公開日:2019年12月21日
パートで仕事をするとき、社会保険に加入すれば保険料で手取りが減るので、加入したくないという人も多いのではないでしょうか?
雇用保険も広い意味での社会保険の一種ですが、健康保険や厚生年金とは入るための条件が違ってきます。本記事では、パートで働く人が雇用保険に入るための条件やメリットについて説明しますので、参考にしていただければ幸いです。
まずは、雇用保険の仕組みや対象について知っておきましょう。
雇用保険は、雇われて働く人を守るために国が設けている仕組みで、広い意味での社会保険の一種になります。
(広義の)社会保険 | (狭義の)社会保険 | 健康保険 |
---|---|---|
介護保険 | ||
年金保険 | ||
労働保険 | 雇用保険 | |
労災保険 |
雇用保険の主な目的は、労働者が失業したときに給付を行うことです。雇用保険に入っていれば、パートでも仕事をやめたら次の仕事が見つかるまでの間、失業保険をもらうことができます。
労働保険とは、雇用保険と労災保険を合わせた呼び方です。両者は別々の制度ですが、どちらも国が労働者の生活安定のために設けているものなので、保険料の納付等はまとめて行われます。
雇用保険は、規模に関係なく、すべての事業所が適用対象になります。雇用されている人は、加入条件に該当していれば、必ず入る必要があるということです。なお、個人事業主本人や法人の役員は対象になりません。
雇用保険の保険料は、
となります。
なお、保険料は事業主と労働者の双方が払いますが、労使折半ではなく、労働者の払う分は少なくなっています。平成31年(令和元年)度の保険料率は、次のとおりです。
出典:厚生労働省
雇用保険の二事業とは、雇用安定事業と能力開発事業のことです。雇用安定事業には、事業主に対する助成金、中高年齢者等への再就職支援、若者や子育て中の女性に対する就労支援が含まれます。
能力開発事業には、在職者・離職者に対する訓練、事業主が行う教育訓練への支援などがあります。これらの二事業は、事業主の保険料のみを財源として行われています。
雇用保険に入りたい場合、加入条件を満たしている必要があります。また、加入条件を満たしていれば、入りたくなくても入らなければなりません。
加入手続きは、事業主が行います。加入条件を満たしていても、事業主が手続きしてくれなければ入ることができません。
雇用保険の手続きは、ハローワーク(公共職業安定所)で取り扱っています。加入条件を満たしているにもかかわらず入らせてもらえない場合には、ハローワークに行って相談しましょう。
雇用保険に加入しなければならないかどうかは、働く日数や働く時間によって決まります。
加入条件として、雇用の見込みが31日以上あることが必要です。たとえば、1週間くらいで終わる短期バイトの場合には入れません。少なくとも1か月以上勤務する予定があれば対象になります。
雇用保険に加入するには、1週間あたりの労働時間が20時間以上なければなりません。週20時間ということは、週5日働くとしても1日4時間以上働かなければならないということです。
パートと言っても1日2~3時間程度であったり、休みが多かったりする場合には、入れないことがあります。
雇用保険は加入条件を満たすと必ず入らなければならないので、もし入りたくないのなら、自分で勤務先と相談して仕事をする時間や日数を調整する必要があります。
ただし、雇用保険は保険料も安くメリットも大きい制度なので、入っておいて損はありません。
主婦がパートをするときには、税金や社会保険料の負担を逃れるため、敢えて働く時間を少なめにして年収を調整することがあります。「103万円の壁」「130万円の壁」などの年収の壁を意識している人も多いはずです。
雇用保険は年収ではなく労働時間により加入義務が発生するものですが、加入義務が生じてもそれほど大きなデメリットはないので、壁として意識されることはほとんどありません。
パート主婦の年収の壁や配偶者控除については、以下の記事をご参照ください。
会社の担当者が加入手続きをすれば、ハローワークから「雇用保険被保険者証」が発行されます。加入していれば、被保険者証を会社から渡されているはずです。
もし被保険者証を受け取っていなくても、会社で保管しているケースがあります。手元になければ、会社に確認してみましょう。被保険者証を紛失した場合でも、ハローワークで再発行の手続きができます。
会社は従業員が退職したら、ハローワークに離職証明書を提出し、ハローワークから離職票の発行を受けます。失業保険をもらうには、会社から受け取った離職票を提出しなければなりません。
なお、再就職が決まったら、再就職先に被保険者証を提出して、雇用保険の引き継ぎを行います。
パートでも仕事を辞めて次の仕事が見つからなければ、収入が減って困ることには変わりありません。雇用保険に入っていれば、失業中にお金をもらうことができます。
