- 相続税の確定申告は、相続財産が基礎控除額を超える場合にする必要がある。
- 2019年の法改正で相続なのに所得税が課税される可能性が出てきた。
- 亡くなられた方のその年の所得は、準確定申告によって相続人が申告する。
公開日:2020年1月19日
相続が発生したら相続税の確定申告が必要となりますが、実はすべての人に確定申告の義務があるわけではありません。また、一定の財産を相続する場合は相続税のみならず所得税の確定申告が必要になる場合もあるため注意が必要です。
そこで本記事では、相続においていくらから確定申告が必要となるのか、また相続税、所得税が課税されるケースについて詳しく解説します。
最近ご相談が多い、2019年の法改正によって変更になった部分についても触れていきますので、ぜひ最後まで読んでいただくことをおすすめします。
目次
相続が発生したとしても、すべての方が確定申告をしなければならないというわけではありません。確定申告の必要があるのは、相続税又は所得税が課税される場合です。
相続税は課税遺産総額が相続税の基礎控除額を超えた場合に課税されるため、基礎控除額を下回る場合は相続税の確定申告は必要ありません。ただし、相続税がかからない=相続税の確定申告が不要、と認識している人が時々いますが、これは大きな間違いなので注意が必要です。
たとえ相続税が課税されない場合でも確定申告は必要なケースがあり、申告せずに放置していると無申告加算税や延滞税が課税される危険もあります。
相続税の計算をする際には、配偶者が相続する財産について1億6,000万円か法定相続分のどちらか多い方まで上限として相続税が非課税となる配偶者の税額軽減や、亡くなった方が住んでいた自宅の土地の評価額が80%オフになる小規模宅地等の特例といった特例制度を使うことができます。
これらの特例を適用することで相続税の基礎控除以下におさまり、結果として相続税が非課税となる場合については、たとえ相続税はかからないとしても特例を適用させるために必ず確定申告をしなければならないのです。
特例を適用しないまま申告期限が過ぎてしまうと、特例を適用できなくなる恐れがあるため十分注意しましょう。
相続発生時に課税される税金は原則として相続税なので、所得税についてはほとんどのケースで課税されません。ところが、次のケースについては相続であっても所得税の対象となるため所得税の確定申告をする必要が出てきます。
相続財産にアパートなどの賃貸物件が含まれている場合、亡くなる日までの家賃収入は故人の所得となりますが、その後の家賃収入については相続人の所得となるため、相続税ではなく所得税の課税対象となり確定申告が必要になります。
相続人が1人だったり、遺産分割の話し合いで揉めていなかったりすればよいのですが、もしも協議が難航しているとその間の家賃収入をどのように申告するのかが問題となります。
相続が発生してから遺産分割協議がまとまるまでの家賃収入は、原則として民法で規定されている法定相続分に従って家賃収入を按分して相続人各自で確定申告を行うことになるのです。
後で遺産分割協議が決定して法定相続の比率とは違う比率で分割したとしても、すでに行っている所得税の確定申告の修正を行う必要はありません。その場合は遺産分割協議の後に発生した家賃収入について所得税申告をすれば大丈夫です。
亡くなった方に生命保険をかけている場合で、契約者と保険金の受取人が同じ人の場合は保険料と保険金の差額に対して所得税が課税されます。ちなみに生命保険は契約形態によって同じ保険金だとしても課税される税金が次のように異なります。
基本的に契約者が保険料を負担していると仮定した場合です。
契約者 | 被保険者 | 受取人 | 課税される税金 |
---|---|---|---|
X | – | X | 所得税 |
X | X | Y | 相続税 |
X | Y | Z | 贈与税 |
保険料を負担した人と保険金を受け取る人が同一であれば所得税、別人であれば相続税または贈与税が課税されます。
税金対策で生命保険に加入する人が増えていますが、実は間違った方法で契約している人が多く、そのせいで本来は課税されるはずのなかった相続税が課税されるケースも増えているため注意が必要です。
例えば子供のために親が生命保険に加入するケースがよくあります。
このような契約の場合、保険料を負担しているのは母親なので表面上は生前贈与対策になっているように見えますが、実はそうではありません。仮に生命保険が満期を迎えて受取人に保険金が支払われた場合、支払われた保険金に対して贈与税が一気に課税されるのです。
仮に1,000万円の保険金が支払われた場合、177万円の贈与税が発生するため非常に大きな痛手となります。
もっと深刻なのは保険料負担者が途中で死亡した場合です。保険料を負担していた人が死亡すると、それまで保険料を支払って加入していた保険契約を解約した場合に支払われる解約返戻金相当額に対して相続税が課税されてしまいます。
贈与税の場合とは違い、実際に解約するのでなければ現金は増えないのに税金だけ課税されることになるのです。
保険料負担者については、多くの場合で保険料を口座引き落としにしていることで税務署にバレます。
贈与税の基礎控除である年間110万円の範囲で保険料を負担し続けたとしても、肝心の保険料を贈与を受けた人以外の口座から自動引き落としにしてしまうと、たとえ贈与契約書があったとしても贈与税が課税される可能性が極めて高いです。
そのため、贈与を受けたお金で保険料を支払う場合は、贈与したお金を受け取った人の口座に入金してそこから自動引き落としで支払う必要があります。
2019年7月に民法改正によって、従来まで課税されるはずのなかった所得税が課税される危険性が出てきました。次にご紹介するケースに該当すると、相続なのに所得税がバッチリ課税されてしまい確定申告が必要になります。
ただ、回避策についても合わせて解説しますので、今後相続を控えている人は是非最後まで読んで参考にしてください。
相続が発生した場合、手続きの流れとしては遺産分割協議をする場合と遺言書がある場合との2種類に分かれます。基本的に一定の条件を満たしている遺言書が見つかった場合は、遺言書の内容に従って遺産を分けるため遺産分割協議をする必要はありません。
反対に遺言書がない相続については、相続人全員で話し合って遺産を分け合うことになります。2019年の改正で影響を受けるのは、遺言書がある相続のケースです。
遺言書は本人の好きなように分け方を指定することができるので、場合によっては子が2人いるのに「すべての財産を長女に相続させる」といった強引な遺言書が見つかることも少なくありません。
例えば長女と次女の2人が相続人だとした場合に次女がそのまま受けるのであれば特段問題はありません。
ところが、もしも次女が納得いかないと怒った場合、次女には遺留分という民法で保護されている最低限の取り分(法定相続分の半分)があるため、たとえ遺言書が全額長女を指定していたとしても1/4については遺留分として長女に請求することができるのです。
ここでポイントとなるのが、遺留分を請求する時のやり方です。
仮に相続財産が預金1億円、土地1億円の合計2億円だとした場合、次女の遺留分である5,000万円はどこから渡すことになると思いますか?
