- 奨学金保証人制度には保証人、連帯保証人、機関保証の3つがあります。
- 保証人や連帯保証人になると自己破産などのリスクがあります。
- 保証人や連帯保証人を頼まれた時は、本当に返還できそうか確認するなど、事前想定が必要です。
公開日:2019年12月28日
奨学金は、経済的理由で大学などに進学できない学生を支援する制度で、多くの人に教育の機会を提供する役割を担っています。しかし、申し込み時には保証人を立てなければなりません。
もしも奨学金の保証人を依頼されたら、どうすれば良いのでしょうか?この記事で詳しく解説します。
奨学金を利用する場合には、保証人が必要となります。子供の進学のために父母が保証人になったり、身内に頼むことが一般的です。
保証人とひと口に言っても、複数の種類があります。保証人を依頼する場合も、頼まれた側も、3つの種類を把握しておく必要があります。
まずは、その3つの種類として、日本学生支援機構の例を前提とした以下を解説します。
保証人とは、本人が返済できなくなった際に、肩代わりしなければならない人のことを指します。
保証人は請求額を半分に減額要請する「分別の利益」や、先に本人に請求を求める「催告の抗弁権」、本人の財産の差し押さえなどを求める「検索の抗弁権」などの権利があります。
ただ単に請求額を無条件に引き受ける必要はなく、与えられた責任の中で一定の権利を主張することが可能なのです。
連帯保証人には、保証人よりも重い責任が課せられています。連帯保証人には「分別の利益」や「催告の抗弁権」、「検索の抗弁権」がありません。
つまり、債権者から返済を求められれば、半額にする要求も、先に本人に請求を求めることも、本人の財産の差し押さえを求めることもできないのです。
その結果、債権者から求められるままに支払わなければなりません。つまり、連帯保証人とは、本人と同じ責任を負うこととなるのです。
機関保証とは、日本学生支援機構の奨学金を利用する際に、保証機関を利用する制度のことを指します。機関保証制度を利用すると、保証人も連帯保証人も不要となるため、家族や親類に迷惑をかけることがなくなります。
万が一延滞してしまった場合、保証機関が肩代わりをしてくれます。ただし、保証機関が一括返済後、本人に請求するため、借金を返さなくて良いというわけではありません。
機関保証制度を利用するには保証料(1,300円~6,900円)が必要で、毎月振り込まれる奨学金から差し引かれます。
もしも奨学金の保証人や連帯保証人になると、大きなリスクを背負うこととなります。では、具体的にどのようなリスクがあるのでしょうか?ここでは奨学金の保証人や連帯保証人のリスクとして以下を紹介します。
奨学金の保証人や連帯保証人になったとして、本人が返せずに請求が回ってくると、返済の責任に苦しめられることとなるでしょう。可愛い子供や甥っ子・姪っ子のためとはいえ、自分がしたわけではない借金の返済をし続けることになるのです。
住宅ローンなど他のローンを組んでいる場合には、奨学金の返済が上乗せされ、生活苦に陥る場合もあるでしょう。今後のライフプランが破綻するリスクがあるのです。
万が一奨学金を利用した本人が自己破産をした場合には、自己破産が連鎖する可能性もあります。
本人が自己破産をすると保証人が返さなければならなくなりますが、保証人にとってもいきなり借金がのしかかることになりますから、返済できなければ自己破産せざるを得ない場合もあるのです。
子供が自己破産したことによって、親が自己破産するケースも考えられます。仮に親も他の借金の保証人を立てている場合、その保証人まで自己破産をするという連鎖もあり得ます。
人間関係のトラブルも発生しやすくなります。子供の保証人になっている場合、借金の返済を巡って親子関係が悪くなる可能性があります。また、甥っ子や姪っ子の借金をしている場合、親戚同士でのトラブルとなる可能性も高いでしょう。
甥っ子や姪っ子だけでなく、その親との間も含め、トラブルが拡大してしまうこともあるでしょう。
もしも、保証人や連帯保証人になって欲しいと頼まれた場合、どのような想定や対策が必要なのでしょうか?ここではその内容として以下を解説します。
保証人や連帯保証人を頼まれた場合には、本当に返還できそうかを確認しましょう。借金は計画的に返済していくものですので、奨学金を利用する本人の計画性が重要となります。
たとえば、時間や約束にルーズな性格ではないかどうかや、浪費癖がないか、なんでも長続きする性格かどうかなど、本人の信用力を検証する必要があります。
