- 年金でもらえる収入源はわずかなので、豊かな生活を送るためには必ず対策が必要である。
- 老後は医療費が思っている以上にかかることに注意が必要。
- 貯蓄だけでなく、アパート経営や株式投資など資産を運用して老後の収入源を自分で作ることが大切。
公開日:2020年7月25日
老後2,000万円が不足するとの報道が出て以降、老後資金について心配する人が増えているようです。実際のところ、老後にはどのくらいの金額が必要になるのでしょうか。
本記事では、老後のために備えておくべき金額の目安や考え方、具体的な貯蓄方法について、実際の事例を紹介しながら詳しく解説します。
老後の生活資金というと、真っ先に年金を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。「老後は年金をもらうから、老後資金の準備なんて必要ない」、なんて思っている人は少なからずいるのではないかと思います。
そんな風に思っている人に質問です。みなさんは老後にいくら年金をもらえるかご存知でしょうか。年金事務所などから定期便で支払い状況が送られてきますが、見てもイマイチいくらもらえるのかわからない、と思っている人は多いのではないかと思います。
ここからは平成29年度厚生年金保険・国民年金事業の概況をもとに解説します。
夫婦が共働きの会社員だった場合、もらうことができる年金は次のようになります。ちなみに、20歳から60歳までもれなく保険料を納めた場合の金額です。
会社員の場合は、国民年金のほかに厚生年金がもらえるので、自営業者に比べるともらえる年金額が多くなります。内訳としては、国民年金で約56,000円が支給され、残りの部分が厚生年金部分です。
厚生年金部分は収入に応じて金額が変化するため、女性よりも男性の年収のほうが高い傾向になるので上記のように差が出ます。
夫婦合わせればある程度の生活は可能かもしれませんが、仮に独身者だったとすると新卒の初任給にも満たないような金額ですから、現役時代を比べてかなり生活レベルは落ちてしまうことが予想されます。
年金額で注意が必要なのが自営業者の方です。自営業者は厚生年金に加入していないので、月額の受取額は約56,000円しかありません。正直なところ金額的にはバイト代のような水準なので、とても生活費が足りるとは思えませんよね。
貯蓄などの蓄えが一切ない状態で老後を迎えてしまうと、事実上生活していくことができないと思う必要があります。
かつての老後生活というと、定年退職して悠々自適の生活を送るイメージがあったかもしれませんが、現在では退職金制度がない企業も増えてきたこともあり、定年退職せずに生涯現役で働くことが想定されてきています。
そのため、定年退職後に楽しく気ままに余生を送りたいと考えているのであれば、若いうちからしっかりと資産形成しておくことが必須なのです。このように国民年金の水準が非常に低いのは、事前の資産形成か生涯現役のどちらかを国民に迫っているからといえるでしょう。
事前の準備なくして悠々自適な老後はないことがお分かりいただけたところで、次に具体的な金額について考えてみましょう。一体老後はいくらの収入があれば、問題なく暮らしていけるのでしょうか。
老後必要になる金額についてはさまざまな推計がされていますが、大前提として考えなければならないのが今現在の消費支出額です。
よく年収別に必要となる消費支出の目安について論じられることがありますが、実際のところ消費支出額を考える上で大切なことは、自分自身の生活水準を把握することにあります。
夫婦共働きしていた世帯なのか、自営業者の1人世帯なのかによって受け取れる年金額に大きな差が生じることから、準備すべき目安となる金額は世帯によって変わってきます。
平成29年の総務省「家計調査報告(家計収支編)」によると、高齢者夫婦世帯が1ヶ月に消費する金額の平均は合計で263,717円だそうです。
夫婦が現役時代に共働きだったとすると、年金月額は268,000円なのでギリギリ足りる可能性がありますが、医療費が変動する可能性も踏まえて考えると、予備費として毎月3万円程度は確保しておきたいところです。
そうすると年間で36万円、老後生活20年と仮定して720万円程度が事前に準備すべき必要額といえます。
自営業で単身者となると、年金額は国民年金の約56,000円なので生活費としては全く足りなくなります。仮に年間200万円で生活すると仮定したとしても、年金で賄えるのは672,000円だけで、残りの1,328,000円は別で準備しなければならないのです。
