- 雇用保険の傷病手当は、病気やケガで15日以上継続して就職できない状態となった場合に支給される。
- 雇用保険の傷病手当の対象は、本来であれば「基本手当(失業給付)」を受け取れる人。
- 就職できない状態が30日以上継続する場合には、失業給付の受給期間延長が可能。
公開日:2020年8月30日
雇用保険の失業給付は、失業後から再就職までの生活の大きな支えとなる制度です。再就職を希望する失業者には「基本手当」が支給されるのが原則ですが、病気やケガによってすぐに就職できず、基本手当の支給要件を満たせない人のため、「傷病手当」という仕組みがあります。
ここでは雇用保険の「傷病手当」の支給条件や手続き、健康保険の「傷病手当金」との違いについて解説します。
雇用保険の「傷病手当」とは、雇用保険の失業給付の受給資格を持つ人が離職し、ハローワーク(公共職業安定所)に求職を申し込んだ後、病気やケガによって「15日以上」継続して就職できない状態になった場合に支給される給付金のことをいいます。
傷病手当を受け取れるのは、本来であれば「基本手当」を受け取れる人であり、すでに「基本手当を受給している人」あるいは「待機期間が終了して基本手当を受給できる状態にあり、給付手続きを済ませた人」が対象です。そもそも基本手当を受けられない人は傷病手当も受け取れません。
基本手当を受給するには、原則として離職日以前の2年間に12カ月以上「被保険者期間※」が必要です。倒産や解雇などによる離職の場合は、離職日以前1年間に6カ月以上の「被保険者期間※」があれば受給できます。
※「被保険者期間」とは…
雇用保険の被保険者であった期間のうち、離職日から1か月ごとに区切っていった期間に賃金支払いの基礎となった日数が11日以上ある月を1か月と計算します。また、1か月ごとに区切っていった期間が満1月ない場合は、1か月とは計算されません。(短期雇用特例被保険者に対する求職者給付を除きます)
基本手当は、離職票の提出と求職の申し込みを行なった日(受給資格決定日)から7日間、自己都合退職などはさらに3カ月間の「待機期間」を経過するまでは受給できません。
待機期間中および待機期間経過後には実際に求職活動を行い、原則4週間に1回ハローワークに出向いて「失業認定」を受ける必要があります。
基本手当(求職者給付)は、再就職をめざす人の支援が目的であり、「就職の意思」と「いつでも就職できる能力」があり、「積極的に求職活動を行なっているものの就職できない」状態(失業状態)になければ受給できません。
つまり、次のような人は原則として基本手当を受給できません。
(1)家事に専念する方
(2)昼間学生等学業に専念する方
(3)家業に従事し、職業に就くことができない方
(4)自営を開始、又は自営準備に専念する方
(5)次の就職が決まっている方
(6)雇用保険の被保険者とならないような短時間就労のみを希望する方
(7)自分の名義で事業を営んでいる方
(8)会社の役員等に就任している方
(9)就職・就労中の方(試用期間を含む)
(10)パート・アルバイト中の方(週あたりの労働時間が20時間未満の場合、申告が必要になりますが、 失業している日について、支給を受けられる場合があります。)
(11)同一事業所で就職、離職を繰り返しており、再び同一の事業所に就職予定の方
(12)病気・けが等によりすぐに働くことができない方
すでに働いている人や再就職の意思がない人は、原則失業給付の対象にはなりませんが、短時間(週20時間未満)のパートやアルバイトであれば、申告によって働いていない日について給付を受けられる可能性があります。
病気やケガによって入院中や療養中の人(上記(12)に該当する人)は基本手当を受け取ることはできませんが、傷病手当の支給対象になります。
雇用保険の「傷病手当」の支給額は基本手当の支給額と同額です。基本手当の支給額(日額)は、離職直前6カ月に支払われた賃金の合計額を180日で割った「賃金日額」を基準に計算され、その金額は賃金日額の50%〜80%、60~64歳については45~80%です(支給額には上限があります)。
賃金日額 | 給付率 | 基本手当日額 |
---|---|---|
2,574円以上5,030円未満 | 80% | 2,059〜4,023円 |
5,030円以上1万2,390円以下 | 80%~50% | 4,024〜6,195円 |
1万2,390円超1万3,700円以下 | 50% | 6,195〜6,850円 |