また、安定収入を得られなければ、借金返済は不可能となりますので、卒業後就職できそうかどうかの予測も大切です。
どれだけ信頼ができる相手だったとしても、不測の事態で借金返済が滞る可能性があります。たとえば病気で仕事ができなくなったり、会社が倒産するなど、本人の責任以外の理由で保証人や連帯保証人に借金が回ってくることも考えられます。
このようなケースを想定し、返済免除制度の存在を伝えておきましょう。日本学生支援機構の返済免除制度は、一定期間借金を2分の1や3分の1に減額して返済を先送りする「減額返還」や、返還を猶予して先送りにする「返還期限猶予」があります。
また、本人が死亡・障害、教育・研究職に就いた場合の「返還免除」もあります。これらを知っておけば、借金の焦げ付きを防ぐことが可能です。
万一を想定してから検討することも大切です。万一本人が借金の返済ができず、債務が回って来た場合に対処できるかどうか検証してみましょう。奨学金の利用額分を返済できる金銭的ゆとりがあるならば、保証人を引き受けても差し支えありません。
しかし、利用額分を返済するほど金銭的ゆとりがなければ、自己破産の可能性が出てきます。
自己破産までいかないとしても、借金を軽減する「任意整理」や借金を5分の1程度まで減らす「個人再生」など、債務整理に迫られる可能性もあるため、あらかじめ想定が必要です。
保証人を依頼された場合、機関保証をすすめるのも1つの手です。先述のとおり機関保証は保証人を立てる必要がないため、万一の際に借金を被ることがありません。
本人が自己責任で利用することとなりますので、家族間や身内でのトラブルを避けることができます。
ただし、デメリットとして保証料がかかるため、本人にとっての負担は大きくなります。借金が焦げ付いた際の対応能力とのバランスを考慮しながら検討すると良いでしょう。
借金が焦げ付いた場合に対応が難しいのであれば、安請け合いせずに断わることも1つの選択肢です。自分の子供が奨学金利用をして進学を目指す場合、進学に意義を感じない場合には自分で何とかするように促すことも教育かも知れません。
また、親類から頼まれた場合には、その親類の中だけで何とかしてもらうように伝えることも考えましょう。頼る前に自分たちで何とかしてもらうことを前提としなければ、大きな被害を受けかねません。
連帯保証人ではなく保証人になった場合には、先述した分別の利益を把握しておきましょう。実は、この分別の利益を知らないがために、払わなくても良い分まで返済してしまっているケースが多いのです。
知っておきたい分別の利益として、以下の順に紹介します。
保証人の権利である「分別の利益」によって、保証人が返還しなければならないのは、未返還額の半分となります。しかし、日本学生支援機構は全額請求しますので、分別の利益を知らない人は全額返還してしまいがちです。
奨学金は借りたお金で、保証人はその肩代わりをしなければならないから、全額返還してしまうのは自然な発想かも知れませんが、保証人は半分に減額してもらう権利を有していると認識しておきましょう。
ちなみに、連帯保証人の場合は先述のとおり全額返還が必要です。
2018年11月1日の朝日新聞によると、日本学生支援機構は分別の利益を知らせずに、全額請求していることが報じられています。その結果、過去8年間で延べ825人に対して総額約13億円を全額請求し、9割以上が全額返還をしているとのことです。
つまり、法律の知識を知らない多くの人は、分別の利益の存在を知るきっかけもないまま、全額返還に応じていることになります。
知らせずに請求するやり方に対し、報道では法的な問題にも言及していますが、日本学生支援機構の担当者は「法解釈上、保証人から主張すべきもの」との認識を示しています。
つまり、分別の利益は保証人に選択が委ねられており、知らなければ損をしてしまうのです。主張すればちゃんと減額されますので、保証人になる際のたしなみとして知っておきましょう。
奨学金保証人制度には保証人、連帯保証人、機関保証の3つがあり、学生はいずれかを利用して借金を行います。しかし、学生やその親から頼まれて保証人や連帯保証人になると自己破産などのリスクがあります。
保証人や連帯保証人を頼まれた時は、本当に返還できそうか確認するなど、しっかりと事前想定する必要があります。場合によっては断わるか、機関保証をすすめるなど、安請け合いしないことも重要です。