- 離婚前に別居する場合でも「婚姻費用」として生活費を請求できる。
- 生活に余裕がないことを理由に婚姻費用の請求を拒否することはできない。
- 話し合いで婚姻費用を払ってもらえないなら、調停申立てができる。
- 婚姻費用算定表を見れば、婚姻費用の標準的な金額がわかる。
公開日:2019年3月2日
夫婦関係が破綻した場合、すぐに離婚するのではなく別居期間をおくことは多いと思います。離婚前の別居でも生活費の請求は可能です。ここでは、「婚姻費用」と呼ばれる生活費の請求方法や、生活費の相場がわかる「婚姻費用算定表」について説明します。
目次
婚姻費用とは結婚生活から生じる費用のことで、主に夫婦が別居したときに問題になります。
婚姻費用は、夫婦と未成年の子供にかかる生活費です。衣食住にかかる費用だけでなく、教育費や医療費、交際費なども婚姻費用に含まれます。夫婦は助け合って生活するのが前提ですから、婚姻費用は、夫と妻で公平に分担しなければなりません。
妻が専業主婦の場合には、自分で生活費を稼ぐことができませんから、夫が当然に妻や子供の生活費を払うことになります。妻が働いていても、夫の方が収入が多いなら、妻の生活費をいくらかは負担しなければならないということです。
別居しても、夫婦である限り、婚姻費用の分担義務はなくなりません。夫婦関係が破綻して別居した場合でも、婚姻関係を継続していれば、婚姻費用の分担を請求できます。
たとえば、夫の方が収入が多い場合、夫と妻のどちらが出て行ったとしても、妻は自分や子供にかかる生活費を夫に請求できます。妻が実家に戻ったとしても、離婚していないのであれば、妻から夫に対して婚姻費用を請求することは可能です。
婚姻費用は、養育費のように、子供がいなければ請求できないものではありません。子供がいない夫婦が別居した場合でも、婚姻費用は請求できます。妻が働いていても、夫の方が収入が多ければ、生活費の一部を夫に負担してもらえるということです。
婚姻費用の分担は、夫婦が助け合うという相互扶助義務に基づくものです。夫婦が助け合う義務とはどのような義務なのかを知っておきましょう。
自力で生活できない人に対しては、親族が経済的援助をする義務(扶養義務)を負うことがあります。扶養義務には、「生活保持義務」と「生活扶助義務」の2種類があり、それぞれで求められる援助の程度が違います。
生活保持義務を負う場合には、自分の生活に余裕がなくても、相手を援助しなければなりません。一方、扶養義務が生活扶助義務である場合には、自分に余裕がある範囲内で相手を助ければよいとされています。つまり、生活保持義務の方が、生活扶助義務に比べて重いということです。
婚姻費用分担義務は、扶養義務のうち重い方の生活保持義務になります。収入が少ないことを理由に婚姻費用の支払いを免れるということはありません。「余裕がないから生活費を払えない」と言われても、あきらめずに請求しましょう。
婚姻費用を請求する場合、裁判外(話し合い)で請求する方法と、調停を申し立てる方法があります。
婚姻費用を請求したい場合、まずは話し合いを試みましょう。ただし、口約束では不安です。別居する場合には、婚姻費用について合意した内容を「別居合意書」等の書面にしておきましょう。別居合意書を公正証書にしておくとさらに安心です。
相手が任意に生活費を払ってくれない場合には、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てることができます。
婚姻費用分担請求調停では、家庭裁判所の調停委員が夫婦の間に入って意見の調整を行ってくれます。話し合いがまとまれば、調停成立です。調停で合意できない場合には、審判により婚姻費用が決定します。
婚姻費用を計算するときには、「標準算定方式」と呼ばれる方法を使います。
標準算定方式では、生活保持義務の考え方にもとづき、夫婦と子供が同居している状態を仮定して生活費を算出します。算出された生活費を按分する形で、夫、妻の分担額が決まります。
標準算定方式による婚姻費用の計算の具体的な流れは、次のとおりです。
