- 海外銀行口座は現地で生活するのであれば必要。
- 高金利の預金や日本の金融機関では取り扱っていない商品に投資できるメリットがある。
- 日本に住んでいる人が海外銀行口座を作るのは難しくなっている。
- 海外銀行口座の開設は慎重に行うべき。
公開日:2020年9月26日
海外銀行口座といってもなじみのない方がほとんどではないでしょうか。富裕層の人々が資産を預ける「お金持ちが持つ口座」というイメージや、漫画「ゴルゴ13」に登場する「スイス銀行」のような怪しいイメージを持たれている人もいるかもしれません。
スイスの銀行は機密性・匿名性が高いことは事実ですが、犯罪に関わるようなお金を扱うことはありません(「スイス銀行」という銀行は実在しません)。
そもそも海外銀行口座とはどのような口座なのか、口座を開設するメリットはあるのか。口座の作り方や注意点とあわせて解説します。
目次
海外銀行口座とは、海外に本店を置く銀行の口座の総称です。一般的に「普通預金口座(Saving Account)」、または「当座預金口座(Checking Account)」が多く利用されています。
当座預金口座は利息がつかず、日本では主に「普通預金口座」が利用されていますが、小切手による支払いが多い欧米などでは、「当座預金口座」が生活口座として広く利用されています。
日本では、銀行口座といえば個人ごとに単独の名義で作るものですが、夫婦や親子などがひとつの口座を共同で利用する慣習のある欧米などでは、「共同名義」の口座を作ることができます。
海外銀行口座を開設する目的には、海外移住や海外赴任、留学などで実際に海外に住むための「生活用口座」としての利用や、日本に住みながら海外へ資産を分散したり、現地で投資したりするための「投資用口座」としての利用などがあります。
実際に海外で生活するのであれば、海外銀行口座は必須といえます。また、日本に住んでいる人であっても、海外銀行口座を持つことで次のようなメリットが期待できます。
海外銀行口座では日本の銀行よりも預金金利が高く設定されているケースが多く、より有利な条件で外貨預金を行える可能性があります。資産の一部を外貨で保有することで、リスク分散効果も期待できます。
ただし、インフレ率の高い新興国などの現地通貨建て外貨預金の場合、物価の上昇によって通貨自体の価値が目減りし、日本円に換算した場合に損失が出るリスクもあります。金利の高さだけで判断しないことが大切です。
日本の金融機関でも主要国の外国株式や債券、ETFへ投資することはできますが、海外の銀行や証券会社でなければ投資できない商品も多くあります。海外銀行口座を開設すれば、このような商品に投資できるメリットがあります。
アメリカなど日本と同様に銀行と証券会社が独立している国の場合、現地で投資を行うには証券会社の証券口座を利用しますが、資金の移動のために現地の銀行口座をあわせて開設するのが一般的です。
香港やシンガポールなど、いわゆる「タックスヘイブン」と呼ばれる国(地域)では、居住者が株式に投資して得た利益(値上がり益や配当益)は非課税であり、税金面のメリットもあります。
海外送金や現地の投資用不動産の家賃を受け取る場合など、海外銀行口座があれば資金のやり取りがスムーズに行えるメリットがあります。
海外銀行口座を開設したいと思っても、現地に住んでいない外国人では、投資や資産分散を目的で口座開設ができない国も多いのが実情です。これはマネーロンダリング対策が強化された影響によるものです。主な国の状況は次のようになっています(2020年8月現在)。
国・地域名 | 非居住外国人の銀行口座開設の可否 |
---|---|
アメリカ合衆国 | 原則不可 (ハワイ州の銀行やユニオンバンクなどは可) |
シンガポール | 原則不可 (HSBCやCitibankなど外資系銀行の現地支店などは開設可能な場合もある) |
香港 | 可能 (現地での手続きが必要) |
イギリス | 可能 (国際口座(インターナショナルアカウント)であれば可能) |
スイス | 可能 (原則現地での手続きが必要、口座維持手数料がかかる) |
オーストラリア | 原則不可 (居住予定があれば可) |
中国 | 原則不可 (居留許可証が必要) |
タイ | 原則不可 (アユタヤ銀行の場合、現地で手続きをすれば可) |
※開設が可能な国や地域でも、銀行によって取り扱いは異なる場合もあります。口座開設を希望する銀行に確認してください。
マネーロンダリング:送金などを繰り返すことによって、犯罪によって得られた資金の出所をわからなくする行為。
海外銀行口座を作るには現地で手続きをするのが原則ですが、ネットで手続きができる銀行もあります。
アメリカの銀行に口座を作るには、原則としてアメリカの社会保障番号(SSN)が必要です。社会保障番号はアメリカ国民や長期滞在者に付与されるものであり、日本に住む日本人(非居住者)は原則として銀行口座を作ることができません。
