- 年金分割は婚姻期間中の厚生年金保険料納付実績を離婚時に分ける制度。
- 共働きでも合意分割により年金受取額を増やせる。
- 専業主婦は3号分割により夫の同意なしに納付実績の半分をもらえる。
- 年金分割の請求は離婚後2年以内に年金事務所で手続きする必要がある。
公開日:2019年11月12日
老後の資金としてまず確保しておきたいのが年金です。サラリーマン家庭で夫の方が妻よりも収入が多い場合、妻は離婚時に年金分割を受けることにより、将来の年金受取額を増やせます。
本記事では年金分割のしくみについて、専業主婦と共働き夫婦の違いまでわかりやすく説明します。年金分割の手続きの大まかな流れについても知っておきましょう。
なお、離婚時の退職金の分割について知りたい方は以下の記事をご覧ください。
目次
離婚時年金分割とは、婚姻期間中の夫婦の厚生年金保険料納付記録(納付実績)を離婚時に分け合う制度です。年金分割では、年金そのものを分けるのではなく、分けるのはあくまで保険料の納付実績になります。
公的年金(国民年金・厚生年金)は、保険料の納付実績に応じて給付額が決まります。
たとえば、夫が会社員(国民年金第2号被保険者)、妻が専業主婦(国民年金第3号被保険者)の場合、妻は保険料を負担していないため、婚姻期間中の納付実績がありません。
このようなケースでは、妻は離婚すると、将来の年金受取額が少なくなってしまいます。
離婚時に年金分割により夫の保険料納付実績を分割してもらえば、専業主婦の妻も、将来の年金受取額を増やすことが可能です。
離婚時年金分割は、国が運営・管理している公的年金に関する制度です。「年金」と名の付くものがすべて対象になるわけではありません。
離婚時年金分割制度の対象となるのは、公的年金のうち、厚生年金(旧共済年金含む)のみです。自営業などで婚姻期間中夫婦共ずっと国民年金の第1号被保険者だった場合には、年金分割はできません。
私的年金(公的年金に上乗せする目的で加入する年金)も、年金分割の対象外です。
企業年金(確定給付年金、企業型確定拠出年金、厚生年金基金など)、個人型確定拠出年金(iDeCo)、国民年金基金、民間の保険会社の個人年金などは私的年金なので、年金分割はできません。
私的年金のうち、結婚している間に夫婦で保険料を払った部分については、財産分与ができる可能性があります。
私的年金を財産分与する場合には、将来私的年金を受け取った時点で受け渡しするか、受取見込額を計算して離婚時に清算する方法などを検討しましょう。
年金分割には、「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。手続きする前に、どちらに該当するのかを把握しておきましょう。
夫婦が合意することにより、婚姻期間中の納付実績を多い側から少ない側へ分割する方法が「合意分割」です。合意分割は、婚姻期間全体が対象になります。
共働き夫婦の場合でも、夫の方が収入が多いなら、合意分割をして妻の年金受取額を増やすことが可能です。
平成20年4月1日以降に国民年金の第3号被保険者だった人(専業主婦)は、平成20年4月1日以降の納付実績については、相手との合意なしに分割が受けられます。これを「3号分割」といいます。
3号分割ができる人も、平成20年3月31日以前の納付実績については、合意分割によらなければ分割が受けられません。
なお、合意分割の対象期間に3号分割の対象となる期間が含まれているときには、合意分割を請求した時点で、3号分割の請求があったものとみなされます。
年金分割では、年金そのものを分けるのではありませんから、分割してもらう金額の相場というのはありません。年金分割で分けるのは保険料の納付実績で、割合を指定して分けることになります。
※以下、夫婦のうち夫の方が収入が多いと仮定して説明します。
年金分割で保険料の納付実績を分けるときには、「按分割合」を指定します。
按分割合とは、夫と妻の納付実績の合計を100%と仮定した場合の、年金分割後の妻の持分です。「夫の納付実績の○%をもらえる」という意味ではありません。
