- 収入が最低生活費より少ない母子家庭は生活保護を受けられる可能性がある。
- 日本では生活保護の基準を満たしていても実際に生活保護を利用している人は少ない。
- 児童手当や児童扶養手当をもらっていると、生活保護費はその分少なくなる。
公開日:2019年10月14日
離婚して母子家庭になったとき、貧困に陥ってしまう人が多数います。生活に困ったときには生活保護という手段がありますので検討してみましょう。本記事では、母子家庭が生活保護を受ける方法や支給金額について説明します。
目次
離婚などにより母子家庭になると、母親だけの収入で生活をしていかなければなりません。日本ではまだまだ子供を抱えて女性が働くのは困難です。生活に必要な収入が得られず苦しいときには生活保護を考えましょう。
母子家庭の貧困については、昨今メディアでも頻繁にとり上げられています。厚生労働省の行っている国民生活基礎調査(平成28年度)によると、ひとり親家庭の相対的貧困率は50.8%です。
ひとり親家庭の大部分は母子家庭なので、母子家庭の相対的貧困率はさらに高い割合であることが予想されます。現在の日本では、母子家庭の半数以上が貧困に直面しているのです。
シングルマザーの貧困について詳しくは以下の記事をご参照ください。
貧困になってしまったときのセーフティネットとして設けられている制度が生活保護です。母子家庭になって生活が苦しい場合には、生活保護を利用するという方法があります。
日本では生活保護にあまり良いイメージがありません。そのため、生活が苦しくても我慢してしまう人が多くなっています。生活保護を利用することは国民に与えられた正当な権利です。困ったときには制度の利用を検討しましょう。
生活保護を利用するなら、生活保護について正しい知識を持っておくことが大切です。生活保護とはどういう制度なのか、どれくらいの人が利用しているのかを知っておきましょう。
日本国憲法第25条では、国民は「健康で文化的な最低限度の生活」を送る権利を持っていることが明記されています。生活保護制度は、何らかの事情で最低限度の生活を送ることができない人のために、経済的な援助を行う制度です。
厚生労働省の調査によると、令和元年7月現在日本で生活保護を受けている人は約208万人、生活保護率は1.65%です。また、所得が生活保護基準以下である人のうち生活保護を受けている人の割合(捕捉率)は15~18%程度とされています。これは、世界的に見ても低い水準です。
次の表を見てもわかるとおり、諸外国に比べて日本では、生活保護が必要な人に行き届いていないことがわかります。
生活保護を受けるためには厳しい条件があると思っている人もいるかもしれません。生活保護を受ける基準は、シンプルに収入が最低生活費に届かないことです。
生活保護が利用できるかどうかの基準となるのが最低生活費です。最低生活費とは「健康で文化的な最低限度の生活」をするため1か月に必要な金額です。毎月の収入が最低生活費より少なければ、生活保護を受けられます。最低生活費の具体的な金額は次のような事項に基づき算出されます。
最低生活費は毎月最低限必要な費用なので、年収が最低生活費の12か月分より少なければ生活保護が受けられることになります。ただし、最低生活費は上記の1~4のような基準によって決まるので、生活保護が受けられる年収も一律ではありません。
生活保護の基準を満たしていても、生活保護を受けるかどうかは自由です。上にも書いたとおり、日本の生活保護捕捉率は15~18%です。日本では生活に困っていても生活保護を受けていない人が多いことになります。
生活保護を受けていると、「働けるのに働かないのでは?」「不正受給ではないか?」と見る人もいます。周りから後ろ指を指されてしまうことを恐れて生活保護に消極的な人も多いのです。
ですが、シングルマザーの貧困は未来を担う子供にとっても大きな問題です。生活保護について正しい知識を得た上で、困っているなら利用を考えましょう。
生活保護費の計算方法は、やや複雑です。生活保護費をどのようにして算出するのか、大まかな計算方法を把握しておきましょう。
収入がない場合には、生活保護費として最低生活費と同額が支給されます。多少なりとも収入があれば、最低生活費から収入を差し引いた金額が生活保護費となります。
※収入には給与のほか、各種手当や年金が含まれます。
生活保護には、次の8種類の扶助があります。
種類 | 内容 |
---|---|
生活扶助 | 食費、光熱費、衣料費など |
住宅扶助 | 地代、家賃、補修費など |
教育扶助 | 小・中学校の学級費、給食費、教材費など |
医療扶助 | 病気・ケガで医療機関にかかるための費用 |
介護扶助 | 介護のための費用 |
出産扶助 | 出産のための費用 |
生業扶助 | 技術の習得や就職のための費用 |
葬祭扶助 | 葬儀を行うための費用 |
生活保護費のメインとなるのが「生活扶助」です。他の扶助は人によって必要がなかったり臨時でかかったりするものですが、生活扶助は基本的に誰もが必要とするものになります。
生活扶助の金額を計算するときには、次の3つを合計します。
第1類 | 個人のために支給される費用で年齢によって金額が定められています。 |
---|---|
第2類 | 世帯に支給される費用で、世帯人員数によって定められています。 |
加算額 | 障害者、母子世帯、児童養育世帯等に加算される費用です。 |
生活扶助費は、大まかには次のような流れで計算します。
生活扶助基準額は、住んでいる地域によって異なります。厚生労働省では全国の市区町村を6つの級地区分(1級地-1、1級地-2、2級地-1、2級地-2、3級地-1、3級地-2)に分けて生活扶助基準額を定めています。
生活保護の窮地区分については、厚生労働省のホームページで確認できます。
生活扶助のうち第1類については、世帯人員数に応じた逓減率をかける必要があります。世帯人員が2倍に増えると生活費が2倍かかるわけではないからです。