ただし、三菱UFJ銀行傘下の「ユニオンバンク」であれば、非居住者でも口座を開設できます。また、アメリカでもハワイ州の銀行であれば、現地で手続きをすることで非居住者でも口座を開設できます。
アメリカに住んでいる人であれば、銀行の窓口またはインターネットで口座を作れます。
口座開設には本人確認書類、社会保障番号(SSN)、アメリカ国内の住所を証明する書類、(銀行により)初回入金用の現金が必要です。本人確認書類としてはパスポート、住所を証明する書類としては公共料金の請求書を使うのが一般的です。
口座開設申込書に記入(入力)と必要書類の提出(アップロード)を行い、不備がなければ口座が開設されます。
日本に住んでいる日本人(非居住者)がアメリカの銀行口座を作りたいのであれば、三菱UFJ銀行傘下の「ユニオンバンク」がおすすめです。
ユニオン銀行であれば、三菱UFJ銀行が口座開設の取り次ぎを行っており、日本にいながら日本語で手続きが可能です。トラブルが起きたり口座を解約したりする場合にも、サポートが充実しているため安心です。
香港では、居住者に発行されるIDカードがあれば比較的簡単に銀行口座を作れます。居住者ではない場合でも、直接現地の銀行で手続きすれば口座を作ることは可能です。いずれの場合も現地で手続きが必要であり、中国語または英語でコミュニケーションできる最低限の語学力は必要です。
口座開設は、本人確認書類(パスポート)と住所確認書類、(必要に応じて)収入や資産を証明する書類などを持って銀行に出向き、対面で申込書類を記入して行います。
香港のメジャーな銀行としては「HSBC銀行」や「ハンセンバンク(Hang Seng Bank)」などがあります。
日本人がシンガポールの銀行に口座を作るには、原則就労ビザ(EP・Sパス)や家族ビザ(DP)、学生ビザによって、シンガポールに居住(滞在)していることを証明しなければなりません。
シンガポールにある外資系銀行の支店であれば、非居住者も口座を作れる可能性はありますが、現地在住者の紹介が必要であったり、最低預入額が高額であったりとハードルは高くなっています。
シンガポール居住者の口座開設は、本人確認書類(パスポート)と居住(滞在)を証明する書類、住所確認書類、(銀行により)初回入金用の現金を持って銀行に出向き、申込書類を記入して行います。
最大手の「DBS銀行」であれば、インターネットでの口座開設にも対応しています。
イギリスでは、非居住者も銀行口座を作ることができます。ただし、非居住者が作れるのは国際口座(インターナショナルアカウント)に限られます。
居住者の口座開設は、まず口座を作る銀行のホームページから申し込みに必要な情報を登録し、来店の予約をして銀行に出向き、本人確認書類(パスポート)と住所確認書類を提出して行うのが一般的です。
国際口座であれば、日本にいながらインターネットで口座を作ることができます。ただし国際口座は、一般的な口座に比べて最低預入額や口座維持手数料が高額になることが多く、注意が必要です。
海外銀行口座を利用する場合には、次のような点に注意する必要があります。
日本では口座を持っているだけで手数料を取られることは基本的にありませんが、海外銀行口座では毎月数百円〜数千円程度の「口座維持手数料」がかかるケースも少なくありません。
一定以上の預入残高や取引があれば手数料が無料になる場合もありますが、利用する銀行の口座維持手数料はよく確認しておく必要があります。
香港やシンガポールをはじめ、投資により得た収益が非課税となったり、日本よりも税率が低い国もあります。このような国に節税目的で口座を開設しようとしているなら要注意です。
なぜなら、日本に住んでいると海外で得た収入に対しても日本の税制で課税され、日本で納税する義務があるためです。海外銀行口座を開設して投資をしても、税制面でのメリットは受けられません。
海外銀行口座の手続きは、基本的に現地語または英語で行う必要があります。トラブルや口座を解約したい場合など、イレギュラーな対応が必要となった場合に自身で対応できるか、サポート体制はしっかりしているか、口座を開設する前によく考えておかなければなりません。
代理業者に頼んで口座を開設したものの、口座を解約しようと業者に連絡をしてもつながらない、手続きのために現地に行かなければならなくなったなどのトラブルも起きています。
海外銀行口座は、現地で生活するため、あるいは現地で得た収入を受け取るために必要となるほか、高金利の預金や日本の金融機関では投資できない商品にも投資できるといったメリットがあります。
その一方で、口座の維持管理にかかる手間やコスト、トラブル時の対応など、リスクやデメリットも少なくありません。
リスクやデメリットに見合うメリット、海外銀行口座でなければならない理由はあるのか。海外銀行口座を開設するかは慎重に判断すべきであり、安易に開設するのは控えるべきといえるでしょう。