婚姻期間中、妻に保険料の納付実績がない場合(専業主婦の場合)、按分割合50%とすると、夫の納付実績の半分をもらうことになります。
一方、妻にも保険料納付実績がある場合(共働きの場合)、按分割合50%は、妻が元々持っている持分と夫から受け取る分を合わせて50%ということです。
年金分割では、妻の持分が夫の持分を超える指定はできません。そのため、合意分割で定めることができる按分割合の上限は、どの夫婦でも50%(2分の1)となります。
按分割合の下限については、妻が元々持っている持分によって変わります。年金分割をしても、妻は元々持っている持分を奪われることはないからです。
妻が婚姻期間中ずっと専業主婦だった場合には、妻が元々持っている持分は0%なので、0~50%の範囲内で按分割合を指定します。
共働きで妻が元々25%の持分を持っている場合には、妻の25%は確保されるので、指定できる按分割合の範囲は25~50%です。
合意分割で指定できる按分割合の範囲は、日本年金機構に「年金分割のための情報提供請求書」を提出すれば確認できます。
合意分割では、当事者同士で按分割合を決められますから、50%以外の割合にすることも可能です。しかし、当事者間の話し合いで合意できず、裁判所の審判や調停になった場合には、通常は50%の割合に指定されます。
相手が按分割合50%の合意分割に応じてくれない場合には、裁判所に申し立てをした方がよいでしょう。
3号分割の場合には、按分割合は50%と決まっています。3号分割の対象期間については、年金事務所で年金分割の請求をすれば、妻は自動的に50%の持分の分割を受けられます。
婚姻期間中に別居期間があっても、年金分割は原則どおり上限50%の按分割合でできます。
年金分割では、特別な事情がない限り、按分割合の上限50%が減らされることはありません。長期間別居していても、特別な事情には該当しないとされるのが通常です。
年金分割をするときには、事前に準備をした上で、離婚後に年金事務所で請求手続きをする必要があります。
年金事務所に行き、「年金分割のための情報提供請求書」を書いて提出します。
日本年金機構から「年金分割のための情報通知書」が自宅に郵送されてきます。
合意分割をする場合には、夫婦間の合意が必要です。話し合いで合意できない場合には、家庭裁判所に審判または調停を申し立てて、按分割合を決めます。
年金事務所で「標準報酬改定請求書」を提出し、年金分割の請求手続きを行います。
合意分割の場合には原則として当事者2人で年金事務所に行かなければなりませんが、年金分割の合意について記載された公正証書や公証人の認証を受けた年金分割合意書、裁判所の調停調書や審判書を持参すれば、分割を受ける側だけで手続きできます。
年金機構から「標準報酬改定通知書」が届いたら、年金分割の手続きは完了です。年金の受給時には、分割された納付実績にもとづき年金が支払われます。
年金分割で最も気を付けておかなければならないのが請求期限です。たとえ夫婦間で年金分割の合意をしても、期限までに年金事務所で請求手続きをしなければ、年金分割は受けられません。
年金分割の手続きは、離婚した日の翌日から2年を経過すると、それ以降はできません。離婚後に年金分割の合意をすることも可能ですが、離婚後2年以内に必ず年金事務所に行って、標準報酬改定請求書を提出する必要があります。
なお、離婚届を出す前に年金分割の請求をすることはできません。
離婚から2年経っていなくても、相手が死亡して1か月を経過すると、年金分割の請求はできなくなります。
離婚すれば、相手が亡くなっても連絡が来ないこともあるでしょう。年金分割の手続きを先延ばしにしていると、相手が知らない間に亡くなっていて、年金分割が受けられないこともあります。
年金分割の手続きは、離婚後速やかにすませておきましょう。
年金分割で年金を増やせるのは、専業主婦だけではありません。共働きでも、年金分割をしておけば、年金受給額が増えることがあります。
熟年離婚でなくても、多少は年金が増えるメリットがありますから、離婚の際には年金分割を検討しましょう。
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