1万3,700円(上限額)超 | ― | 6,850円(上限額) |
賃金日額 | 給付率 | 基本手当日額 |
---|---|---|
2,574円以上5,030円未満 | 80% | 2,059〜4,023円 |
5,030円以上12,390円以下 | 80%~50% | 4,024〜6,195円 |
1万2,390円超1万5,210円以下 | 50% | 6,195〜7,605円 |
1万5,210 円(上限額)超 | ― | 7,605 円(上限額) |
賃金日額 | 給付率 | 基本手当日額 |
---|---|---|
2,574円以上5,030円未満 | 80% | 2,059〜4,023円 |
5,030円以上12,390円以下 | 80%~50% | 4,024〜6,195円 |
1万2,390円超1万6,740円以下 | 50% | 6,195〜8,370円 |
1万6,740円(上限額)超 | ― | 8,370円(上限額) |
賃金日額 | 給付率 | 基本手当日額 |
---|---|---|
2,574円以上5,030円未満 | 80% | 2,059〜4,023円 |
5,030円以上1万1,140円以下 | 80%~45% | 4,024〜5,013円 |
1万1,140円超1万5,970円以下 | 45% | 5,013〜7,186円 |
1万5,970円(上限額)超 | ― | 7,186円(上限額) |
出典:厚生労働省
※2020年8月1日〜適用額分(基本手当日額は通常、毎年8月1日に改定)
傷病手当は本来の基本手当の支給日数を限度に支給されるもので、無制限に支給されるわけではありません。
働ける状態となった後に支給される基本手当の日数は、傷病手当を受け取った日数分だけ減ります。そのため傷病手当を受給する場合でも、受給できる失業給付の上限額は同じです。
病気やケガで就職できない期間が「連続して14日以内」であれば通常通りに基本手当が支給され、傷病手当の対象にはなりません。
雇用保険の基本手当を受け取れる期間(受給期間)は、離職日の翌日から原則1年間です。基本手当は、この受給期間中であって、就職する意思があり、いつでも就職できるにもかかわらず就職できないという「失業状態」にある日数に応じて支給されます。
給付を受けられる日数(所定給付日数)は、雇用保険の被保険者であった期間や年齢、離職理由によって、90日〜360日の間で決まり、所定給付日数が330日または360日の場合、例外的に受給期間はそれぞれ「1年+30日」「1年+60日」となります。
受給期間中に病気やケガ、妊娠・出産、育児などの理由で30日以上働けない状態が続いた場合、申請によって受給期間の延長ができます。
延長できる期間は原則3年間、所定給付日数が330日または360日の場合、受給期間はそれぞれ「3年−30日」「3年−60日」です(延長後の受給期間が最長4年間となる期間)。
出典:東京労働局HP
健康保険の「傷病手当」や労災保険「休業補償」は、雇用保険の「傷病手当」に優先して支給され、同時に受給することはできません。
65歳未満で特別支給の老齢厚生年金・退職共済年金を受け取れる人の場合、雇用保険の基本手当を受給すると、受給期間中の年金は全額支給停止されます。
雇用保険の傷病手当を受け取るには、まず通常の失業給付(基本手当)の受給手続きを済ませた上で、居住地を管轄するハローワークに「傷病手当支給申請書」と「雇用保険受給資格証」を提出して申請します。
失業給付(基本手当)を受給するには、次のような手続きが必要です。
出典:東京労働局HP
退職した会社から「雇用保険被保険者離職票(−1、−2)」(以下、離職票)を受け取ります。会社から離職票が交付されない場合には、ハローワークに相談し対応します。
離職票を受け取ったら、必要書類を持って居住地のハーローワークに行き「求職申込」を行います。受給資格を満たしていればその日に「受給資格の決定」が行われ、「雇用保険受給者初回説明会」の日程が案内されます。
- 雇用保険被保険者離職票(-1、2)
- 個人番号確認書類(いずれか1種類)
マイナンバーカード、通知カード、個人番号の記載のある住民票(住民票記載事項証明書)- 身元(実在)確認書類((1)のうちいずれか1種類((1)の書類をお持ちでない方は、(2)のうち異なる2種類(コピー不可))
(1)運転免許証、運転経歴証明書、マイナンバーカード、官公署が発行した身分証明書・資格証明書(写真付き)など
