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「がん保険」の「一時金」を考える

「がん保険」の「一時金」を考える

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岩崎真明

岩崎真明

CFP(日本FP協会認定)、一級FP技能士、証券アナリスト(日本CFA兼CIIA)

独立系ファイナンシャルプランナー、CFP歴20年の資格保持者です。現在は独立系FP会社の代表として、外資系金融機関に勤務した経験も活かしつつ、幅広い金融知識を簡単にわかりやすくお伝えし、ご相談者の生活に役立てていただく相談業務を中心に活動しています。保険のセールスを一切行わないという真にお客様の立場での保険相談業務にも定評があります。

この記事のポイント

  • 最近のがん保険の内容は、時代とともに進化してきたがん治療に適合するように保障内容も細分化されて整備されてきましたが、その反面、一つの保障あたりの保障額(支払われる保険金の額)が低額化するという傾向があります。
  • こうした保障額の低額化の傾向に対して、がんに罹患した場合の一時金が手厚く設定できる商品もあります。従来からあるがん診断給付金(またはがん診断一時金)と呼ばれる保障です。
  • 今後変わりゆくがん治療に対する保障として、やはりまとまった金額が欲しいという方には、一時金で支払われる商品も含めて検討されることをお勧めします。

初めて日本でがん保険が発売されてから40年以上が経過しました。以来、がん治療の発展とともに、がん保険を取り扱う保険会社も増え、商品も変化し続けて今日に至っています。様々ながん治療が増加するにしたがって、がん保険の保障内容も広がってきたといえるでしょう。

一方でそうした保障の広がりには大きな注意点があります。今回はその注意点をがん保障の「一時金」というキーワードとともに、わかりやすく説明していきたいと思います。

 

保障内容と保障金額から商品をとらえ直す

がんのための経済的保障をしてくれるのが「がん保険」です。では「がん保険」とは、具体的に、どのような場合に、どれぐらいの金額を保障してくれる商品なのでしょうか?

  • どのような場合に支払われるのか = 保障内容
  • どれぐらいの金額が支払われるのか = 保障額

がん保険の商品は、この保障内容と、保障額で構成されているのです。

そして、生命保険の商品でいうところの「一時金」というのは、保障額に関する言葉です。

100万円以上のまとまった金額のお支払いのことを生命保険では「一時金」と呼ぶことが多いです。では100万円に満たない支払いの金額をどのように呼ぶかというと給付金と呼ぶことが多いです。

また「一時金」というのは原則1回だけの支払いを表します。これに対して給付金というのは、1日つき1万円支払います、というように複数回支払われることが前提となった表現です。

なお、生命保険の仕組みについては以下の記事で詳しく紹介しましたので、参考にしてください。

 

保障内容と保障額の2軸で考える

皆さんが、がん保険の商品を選ぶ際には、保障内容にまず注目されることが多いと思います。これは至極当然のことで、「どんな場合に支払いをしてくれるのか(くれないのか)」が一番重要といえるからです。

しかしながら、それと同時に重要なのが、では「その保障内容でどれぐらいの金額を支払ってくれるのか」という視点なのです。

では実際の商品でこの保障内容と保障額を具体的に説明していきましょう。

今回は、「保障内容を幅広く揃えた商品」と、「絞り込んだ保障内容の商品」という両極端の2商品をご紹介します。この2商品を比べていただくことで、浮かび上がってくる「一時金」という保障額の重要性もご理解いただけると思います。

 

幅広い保障の商品

最初に、幅広い保障内容が選べる商品の代表例として、チューリッヒ生命のガン治療保険プレミアムDX(以下、プレミアムDXといいます)をご紹介します。

このプレミアムDXは、がん保険ランキング上位にあがってくるほどの人気商品となっています。このプレミアムDXの保障内容と保障額の具体例は下表の通りです。

 

<30歳女性での設計例>

保険期間:終身

保険料払込期間:終身

月払保険料:4,686円

放射線治療給付金 月額30万円
抗がん剤・ホルモン剤治療給付金 月額30万円
自由診療抗がん剤・自由診療ホルモン剤治療給付金 月額60万円
ガン先進医療給付金 所定の先進医療にかかる技術料と同額
(通算2,000万円限度)
ガン先進医療支援給付金 15万円(同一の先進医療の療養につき1回限度)
悪性新生物保険料払込免除 以後の保険料を払込免除
ガン診断給付金 1回につき50万円
ガン入院給付金 日額5千円
ガン手術給付金 1回につき10万円
ガン通院給付金 日額5千円
ガン緩和療養給付金 月額10万円
ガン診断後ストレス性疾病給付金 5万円(1回限度)
がん長期入院時差額別途保障 日額1万円