基礎収入とは、税込年収に一定の割合をかけたものです。一定の割合とは、給与所得者の場合には0.34~0.42で、年収によって変わります。夫婦それぞれについて基礎収入を出し、合計して世帯収入とします。
なお、基礎収入割合の具体的な算出方法について明確な基準はありませんが、以下の計算例では「家庭裁判月報」(62巻11号)に掲載の次の表を引用しています。
総収入 | 基礎収入割合 |
---|---|
~100万円 | 42% |
~125万円 | 41% |
~150万円 | 40% |
~250万円 | 39% |
~500万円 | 38% |
~700万円 | 37% |
~850万円 | 36% |
~1,350万円 | 35% |
~2,000万円 | 34% |
権利者とは婚姻費用をもらう側(多くは妻)で、義務者とは婚姻費用を払う側(多くは夫)です。生活指数は、成人が必要とする生活費を100とし、0~14歳までは55、15~19歳までは90となります。権利者世帯、義務者世帯のそれぞれの生活指数を計算します。
世帯収入(夫婦の基礎収入合計)を生活指数で按分し、権利者、義務者それぞれの分担額を割り出します。
権利者の分担額から、権利者の基礎収入額を差し引きした額が、義務者に請求できる金額です。
権利者の分担額=世帯収入 × 権利者世帯の生活指数/全体の生活指数
=271万2,000円× 155/255
=約164万8,000円(年額)
→権利者が請求できる1か月あたりの金額(164万8,000円-49万2,000円)÷12=約9万6,000円
上に書いたとおり、婚姻費用の計算方法はやや複雑です。婚姻費用の相場を簡単に知りたいなら、婚姻費用算定表を活用しましょう。
婚姻費用算定表は、婚姻費用を簡易迅速に計算することを目的にした算定表です。東京家庭裁判所と大阪家庭裁判所の裁判官が中心となって組織されている東京・大阪養育費等研究会が平成15年に公表したものですが、現在は実務で幅広く利用されています。
婚姻費用算定表は、裁判所のホームページでも見ることができるので、生活費の話し合いの際に活用しましょう。
婚姻費用算定表の見方は、次のとおりです。
婚姻費用算定表には、「夫婦のみの表」「子1人表」「子2人表」「子3人表」があります。子がいる場合の表は、子供の年齢によっても種類が分かれます。まず、自分の家庭がどの表に該当するかを選びましょう。
なお、子供が4人以上いる場合や、義務者と一緒に住む子供がいる場合には、算定表は使えません。元々の計算式(※上記「婚姻費用の計算方法」参照)に当てはめて計算しましょう。
婚姻費用算定表では、縦軸が義務者の年収、横軸が権利者の年収となっており、給与所得者と自営業者で区別されています。夫婦それぞれの年収がどこの線に該当するかを確認しましょう。
給与所得者の年収は、手取りではなく、保険料や税金を差し引く前の税込年収です。源泉徴収票の「支払金額」を見れば確認できます。
自営業者の年収は、原則として確定申告書の「課税される所得金額」です。ただし、税法上控除されているけれど実際に支出されていない費用(基礎控除、青色申告控除、現実に支払われていない専従者給与など)については加算する扱いになります。
権利者、義務者それぞれの年収の線が交差したところの金額が、権利者から義務者に請求できる金額です。
離婚前に別居する場合、生活費として請求できる金額を知るために、婚姻費用算定表を活用できます。
なお、婚姻費用算定表はあくまで標準的なケースを想定した表で、個別の事情については別途考慮した方が良いことがあります。
婚姻費用の金額に不安があるなら、弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。
親権や養育費・慰謝料など、離婚問題でお悩みの場合は法律のプロに相談することをおすすめします。でも、どうやって法律のプロを探せばよいのか戸惑う方も多いはず。。
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