母子家庭などは定められた加算額を加算できます。
母子家庭で生活が苦しいなら、生活保護が受けられる可能性があります。生活保護を利用する場合の支給額の目安を知っておきましょう。
厚生労働省の行っている「被保護者調査」によると、令和元年7月現在、生活保護を受給している母子世帯の数は8万1,800世帯となっています。母子世帯の数は、国民生活基礎調査(平成30年度)によると約66.2万世帯です。概算ですが、母子世帯の1割強が生活保護を受給していることになります。
母子家庭が平均どれくらいの生活保護費を受け取っているかのデータはありません。ちなみに、厚生労働省の平成28年度の統計によると、生活保護受給者全体から算出した1人あたりの保護費(月額)は14万4,310円となっています。
生活保護受給者の約半数は高齢者世帯ですが、高齢者の生活保護費は年金を差し引いた金額になります。母子家庭の場合には母子加算などもあるため、保護費の月額平均はもう少し高いことが予測されます。
東京都(23区)在住、母(30歳)、子供2人(4歳、2歳)の3人世帯を例にとって、生活扶助基準額を計算してみましょう。
東京都(23区)は1級地-1に該当し、生活扶助第1類の金額は次のようになります。
30歳 | 38,430円 |
---|---|
4歳 | 29,970円 |
2歳 | 26,660円 |
合計 | 95,060円 |
95,060円に3人世帯の逓減率0.8350をかけると79,375円となります。
3人世帯の生活扶助第2類の金額は59,170円です。
児童2人の場合の加算額は24,200円です。
2歳児13,300円、4歳児10,000円の合計23,300円を加算できます。
住宅扶助として東京都の場合上限69,800円が支給されます。
以上より、生活扶助基準額は次のようになります。
※あくまで目安の金額です。実際の計算方法は自治体の窓口にお問い合わせください。
毎月の収入が最低生活費に届いていなくても、生活保護が受けられないケースもあります。ただし、生活保護の基準はそれほど厳しいわけではありません。生活保護が受けられる条件について知っておきましょう。
生活保護が受けられるのは、働くことができない人だけではありません。働いていても最低生活費以下の収入しかなければ、生活保護を受けることができます。なお、収入額について判断するときには給料の全額を含めるわけではなく、経費として一部を控除できます。
持家に住んでいる場合でも、生活保護を受給することは可能です。ただし、自宅が高額になる場合には売却するよう言われることがあります。
シングルマザーの場合、児童手当や児童扶養手当をもらっていると思います。手当だけでは最低生活費には届かないのが普通ですから、手当で足りない分について生活保護を受給できます。
生活保護を受給している人は、原則として車を持つことができません。ただし、公共交通機関がない地域で通勤に必要な場合、事業に必要な場合、障害者の通勤・通院に必要な場合などは例外的に車を持つことができます。
生活保護を受けるには、役所で申請手続きをする必要があります。生活保護の申請手続きの流れや手順を把握しておきましょう。
生活保護を申請するときには、次のような流れになります。
生活保護の申請をする前に、まずは役所の窓口で相談しましょう。生活保護の相談窓口は、住んでいる地域を所管する福祉事務所(生活保護担当部署)です。相談時には、生活保護以外の福祉制度についても説明してもらえます。
生活保護を申請することになれば、申請書を書いて提出します。
生活保護申請をした後、家庭訪問や資産調査が実施されます。親族への扶養照会も行われます。
生活保護申請後、14日以内(最長30日以内)に開始か却下の決定が通知されます。生活保護が開始する場合には、申請日にさかのぼって生活保護費が支給されます。
生活保護を申請すると、親族へ問い合わせする「扶養照会」が行われます。
生活保護を申請すると、親族に対し「○○さんが生活保護を申請しましたが援助できますか?」と役所から問い合わせが行われます。これを扶養照会と言います。
民法上、親子間や兄弟姉妹間には扶養義務があり、困っているときには助け合わなければなりません。そのため国が援助する前に、親族が援助できないかどうか扶養照会により確認するのです。
扶養照会されても、親族は扶養を強制されるわけではなく、援助を断ることができます。なお、親族に援助を断られても、生活保護を利用することは可能です。
生活保護を利用すれば必ず親族に迷惑がかかるわけではありませんので、困っているなら前向きに申請を考えましょう。
離婚により母子家庭になった場合、子供の父親である元夫には子供の扶養義務があるので、元夫に扶養照会が行われます。もしDVなどで居場所を知られたくない場合には、役所に頼んで扶養照会を差し控えてもらうことも可能です。
生活保護と児童扶養手当は別のものです。児童扶養手当をもらっていても、生活保護を受けることは可能です。
児童扶養手当は、18歳になった3月31日までの子供がいるひとり親に支給される手当です。高校生までの子供がいるシングルマザーなら受給できるということですが、収入制限もあるので誰もがもらえるわけではありません。
児童扶養手当やその他の補助制度については、以下の記事をご参照ください。
児童扶養手当をもらっていても、生活保護を受給することはできます。児童扶養手当の受給者が生活保護を受給するようになっても、児童扶養手当が停止になることはありません。
ただし、児童扶養手当も収入とみなされるので、生活保護費から児童扶養手当の金額が差し引かれることになります。
母子家庭のシングルマザーの中には、働けない事情がある人や、働いてもわずかな収入しか得られない人がいると思います。働いて自立を目指すことは大事ですが、どうしても生活が苦しいなら、生活保護という選択肢も視野に入れてみましょう。
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