表をご覧頂くだけで保障内容の広さ(給付金の種類の多さ)がすぐにわかっていただけると思います。

保障内容が細分化されており、この中から自分にとって必要だと思われる保障内容を取捨選択出来るわけですから、人気商品であるのもうなずけます。

そしてもう一点、ご注目いただきたいのが、保障額です。自由診療抗がん剤・自由診療ホルモン剤治療給付金は月額60万円、がん診断給付金は50万円ですが、それ以外の給付金の金額(単位)は多いもので10万円、少ないもので数千円となっています。

保障内容が幅広い反面、100万円単位の「一時金」といえる保障額はなく、低額の給付金が種類多くある、という特徴の商品となっているのです。とりあえずまとまった金額が欲しい、という方には注意が必要といえるでしょう。

 

保障を絞った商品

では次に、保障を絞った商品の代表例として、ライフネット生命のがん保険ダブルエール(以下、ダブルエールといいます)をご紹介します。

ダブルエールも、プレミアムDXとは全く異なる商品性によって人気商品となっています。

ではダブルエールの保障内容と保障額の具体例を確認していきましょう。

 

<30歳女性、シンプルプランでの設計例>

保険期間:終身

保険料払込期間:終身

月払保険料:4,311円

がん診断一時金 300万円(1回限度)
上皮内新生物診断一時金 150万円(1回限度)

ダブルエールの保障内容はかなり絞り込まれていて、プレミアムDXとは大きく異なる保障内容であることが理解いただけたことと思います。

その一方で、がんと診断された時に支払われる、がん診断一時金が300万円となっており、まさに「一時金」と呼ぶにふさわしい保障額になっていることが分かると思います。がんと診断されたら、とりあえずまとまった金額が欲しいという方に適した商品といえるでしょう。

 

理由は保険料負担

先程2つの商品の保障内容と保障額を具体的に確認してきました。ここで読者の皆様はこんな風に思われるかも知れません。

「プレミアムDXは保障内容の範囲(種類)が多いのに、なぜ保障額を抑えているの?もっと保障額を上げればいいじゃない?」

「ダブルエールはなぜ保障内容を絞っているの?いろいろな保障内容を増やせばいいじゃない?」

実はこれらの疑問に対する答えは、「保険料」にあるのです。

保険料とは、あなたが保険会社に毎月(毎年)支払うお金のことです。

がんに罹患した時に、保険会社から保障内容にある一時金や給付金を支払ってもらうためには、あなたは保険会社に保険料を支払わなければなりません。したがって、保険料はあなたにとって出費であり、負担になるものです。

 

もう一度2つの商品の表をご覧いただくと、保険料(30歳女性の例)が掲載されています。プレミアムDXは月払4,686円、ダブルエールは月払4,311円です。

仮に、プレミアムDXの幅広い保障内容のそれぞれの給付金の保障額を2倍にしたらどうなるでしょうか?単純計算でも9000円以上になります。保障額を3倍にすれば15000円ぐらいにはなるでしょう。

がんの経済的保障がどうしても必要といっても、そのために毎月支払う保険料があまりにも多くなりすぎると、がんになった時のリスクの対処の前に、毎月の家計が大変になってしまうのです。

商品を販売している保険会社もその辺りのことはよくわかっていて、保険を検討する人が毎月確実に支払える程度の保険料で商品設計をしてくるわけです。

保障内容が幅広いプレミアムDXの保障額は、なぜ抑えられているのでしょうか?

その理由は保険料負担を重くしすぎないためです。

一時金が充実しているダブルエールの保障内容は、なぜ絞られているのでしょうか?

その理由も保険料負担を重くしすぎないためなのです。

 

まとめ

がん保険は、がん治療の進化とともに、その保障内容が変化してきました。

変化の一つの方向性としては、保障を幅広く細分化してラインナップしてきたことです。

これにより、自分が必要だと思われる保障を取捨選択して加入できる商品も増えてきました。

しかしながら、幅広く細分化してラインナップされてきた反面、それぞれの保障ごとの保障額が低額に設定されている点には注意が必要です。

がん治療の進化に合わせた保障が欲しいということで、こうした幅広い保障から取捨選択することもよいですが、がんに罹患した時にはまとまった一時金が欲しいという方は、がん診断給付金(がん診断一時金)が手厚い商品をチェックされることをお勧めします。