手っ取り早く考えるのであれば、預金1億円から5,000万円とって渡すのがシンプルに見えますが、実は法改正前はそのようなやり方が原則としてできず、預金2,500万円、土地2,500万円という配分にしなければならなかったのです。
このようなやり方をすると預金は問題ありませんが、土地については1つの土地を3/4と1/4という割合で長女と次女が共有することになってしまいます。
そうなると将来的に長女が土地を売却したいと思っても、次女が賛成してくれないと売却ができなくなってしまい大きな不都合が生じていたのです。よって、2019年7月の法改正によって次のように改正されました。
2019年の法改正によって遺留分はすべて金銭で支払うこととなりました。よって先ほどの事例で言うと、長女から次女に5,000万円の金銭を渡せば土地を共有する必要はなくなったのです。
非常によい改正なのですが、実は税金の話でいうと所得税が課税される可能性が出てきてしまったのです。
先ほどの事例のように相続財産の中に多額の預金があればよいのですが、相続は預金残高がわずかで不動産の割合が多いというケースがよくあります。
そうなると遺留分を金銭で支払うといっても、5,000万円という大金が準備できないという問題に直面する可能性があるのです。
みなさんならこの場合どう解決しますか?おそらくほとんどの方が、不動産から5,000万円分を次女に渡して解決しようと考えるでしょう。ところが、残念ながら2019年7月の法改正後は上記のケースで次女に不動産から5,000万円分を渡してしまうと、長女の側に所得税が課税されてしまうのです。
もともと長女には次女に5,000万円を払わなければならない債務を負っています。
これに対して長女が一定の土地の持分を渡すことで5,000万円の債務から逃れられることから、税務上は長女が次女に土地を5,000万円で売却したと考えて土地の売却益に対して所得税が課税されるのです。
そもそも遺留分で渡すお金がないから土地を渡しているのに、そこに対して所得税を課税してくるとはなんとも酷な気もしますが残念ながらどうにもなりません。
万が一上記のケースで課税されると、所得税15%のみならず住民税についても5%課税されてしまいます(長期譲渡所得の場合)。この状況を回避するためには、遺言書が見つかった場合でも遺言書をなかったことにして遺産分割協議をすることが有効です。
遺産分割協議をした上で、土地5,000万円を次女に割り振れば所得税が課税されることはありません。あくまで遺留分の精算として次女に渡した場合に所得税が課税されるので、遺産分割協議に切り替えてしまうことで最悪の状況は回避できます。
やむなく所得税が課税されてしまう方については、会社員の方で年末調整をしている場合でも翌年2月中旬から3月中旬にかけて確定申告をしなければなりません。特に今回ご紹介した所得税は、譲渡所得税といい所得総額に総合課税されるのではなく分離して課税されるため計算方法が異なります。
必要書類として準備が必要なものは主に以下の通りです。
ここまでは相続人の申告について解説してきましたが、実は亡くなられた方本人の死亡を知った翌日から起算して4ヶ月以内に相続人が代わって確定申告をしなければなりません。
この申告のことを準確定申告といい、通常の確定申告と同じように青色申告をすることも可能です。
準確定申告によって亡くなられた方のその年の所得について申告をするのですが、とにかく期限が4ヶ月と短いため葬儀や法事に忙殺されていると期限を過ぎてしまう恐れがあります。
そのため、準確定申告についてはできれば相続税申告と合わせて税理士に任せてしまった方が得策です。
今回は相続における確定申告について解説してきました。相続といえば相続税がかかることは知っていても、今回ご紹介した事例のように所得税が課税されるケースがあるとは知らなかった方が多いのではないでしょうか。
何も考えずに手続きだけ先に進めてしまうと、気がついたときには所得税が課税されてしまっている可能性がありますので十分注意が必要です。
生命保険のケースも遺留分の法改正のケースも、事前に所得税が課税される仕組みを理解して対策をとればそこまで大きな問題ではないので、今回の記事を参考にしていただき是非対策をとられることをおすすめします。
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