失業保険とは雇用保険の「基本手当」のことで、失業した人の生活を支えるものとなります。基本手当の金額は、在職していたときの賃金にもとづいて計算されます。
離職の日以前の2年間に、被保険者だった期間が通算して1年(12か月)以上という要件があります。なお、失業保険をもらうには、ハローワークで求職申し込みをし、失業認定を受けなければなりません。
働く意思があっても、病気やケガ、妊娠・出産などの理由によりすぐに働けないときには、失業保険はもらえないことになっています。
基本手当がもらえるのは、離職後1年間です。ただし、誰もが1年間継続してもらえるわけではなく、加入期間や仕事を辞めた理由により90日から360日の間で給付日数が決まります。
基本手当は求職の申込みをした後、7日間は受給できません。この期間を待期期間といいます。また、会社都合ではなく自己都合で仕事を辞めた場合には、その後さらに3か月の給付制限があります。
受給期間内に病気や出産などで引き続き30日以上働けない期間があった場合には、受給期間の延長ができます。延長できる期間は最長で3年間になります。
基本手当を計算する基準となる金額が、賃金日額です。賃金日額は、在職中の平均賃金で、次の計算式で出します。
基本手当日額は賃金日額の50%~80%となり、これを給付日数分もらえます。
失業したときには、基本手当以外に、就職促進給付ももらえます。就職促進給付には、次のようなものがあります。
再就職手当 | 再就職した時、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あれば支給されます。 |
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就業促進定着手当 | 再就職手当を受給した人が、再就職先で6か月以上雇用され、離職前よりも賃金が下がっているときに、低下した賃金の6か月分が一時金として支給されます。 |
就業手当 | 1年以下の契約社員やパートで再就職をした人が、再就職手当の支給対象とならない場合に、基本手当日額の10分の3が就業している日数分支給されます。 |
常用就職支度手当 | 障がい者など就職が困難な人が安定した職業に就いた場合に支給されます。 |
雇用保険に入るメリットは、失業保険だけではありません。失業していなくてももらえる給付金もあります。
雇用保険には「教育訓練給付」という制度があります。教育訓練給付とは、スクールや通信講座などを利用し、厚生労働大臣指定の教育訓練講座を受講し終了した場合に、費用の一部を支給してもらえるものです。
教育訓練給付には、次の表のとおり、一般教育訓練給付金と専門実践教育訓練給付金の2種類があります。
一般教育訓練給付金 | 専門実践教育訓練給付金 | |
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対象となる講座 | 簿記検定、情報処理技術者、介護職員初任者研修など主にキャリアアップにつながる講座 | 看護師、介護福祉士、保育士、建築士など専門的な資格取得のための講座 |
対象者 | ・被保険者期間3年以上(初めての支給の場合は1年以上)の人
・前回の教育訓練給付金受給から3年以上経過している人 |
・被保険者期間10年以上(初めての支給の場合は2年以上)の人
・前回の教育訓練給付金受給から10年以上経過している人 |
支給額 | 教育訓練経費の20%相当額(上限10万円) | 教育訓練経費の50%相当額(年間上限40万円)
※資格取得が就職に結びついた場合には70%相当額(年間上限56万円) |
支給期間 | 最長1年 | 原則2年(資格につながる場合には最長3年) |
雇用保険には、「雇用継続給付」という制度もあります。雇用継続給付とは、雇用の継続を促進・援助するための給付で、次のようなものがあります。
高年齢雇用継続給付 | 60歳以上の人が、再雇用されたり再就職したりしたときに給付金が支給されます。 |
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育児休業給付 | 育児休業中に賃金日額の50~67%の給付金が支給されます。 |
介護休業給付 | 介護休業中に賃金日額の67%の給付金が支給されます。 |
パートの場合には、労働時間が基準を上回ると、雇用保険の加入義務が発生します。と言っても、給料が大きく減るわけではないので、あまり気にする必要はないでしょう。
雇用保険に入っていれば、仕事を辞めたときに失業保険がもらえます。雇用保険にはスクールや通信講座の受講料金が安くなる教育訓練給付の制度もあるので、キャリアアップのための勉強や資格取得にも活用するのがおすすめです。