ここまでの金額になると、貯蓄を切り崩すだけでは非常に厳しいので、老後もある程度の収入が得られるような対策が必要になってきます。そうはいっても、現役世代の方からすると、老後資金の不足と聞いてもなかなか実感が湧かないのではないでしょうか。
そこで次項では、老後生活を甘く見ていたせいで生活が破綻しかけてしまった事例についてご紹介したいと思います。
最近下流老人が増えているという報道を時々耳にします。下流老人とは生活水準が低い老人のことで、悠々自適とはほど遠い老後を送っている人たちのことをいいます。
下流老人と聞くと、現役時代もあまり高給取りではなかったのではないか、と思うかもしれませんが、実は下流老人の多くは年収800万円以上稼いでいた一流サラリーマンだったケースも多いのです。
では、なぜそんな人まで下流老人になってしまうのでしょうか。
私が実際に聞いた実例についてお話ししたいと思います。現役時代は年収1,000万円という高給取りだったXさんが定年退職された後の話です。結論からいうと、この方は最終的に自己破産のスレスレまで行ったのですが、その原因がなんだったのかについて探ってみましょう。
一流企業に勤務していたXさんは、定年退職する際に2,000万円ほどの退職金が支給されました。これだけでもかなり高額ですが、そのほかにも現役時代の預金として500万円を蓄えていたそうです。
一見すると老後の好スタートを切っているように見えるかもしれませんが、Xさんは退職金と預金の一部を使い、老後の住まいとして都心部のタワーマンションを購入したのです。
そして、これがのちに大きな痛手となります。引越した当初は、年金と貯蓄で十分生活ができていて何不自由ない生活を送っていたのですが、あることをきっかけに少しずつ歯車が狂い始めます。
老後生活を始めた間もなく、奥さんが認知症になってしまい、自宅での介護が難しいと考えたXさんは奥さんを介護施設へ入所させることを選択したのです。
介護施設は費用が安いところはなかなか入所ができない状況で、契約したところは月額10万円以上するような施設しか見つかりませんでした。それでもXさんは年金でまかなえるだろうと見込んで、奥さんの介護施設への入所を決断したのです。
奥さんの介護施設への費用を支払うと、生活に当てられる金額はわずか数万円だったそうです。それでもなんとか人並みの生活はできていたそうですが、Xさんを次なる不幸が襲います。
持病の腰痛が悪化し、病院への定期的な通院が必要になり、月額の医療費がかさみ始めたのです。若いうちは医療費といっても、大きな手術をしなければそこまで多くの金額がかかることがないため、真剣に向き合う機会が少ないかもしれません。
老後の医療費というのは若いころとは違い、治療して終わりというものではなく、数年や一生涯治療を継続していかなければならない持病にかかってしまうことがよくあるのです。
今は医療が進歩しているので、かなり多くの病気は治療によって助かるようになりましたが、その一方で助かるが故の継続的な医療費負担という問題が出てきています。
例えば、がんでも手術で除去して終わればよいのですが、継続的に薬などで治療が必要になるケースでは、医療費がランニングコストとして重くのしかかるのです。
医療費は健康や命に関わる部分なので、支出の中でもどうしても削ることができません。Xさんの事例のように、自身や家族が病気になったことで生活が維持できなくなったという人は少なくないのではないでしょうか。
結局Xさんは年金だけでは生活が維持できなくなったせいで、ついに消費者金融から借金をすることになってしまいました。
最初は数万円程度で軽い気持ちだったようですが、毎月のキャッシュフローが赤字だと、借金も毎月積み重ねていくことになってしまうので、気がついたときには数百万円の借金ができてしまったのです。
子供に相談すればよかったのではと思う人もいるかもしれませんが、現役時代にそれなりの収入があった人ほど子供に頼りたくないと強く思う傾向があります。この方も子供に迷惑をかけたくないという理由から、相談はしなかったそうです。
Xさんは最終的には老後の住まいとして購入したタワーマンションを売却し、それで得たお金を使って借金を完済し、自身は家賃6万円程度のアパートに引越したそうです。
しかも、売却価格は購入時の7割くらいにまで落ちてしまったため、実質的には退職金をほぼ失ったような形になってしまいました。幸い自己破産を免れたそうですが、人によってはこのような状況で自己破産に追い込まれてしまう人は少なくないのではないでしょうか。
