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ワーキングプアとは?その定義や生活実態をFPが解説!

ワーキングプアとは?その定義や生活実態をFPが解説!

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竹国 弘城

竹国 弘城

RAPPORT Consulting Office 代表、1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP(R)、証券外務員一種

証券会社、生損保代理店での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。より多くの方がお金について自ら考え行動できるよう、お金に関するコンサルティング業務や執筆業務などを行う。ミニマリストでもあり、ミニマリズムとマネープランニングを融合したシンプルで豊かな暮らしを提案している。RAPPORT Consulting Office 代表。1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP(R)。

家賃と生活費を支払うだけでほとんど手元にお金は残らず、働いても働いても貧しさから抜け出せない。このようなワーキングプアは長い間社会問題となってきました。ワーキングプアとは具体的にどのような状態を言うのか、その定義と生活実態について解説します。

 

働く貧困者 ワーキングプアの定義とは

働く貧困者 ワーキングプアの定義とは

ワーキングプアは「貧困線を下回る収入しか得られていない労働者(世帯)」を表す言葉として米国で言われ始めたもので、「働く貧困者(貧困層)」などと訳されます。欧米などの定義では実際に働いている人のほか、失業状態で求職活動をしている人も含めて一定水準以下の収入で暮らす労働者をワーキングプアと呼びます。

貧困線(貧困ライン)
貧困層の割合を把握するために使用される指標。最低限の生存を維持するために必要な収入水準を示す「絶対的貧困ライン」、その人が暮らす社会(国)における文化・生活水準と比較して生活の困窮した収入水準を示す「相対的貧困ライン」などがある。日本ではOECD基準による相対的貧困ラインが採用されています。

日本ではワーキングプアについての公式な定義はなく、「フルタイムで働いているにも関わらず収入が少なく生活に困窮している人(世帯)、生活保護水準を下回る収入で暮らしている人」などを指す言葉として一般的に使われています。

 

ワーキングプアの対象となる年収・月給の基準とは

ワーキングプアの対象となる年収・月給の基準とは

ワーキングプアは一般的に「年収200万円以下」の人を指して言われることも多いのですが、一律に線引きするには疑問も残ります。

 

ワーキングプアは年収200万円以下の人

単身者と子どものいる家庭など、世帯構成(世帯人員)が違えば同じ年収200万円でも生活の困窮度は全く変わります。等価可処分所得を用いて計算を行うOECD基準の相対的貧困ラインでは、この違いが反映されています。

等価可処分所得
世帯の収入から税金・社会保険料等を除いた手取り収入(可処分所得)を世帯人員の平方根で割って調整した所得。

相対的貧困ライン(OECD基準)
等価可処分所得の中央値の半分の額。

 

世帯人員別の相対的貧困ライン

厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査の概況」によると、平成27年(2015年)の相対的貧困ラインは122万円。これをもとに世帯人員別の相対的貧困ラインを計算すると以下のようになります。

世帯収入がこの相対的貧困ラインを下回る世帯をワーキングプアと見なす方が、一律200万円で線引きするよりも実際の感覚に近いと言えるでしょう。

世帯人員別の相対的貧困ライン(2015年)
世帯人員 相対的貧困ライン (月額)
1人世帯 122.0万円 10.2万円
2人世帯 172.5万円 14.4万円
3人世帯 211.3万円 17.6万円
4人世帯 244.0万円 20.3万円

 

参考:最低生活保障水準の具体的事例(2018年10月)

生活保護水準以下で生活する世帯もワーキングプアとみなされます。

生活保護費の基準となる最低生活保障水準(最低限度の生活費)は、年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別などの事情を考慮し算定されています。モデルケースにおける実際の最低生活保障水準は次の通りです(2018年10月時点)。

