに確保しておきましょう。
離婚時の年金分割のしくみについてはこちらの記事をご覧ください。
婚姻期間中に夫婦で築いた財産は、離婚の際に財産分与の請求ができます。夫が勤務先から退職金をもらう場合には、退職金も財産分与の対象となり、妻も退職金を分割してもらう権利があります。
会社員や公務員は、勤務先を退職するときに、退職金をもらえることが多いでしょう。退職金は、給料の後払い的性質を持つものです。婚姻期間中に夫が受け取った給料には妻の貢献も入っているため、夫婦が共同で築いた財産と考えられます。
退職金は、給料の一部を貯金しているようなものです。婚姻期間中に夫婦でした貯金が財産分与の対象となるのと同様に、退職金についても、婚姻期間中に貯金したと考えられる部分は、財産分与の対象になります。
離婚時に夫が既に退職金を受け取っている場合、残っていれば当然分けてもらうよう請求できます。また、離婚時にまだ退職金を受け取っていない場合でも、退職金を分割してもらえる可能性があります。
将来の退職金を分割してもらえるのは、退職まであと少しで、退職金をもらえるのがほぼ確実と思われる場合になります。この場合、退職後に離婚すれば退職金を分割してもらえるのに、退職前に離婚すると分割してもらえないとなると不合理だからです。
離婚時に20代や30代の場合には、今の会社に定年まで勤めるかどうかはきわめて不明確です。定年まで勤めたとしても、必ず退職金をもらえるという保証もありません。このような場合には、退職金を分けてもらうことはできないことになります。
何歳以降の離婚なら退職金を分けてもらえるのかなどの明確な基準はありません。判例では、退職まで概ね10年以内であれば、将来の退職金の財産分与が認められるケースが多くなっています。
夫が将来受け取る退職金の財産分与について合意をした場合、離婚時にその金額を前もって払ってもらってもかまいません。
しかし、実際に退職金を受け取っていないので、夫側は払えるだけの現金を持っていないことが多いでしょう。離婚時に払えない場合には、将来退職金を受け取った時期に支払う旨の合意をしておきます。
なお、将来受け取るはずのお金を前もって払ってもらう場合、本来の受け取り時までに生じる利息を差し引きし、現在の価値に直すという処理をします。これが「中間利息控除」と呼ばれるものです。将来の退職金を離婚時に受け取る場合、中間利息控除を行うため、受取金額が少なくなります。
離婚時に退職金の財産分与について決めなかった場合、離婚後に退職金の分与を請求することも可能です。ただし、財産分与請求には、離婚後2年以内という期限がありますから、注意しておきましょう。
なお、離婚後2年以内というのは、家庭裁判所に財産分与の調停や審判を申し立てる期限です。離婚後2年以内に申し立てさえしておけば、調停・審判中に離婚後2年が経過しても問題ありません。
財産分与の割合は、原則として夫婦で2分の1ずつです。しかし、退職金の分与割合は、必ずしも半分ずつとは限りません。退職金のうち財産分与できるのは、婚姻期間中の給料に相当する部分のみです。
離婚時に既に退職金が支払われている場合には、退職金額が確定していますから、計算も比較的簡単です。具体的には、次のようになります。
退職金の全部が婚姻期間中に築いた財産ということになります。退職金の全額が財産分与の対象となり、妻は退職金の半分の請求が可能です。
退職金の全部ではなく、勤務期間のうち婚姻期間が占める割合分が財産分与の対象になります。たとえば、勤務期間が30年で婚姻期間が20年の場合には、退職金の3分の2が財産分与の対象となり、妻は退職金の3分の1の請求が可能です。
将来の退職金については、金額が確定していません。分与額の計算について明確なルールが定まっているわけではありませんが、一般には次の2つのどちらかの考え方にもとづき計算します。
離婚時点で自己都合退職したと仮定して、就業規則や退職金規程を参考に、退職金を計算します。仮に算出された退職金のうち、婚姻期間に相当する部分の2分の1を分与額とします。
定年退職まで勤務したと仮定して受け取る退職金額を試算します。算出された退職金のうち、婚姻期間に相当する部分の2分の1を分与額とします。
共働きの場合でも、夫の退職金の分与を請求できます。一方で、自分の退職金も夫に分与しなければならない可能性があります。夫婦双方の退職金が財産分与の対象になる場合、財産分与の対象となる額を合計して2分の1ずつ分ける形で調整することになります。
離婚の前から別居している場合、財産分与については、原則として別居時の財産を基準にします。退職金も、婚姻期間のうち別居時までの期間に相当する部分が財産分与の対象となります。
将来の退職金の財産分与について離婚時に合意をしても、手元に現金がなければ、実際に受け取ったときの支払いにせざるを得ません。約束した退職金を将来必ず払ってもらうためには、差押えなどの強制執行が可能な形にしておくのが理想です。
退職金の財産分与で差押えを可能にするには、次のような方法があります。
離婚時に退職金の財産分与を行う場合、分与額の計算は複雑です。計算方法によって分与額も変わってくるため、話し合いで簡単に合意できないことも多いでしょう。離婚自体に合意しているけれど離婚条件で合意できない場合にも、家庭裁判所の離婚調停で解決することが可能です。
離婚調停では、裁判官・調停委員のアドバイスにもとづき、退職金の分与方法を決めることができます。調停が成立すれば、裁判所で調停調書を作成してもらえます。この場合、約束どおり退職金を払ってもらえない場合には、調停調書にもとづき差押えが可能です。
金銭の支払いに関する約束を公正証書にしておけば、公正証書にもとづき差押えが可能になります。離婚時には、退職金の支払いや他の合意事項について、離婚公正証書を作成しておきましょう。
なお、差押えを可能にするためには、支払金額が確定していなければなりません。「退職金の2分の1の金額を支払う」というだけの取り決めでは、具体的な金額が特定できず、そのままでは差押えができないことになります。
協議離婚する場合でも、将来の退職金の財産分与については、専門家に相談した上で取り決めするのがおすすめです。
離婚時、退職金は財産分与の対象になります。夫が定年退職するまで概ね10年以内で退職金をもらえるのがほぼ確実なら、夫が将来受け取る退職金を分けてもらうことも可能です。
退職金は金額も大きいため、どう分けるかで争いになりがちです。話し合いで合意できない場合には、調停を利用する方法もあります。老後の資金として重要なものの1つですから、安易に妥協しないようにしましょう。
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