(2)公的医療保険の被保険者証、児童扶養手当証書など- 写真(最近の写真、正面上半身、縦3.0cm×横2.5cm)2枚
- 印鑑
- 本人名義の預金通帳又はキャッシュカード(一部指定できない金融機関があります。ゆうちょ銀行は可能です。)
初回説明会では雇用保険の受給について説明が行われ、「雇用保険受給資格者証」(以下、資格者証)と「失業認定申告書」が交付されます。
指定された「失業認定日」に住所地のハローワークへ行き、「失業認定申告書」に求職活動状況などを記入して、資格者証とあわせて提出します。
失業認定は失業状態にあることを確認するもので、失業認定を受けるには、前回の認定日から今回の認定日前日までの間に原則2回以上の求職活動実績が必要です。失業認定は原則4週間に1回行われます。
失業認定されると、前回の認定日から今回の認定日前日までの間、失業状態にあった日数分の基本手当が支給されます(認定日から通常5営業日後に指定口座へ振込み)。
傷病手当を受給するには、居住地を管轄するハローワークに「傷病手当支給申請書」と「雇用保険受給資格証」を提出し、傷病の認定を受ける必要があります。申請は、就職できない状況が解消した後、最初の失業認定日までに行う必要があります。
傷病手当支給申請書には、職業に就けない原因であった病気やケガの内容や期間について、担当の医師などに証明を受けるほか、健康保険の傷病手当金など、同じ病気やケガに対して受ける給付の有無やその期間などを記入します。
以下の理由によって、離職後1年間の受給期間内に働けない状態が30日以上続く場合には、居住地のハローワークに「受給期間延長申請書」と必要書類をあわせて提出することで受給期間を延長できます。
(1)妊娠・出産・育児(3歳未満に限る)などにより働くことができない
(2)病気やけがで働くことができない(健康保険の傷病手当、労災保険の休業補償を受給中の場合を含む)
(3)親族等の介護のため働くことができない。(6親等内の血族、配偶者及び3親等以内の姻族)
(4)事業主の命により海外勤務をする配偶者に同行
(5)青年海外協力隊等公的機関が行う海外技術指導による海外派遣
(6)60歳以上の定年等(60歳以上の定年後の継続雇用制度を利用し、被保険者として雇用され、その制度の終了により離職した方を含む)により離職し、しばらくの間休養する(船員であった方は年齢要件が異なります)
上記の理由(1)〜(5)による申請の場合、働けなくなった日の翌日から30日経過後、なるべく早い時期に申請を行います。申請は本人がハローワークに出向いて行う方法のほか、郵送や委任状による代理申請も認められます。
上記の理由(6)以外に該当する場合には、離職日の翌日から2カ月以内に、原則本人がハローワークに出向いて申請を行います。
(1)受給期間延長申請書(ハローワークで交付もしくは、郵送により送付することも可能です。)
(2)離職票―2 (離職票―1は受給期間延長の手続きには不要ですので、提出しないでください)
(3)雇用保険受給資格者証
(4)延長理由を証明する書類
(5)はんこ
※(2)については、求職者給付の申込前、(3)については、求職者給付の申込後に受給期間延長手続きを行う場合に必要になります。
雇用保険の「傷病手当」と健康保険の「傷病手当金」は、名前は似ていますが全く別の制度です。
健康保険の「傷病手当金」とは、会社員が加入する健康保険が行う給付のひとつ。病気やケガなど業務外の理由で4日以上連続して仕事を休み、4日目から最長1年6カ月の休職中、支給される給与が傷病手当金の額を下回った場合に支払われます。
会社を退職した場合には健康保険の加入者(被保険者)資格を失いますが、退職時点で傷病手当金を受け取っており、給付期間が残っていれば、退職後も引き続き傷病手当金を受け取れます。
健康保険の「傷病手当金」を受け取っている場合、雇用保険の「傷病手当」を同時に受け取ることはできません。
そのため病気やケガが原因で退職し、健康保険から引き続き傷病手当金を受け取る場合、その期間が30日を超えるようであれば、忘れずに受給期間延長の手続きをしておきましょう。
病気やケガですぐに再就職できない人でも、傷病手当を申請すれば失業給付を受けることができます。また、健康保険の傷病手当金を引き続き受給する場合など、すぐに失業給付を受けられない場合には、受給期間延長ができるということは覚えておくとよいでしょう。