最低生活保障水準例(月額・単位:円)
居住地域 1級地-1
(東京都区部等)
1級地-2 2級地-1 2級地-2 3級地-1 3級地-2
(地方郡部等)
3人世帯(夫婦子1人世帯)【33歳、29歳、4歳】
生活扶助 158,900 153,070 146,820 144,150 138,180 133,630
住宅扶助
(上限額)
69,800 44,000 56,000 46,000 42,000 42,000
合計 228,700 197,070 202,820 190,150 180,180 175,630
高齢者夫婦世帯【68歳、65歳】
生活扶助 120,410 115,680 110,220 108,570 103,820 100,190
住宅扶助(上限額) 64,000 41,000 52,000 42,000 38,000 38,000
合 計 184,410 156,680 162,220 150,570 141,820 138,190
高齢者単身世帯【68歳】
生活扶助 79,550 76,180 72,010 70,900 67,860 65,500
住宅扶助(上限額) 53,700 34,000 43,000 35,000 32,000 32,000
合 計 133,250 110,180 115,010 105,900 99,860 97,500
母子3人世帯【30歳、4歳、2歳】
生活扶助 189,190 183,660 175,400 173,460 166,190 161,890
住宅扶助(上限額) 69,800 44,000 56,000 46,000 42,000 42,000
合 計 258,990 227,660 231,400 219,460 208,190 203,890

相対的貧困ラインや最低生活保障水準を目安に考えると、年収200万円(月給では17万円、手取りで15万円前後の水準)というのはおよそ標準的な3人世帯におけるワーキングプアの基準にあたります(以下、便宜的に所得200万円以下の人をワーキングプアと定義します)。

 

ワーキングプアはどのくらいいるのか

ワーキングプアにあたる人(世帯)は日本にどれくらいいるのでしょうか。

 

 

日本における所得の分布状況

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、2015年の1世帯あたりの平均所得金額(熊本県を除く)は、全世帯の平均で545.4万円、高齢者世帯の平均で308.1万円、児童のいる世帯の平均で707.6万円となっています。

 

各種世帯の1世帯当たり平均所得金額の年次推移

各種世帯の1世帯当たり平均所得金額の年次推移

 

所得200万円未満の世帯が約2割

所得金額階級別の世帯数の分布を見ると、200~300万円未満の世帯が最多の13.7%を占め、100~200万円未満の13.4%、300~400万円未満の13.2%と続きます。

所得金額階級の中央値は427万円であり、 平均所得金額(545 .4万円)以下の世帯が61.5%を占めています。ワーキングプアである可能性の高い中央値の半分以下、所得200万円未満の世帯は19.6%あります。

 

所得金額階級別世帯数の相対度分布

所得金額階級別世帯数の相対度分布

 

片親世帯の半数超は相対的貧困状態

同調査による相対的貧困率(相対的貧困ラインに満たない世帯員の割合)は15.7%、子どもがいる現役世帯(世帯主が18歳以上65歳未満で子どもがいる世帯)の世帯員では12.9%となっています。

子どもがいる現役世帯のうち大人が一人の世帯、いわゆる片親世帯(母子家庭・父子家庭)の相対的貧困率は50.8%。一時期に比べ減少傾向が見られるものの、片親世帯の多くが依然厳しい経済状況に置かれていることがわかります。

 

貧困率の年次推移

貧困率の年次推移

 

フルタイムで働きながら年収200万円未満の人は何人くらいいるのか

総務省による就業構造基本調査によると、年間200日以上就業している労働者数は約5,095万人。そのうち年収200万円未満の人は約1,129万人います(2017年)。約5人に1人が週4日以上働きながら年収200万円を稼げていない状況にあり、ワーキングプアである可能性が高いと言えます。

 

年間就業日数200日以上の労働者の所得分布(全国・2017年)

年間就業日数200日以上の労働者の所得分布(全国・2017年)

 

女性の収入は低い傾向にある

男女別では年間200日以上就業している男性約3,110万人のうち約360万人(約11.6%)、女性では約1,984万人のうち約769万人(約38.8%)が年収200万円未満となっています。これにはパートで働く女性が多いことや男女の賃金格差などが影響していると考えられます。