Xさんの実例をもとに、老後安定した生活を送るためのポイントについて考えてみたいと思います。
退職金が出る人は非常にラッキーですが、今回の事例のように一括でマンションを買うなど一気に消費してしてしまうと、その時はよくてもXさんのように奥さんの認知症など後発的な状況に対応できなくなる可能性があります。
そのため、退職金はできるだけ全額を使うことはせず、ある程度の金額を手元に残しておくことをおすすめします。
また、どうしても新居の購入やリフォームなどでまとまったお金を支出する際には、事前に人間ドックを受けるなどして自分や家族の健康状態を把握してから判断するほうがよいでしょう。
老後生活を脅かす1つの原因が医療費負担です。若いころはそこまでかからなくても、定年後の医療費は非常に大きな負担となります。特に注意が必要なのが薬です。
がん治療などで使用する薬は高額なものも多く、1粒数万円というものもよくあるので、たとえ命が助かったとしても生活が助からないということも十分ありえます。
さまざまな対策をとったとしても、何らかの事情で生活が回らなくなることも十分考えられます。このような場合、Xさんのように1人で抱え込んでしまうとさらに傷口が広がってしまうので、できるだけ家族に早い段階で相談して解決させることが大切です。
老後生活を豊かに安定的に過ごすためには、やはり準備が必要なことは間違いないでしょう。ただ、準備といってもただ貯蓄しておけばいいという単純な問題でもありません。老後のためにできることには、大きく分けて次の3つがあります。
人によって個人差はありますが、できれば最低でも年収の3年分程度の貯金があると非常に安心です。
実際はもっと必要になることのほうが多いですが、あまり多くの金額を貯蓄に回そうとすると、現役世代のときの生活レベルが落ちてしまうので、無理をしすぎない範囲で3年分を目安にしましょう。
なお、退職金制度がある会社であれば、その分貯蓄に回さなければならない金額は減ります。ただ、途中で転職する可能性も含めて考えると、あまり退職金ありきの資産形成はお勧めではありません。
30代後半くらいからは、高額な医療費リスクをヘッジするために医療保険への加入も検討しましょう。若くして手術をしたり入院したりすると、医療費はもちろんですが収入が途絶えることになるので老後どころではありません。
特に40歳を過ぎると持病なども発覚し始めるころなので、できれば保険料が安くて加入できるうちに加入しておくと、将来の医療費に対してリスクヘッジできるでしょう。
今の日本で老後を迎える場合、最も重要といえるのがこれです。老後の収入源が年金しかないと、生活レベルはどうしても落ち込みますし、医療費が賄えなくなる危険性もあります。
人生100年時代をいわれる昨今、65歳の定年退職後も何らかの収入源を確保しておくことが、老後資金対策としてとても大切です。
例えば、現役時代の収入があるときに賃貸物件を購入しておき、老後はその家賃収入を生活費にあてるやり方がよく用いられます。そのほかにも株式投資による配当金や個人年金など、老後も定収入を生み出す方法がいくつかありますので、ぜひ早めから実践してみるとよいでしょう。
これらの対策を講じる際には、必ずファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談してから始めることが大切です。
ベストな対策はご家庭によって変わってきますので、より効果的に老後資金対策をするには、まず専門家に自分自身の家計をベースに診断してもらうことから始めるとよいでしょう。
対策のベースとなる情報が違っていたら的外れな対策になってしまうので、必ず何かを始める前に現状把握から始めることが大切です。
今回は老後資金対策について解説してきました。年金だけで老後がやりくりできると考えていると、気がついたときには下流老人になっている可能性があります。
早いうちから対策をとることで、老後も現役時代と同じくらいの水準で余生を送れる可能性がありますので、まずは早めに専門家に相談してみましょう。
「保険チャンネル」は、リクルートが運営するサービスで、お金のプロであるFP(ファイナンシャルプランナー)に「保険の見直し」「家計」「老後資金」「教育費・子育て費用」について無料で何度でも相談できるサービスです。大手企業が運営しており安心して利用できますのでぜひご検討ください。