 

男女別・年間就業日数200日以上の労働者の所得分布(全国・2017年)

男女別・年間就業日数200日以上の労働者の所得分布(全国・2017年)

 

ワーキングプアの原因:正社員と非正規社員の格差

非正規雇用の増加はワーキングプア増加の最大の原因と言えます。

1984年に15.3%だった非正規雇用者の割合はその後増加を続け、2018年時点で3人に1人以上、雇用者全体の37.8%が非正規雇用となっています。特に女性は非正規雇用の割合が高く50%を超えています。

公益財団法人連合総合生活開発研究所による「非正規労働者の働き方・意識に関する実態調査」(2015年)によれば、非正規雇用者の4人に3人(76.1%)が年収200万円未満。就業調整をしておらず世帯収入の全部あるいは大部分を担う人に限っても、半数近い48.4%の人が年収200万円未満となっています。

 

雇用形態別雇用者数 非正規の職員・従業員割合 1984年~2018年

雇用形態別雇用者数 非正規の職員・従業員割合 1984年~2018年

 

雇用形態(正規・非正規)・企業規模・性別による賃金格差

雇用形態(正規・非正規)や企業規模、性別の違いによって賃金には次のような格差があります。正規・非正規とも規模の大きい企業のほうが賃金は高い一方、雇用形態による賃金格差は大企業ほど拡がる傾向が見られます。

雇用形態・性・企業規模別賃金/雇用形態間賃金格差
企業規模 雇用形態・性・企業規模別賃金
(月額・単位:万円)
雇用形態間格差
(正社員=100)
正社員・正職員 正社員・正職員以外
男女計 大企業 37.59 22.01 58.6
中企業 31.02 20.06 66.4
小企業 27.78 19.51 70.2
男性 大企業 40.71 24.57 60.4
中企業 33.53 22.68 67.6
小企業 29.88 21.77 72.9
女性 大企業 29.85 19.58 65.6
中企業 26.18 18.70 71.4
小企業 23.40 17.43 74.5

 

同じ労働時間で賃金に約1.5倍の差

正社員と非正規社員の労働時間にほとんど差はありませんが、平均賃金には約1.5倍の差があります。非正規社員は定期昇給やボーナスなどが正社員に比べ少なかったり、全くなかったりするケースも多く、賃金格差の要因となっています。

同じ時間働いても低い賃金しか得られない非正規雇用の状況はまさにワーキングプアそのものと言えるでしょう。

雇用形態別所定内実労働時間数及び賃金
雇用形態 所定内実労働時間数
(時間)
賃金
(月額・単位:万円)
正社員・正職員 165 32.39
正社員・正職員以外 161 20.94

 

バブル崩壊後の景気低迷が生んだ大量の非正規雇用を生んだ

バブル崩壊後の景気低迷に伴う企業の雇用形態の変化が大量の非正規雇用を生んだ大きな要因と言えます。

就職氷河期と呼ばれる1993年から2005年頃は企業が新卒採用を絞り、新卒で正社員になれなかった多くの若者がフリーターなど非正規の職に就くことになりました。新卒一括採用の慣習が根強い日本では、新卒で正社員となれなければその後正社員となりにくい現状があります。

非正規雇用では昇給やボーナスもあまり期待できず、働いても貧しいまま。家庭を持てばさらにお金が必要となり、ますます生活は苦しくなる。ワーキングプアの増加にはこのような背景もあります。

 

ワーキングプアの生活実態

ワーキングプアの生活とはどのようなものなのか。公益財団法人連合総合生活開発研究所のアンケート調査結果により明らかになったワーキングプアの生活実態は次のようなものです(※調査対象者:620人(男性279人・女性337人・不明4人)、平均年齢37.7歳)

 

 

世帯構成

ワーキングプアの世帯は平均に比べ単身世帯の割合が多くなっています。これまでに結婚したことはない人は全体の46.8%、結婚経験していたが離婚した人も32.9%と多く、結婚している人は16.5%に過ぎません。

「結婚のための安定した収入がない」ことが結婚未経験者が結婚していない理由のトップとなっており、経済的な理由から結婚できない・しない人が多いことがわかります。

世帯構成 ワーキングプア

 

生計を共にしている人(複数選択)

生計を共にしている人(複数選択) ワーキングプア

 

仕事

ワーキングプアのうち3人に2人65.5%)が非正規雇用が占めています。雇用が不安定で、比較的短期間で就労を繰り返すことも多く、技能の習得が難しいこともワーキングプアから抜け出せない要因と考えられます。

 

雇用形態

ワーキングプアの雇用形態
正社員・正職員 28.3%
非正規社員・職員 パート・アルバイト・臨時職員 39.8% 65.5%
登録型派遣 11.7%
日雇型派遣 2.6%
契約社員 7.4%
その他 4.0%
自営業など 2.9%

 

雇用形態 ワーキングプア

 

ワーキングプアは転職を繰り返している人が多い

ワーキングプアの約9割が転職を経験しており、平均転職回数は5.1回。転職回数「3~4回」の人が31.0%、同「5~9回」の人が27.7%おり、転職を繰り返している人が多いことがわかります。正社員として就職してから転職して非正規社員となる人は多いものの、非正規社員から正社員になれる人は少ないようです。

学校卒業後の転職回数
転職なし 1回 2回 3〜4回 5〜9回 10〜19回 20回以上 無回答
7.4% 11.5% 10.2% 31.0% 27.7% 9.4% 1.5% 1.5%

現在は人手不足による雇用状況の改善や、転職市場の拡大など以前に比べ正社員となりやすくなっていると言えます。ただ求人の多い建設業や介護、飲食業などには長時間労働の問題などもあり、厳しい状況には変わりありません。

 

ワーキングプア類型別、初職と現職のキャリアパターン(初職×現職)

ワーキングプア類型別、初職と現職のキャリアパターン(初職×現職)

 

現在の生活

ワーキングプアの暮らし向きは「大変苦しい」という人が41.1%に達し、「やや苦しい」という人も合わせると81.9%の人が生活が苦しいと感じています。

ワーキングプアの暮らしについて

 

半数以上の世帯が赤字

調査によると家計収支については「大幅な赤字」の世帯が30.3%、「やや赤字」の世帯が21.9%と家計が赤字の世帯は半数を超えています。多くのワーキングプアが貯金を切り崩したり、生活保護などを受けないと生活できない状況であり、貯金ができた世帯は14.5%に留まっています。

 

多くの人が切り詰めた生活を送っている

ワーキングプアの多くが切り詰めた生活を送っており、「医者にかかれなかった」「ライフラインを止められた」など生きていくために欠かせない部分に支障をきたしている人も一定数います。

・趣味やレジャーの出費を減らした…62.1%
・生活必需品の購入を控えた…52.6%
・友人とのつきあいを控えた…46.3%
・預貯金を取りくずした…46.1%
・お金がなくて食事を我慢した…34.7%
・お金がなくて医者にかかれなかった…18.4%
・借金の返済ができなかった…12.4%
・電気・ガス・水道・電話などを止められた…11.9%
・家賃や住宅ローンを払えなかった…10.8%
出典:連合総合生活開発研究所『ワーキングプアに関する連合・連合総研共同調査研究報告書II-分析編-』より抜粋

 

ワーキングプアはあくまで目安

ワーキングプアについての厳密な定義がない日本では、フルタイムで働きながら生活保護水準以下の収入しか得られていない人(世帯)をワーキングプアと見なしています。ただ、ワーキングプアであるかは政策や統計上の目安。各個人(世帯)が家計をうまくやりくりできているか、貯蓄や運用に回すお金を確保できているかがより重要なのことだと言えます。

 

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