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老後の生活費はどのくらい必要?今から備えたい定年後の資金についてFPが解説!

老後の生活費はどのくらい必要?今から備えたい定年後の資金についてFPが解説!

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平岡 瑞希

平岡 瑞希

社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

「働く人がおかねに強くなれば、活気ある組織になる!」をモットーに、企業の人事・労務コンサルティングを行っています。社員向けの金融教育研修、子ども世代へのおかねの授業、20代・30代向けのプチセミナーを毎月主催など、若手世代の金融リテラシー向上のため活動中。商品を販売しない、中立公正な独立系FPです。愛媛県在住。みずき社会保険労務士事務所代表。

この記事のポイント

  • 老後の生活費の平均は、夫婦2人で約42,000円の赤字、1人暮らしで約39,000円の赤字。
  • 食費や医療費、現役世代と大きく変わらない支出もある。
  • 明るい老後は「資産形成」だけではダメ!「生活費のやりくり」は必須。

長寿化が進み、退職後の人生が20年、30年と続くことが普通になりました。「老後破産」「老後貧乏」「長生きリスク」など、ネガティブな言葉も沢山登場しており、マネープランを立てずに老後を迎えることには、大きなリスクがあります。

お金と賢く付き合って、自由な時間を思いきり楽しむために。老後の生活費について確認しましょう。

 

老後の生活費、平均額は?

老後の生活費、平均額は?

総務省の行う調査「家計調査年報」では、学生のみ世帯を除き、全国の全ての世帯を対象に、何にお金を使っているか調べています。(以下、全て2018年の調査結果を参考)

退職後、生活費はどのくらい変わるでしょう。世帯主が高齢かつ働いていない家庭の、収支の平均額は次の通りです。

 

夫婦2人の場合

高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の、1カ月あたりの収支です。

高齢夫婦無職世帯の「収入」
収入合計 約223,000円
社会保障給付(年金など) 約204,000円
その他の収入 約19,000円

その他の収入には、配偶者の給与・事業収入・仕送りなどが含まれます。

高齢夫婦無職世帯の「支出」
支出合計 約264,000円
消費支出(食費、住居費など) 約236,000円
非消費支出(税金、社会保険料) 約29,000円

収入と支出の差を見ると、約42,000円の赤字です。赤字になった分は、預貯金など、手持ちの資産を取り崩しながら生活していくことになります。

項目別の支出
項目 金額(月)
食費 約65,000円
住居費 約14,000円
光熱水費 約20,000円
家具・家事用品 約9,000円
衣料品 約6,000円
保健医療費 約15,000円
交通費・通信費 約28,000円
娯楽教養費 約24,000円
交際費 約25,000円
その他(雑費、仕送りなど) 約28,000円
税金 約12,000円
社会保険料 約17,000円
合計 約264,000円

 

単身世帯

高齢単身無職世帯(60歳以上・単身・無職の世帯)の、1カ月あたりの収支です。

高齢単身無職世帯の「収入」
収入合計 約123,000円
社会保障給付(年金など) 約115,000円
その他の収入 約8,000円

その他の収入には、事業収入・仕送りなどが含まれます。

高齢単身無職世帯の「支出」
支出合計 約162,000円
消費支出(食費、住居費など) 約150,000円
非消費支出(税金、社会保険料) 約12,000円

収入と支出の差を見ると、約39,000円の赤字になっています。赤字になった分は、預貯金など、手持ちの資産を取り崩しながら生活していくことになります。夫婦”2人分”で約42,000円の赤字、という夫婦世帯の家計と比べると、平均的に、単身世帯のほうが生活が苦しい様子が見て取れます。

項目別の支出
項目 金額(月)
食費 約36,000円
住居費 約18,000円
光熱水費 約13,000円
家具・家事用品 約5,000円
衣料品 約4,000円
保健医療費 約8,000円
交通費・通信費 約14,000円
娯楽教養費 約17,000円
交際費 約18,000円
その他(雑費、仕送りなど) 約15,000円
税金 約6,000円
社会保険料 約6,000円
合計 約162,000円

 

平均額は、理想的なケースとは程遠い?

この調査から分かるのは、全体の支出額から割り出した平均額です。この収支で生活している家庭が標準にはなりません。

実際に、この平均額で生活したとしてみましょう。収入が22万円で、4万円の赤字を出しながら、娯楽費と交際費で5万円、食費にも6万円使っている…。収入に対して生活費が多すぎて、とても現実的とは言えません

この平均額より多い収入で生活している世帯もあり、少ない収入で生活している世帯もあります。少ない収入でも黒字でやりくりしている家計もあれば、たくさん収入があっても浪費が重なり赤字になっている家計もあります。

 

年金生活、収入はいくら?

40年間ずっと年金保険料を納め続けた場合、夫婦でどれくらいの年金を受け取ることができるでしょうか。

  • 夫婦・会社員・共働き(世帯年収500万円)→約260万円
  • 夫婦・会社員の夫・専業主婦の妻(世帯年収500万円)→約265万円
  • 夫婦・自営業→約156万円
  • 単身・会社員(年収250万円)→約130万円
  • 単身・自営業→約78万円
    (夫婦ともに昭和42年生まれとして、本来水準による概算額。)

年金保険料を支払っていなかった「未納期間」や、収入が少ないため保険料の減免を申請していた「免除期間」があると、年金額は少なくなります。

ほとんどの家庭に共通することは「老齢年金のみで、現役の時と同じ収入は受け取れない」ということです。また、年収が高い世帯ほど、現役世代の給与と比べて受け取る年金額の割合は低くなります。

2倍の給料を稼いでも、将来受け取れる老齢年金は2倍にはなりません。年収が高い家庭では、老後のため自分で備える「自助努力」がより求められているとも言えます。

 

自分の年金額を知るには「ねんきん定期便」「ねんきんネット」

実際の年金額の計算はとても複雑です。葉書で毎年届く「ねんきん定期便」のほか、将来の職業も想定して見積できる日本年金機構のWebページ「ねんきんネット」を活用しましょう。年金額が簡単に計算できます。

 

項目ごとの支出目安、現役時代との変化は

項目ごとの支出目安、現役時代との変化は

 

 

食料費が3割近くを占める

高齢世帯の「食料費」
夫婦世帯 単身世帯
約65,000円 約36,000円

高齢世帯の支出で、最も大きな割合を占めるものが「食料費」です。消費支出のうち、夫婦世帯では27.7%、単身世帯でも24.3%を占めています。

全世代の2人以上世帯を対象とした調査でも、食費の割合は27.6%を占めていますので、割合はそう変わりません。高齢世帯では1人1日あたり、約1,000円の食費が平均のようです。

1日1,000円、1週間で7,000円、1カ月で3万円という金額は、無理に切り詰めている金額ではないでしょう。必要に応じ、各世帯で節約も可能な項目です。

 

持ち家か賃貸かで大きく違う住居費

高齢世帯の「住居費」
夫婦世帯 単身世帯
約14,000円 約18,000円

夫婦世帯と単身世帯を比べたとき「住居費」の項目だけ、夫婦世帯よりも単身世帯のほうが金額が大きくなっています。住宅にかかるお金は、持ち家か賃貸かで大きく異なります。

  • 住宅ローンの返済
  • 家賃、地代
  • 設備の修繕費、維持費

賃貸に住んでいる場合は、退職しても現役の時と変わらない家賃がかかり続けます。賃貸物件の家賃は、月1~2万円では足りないことがほとんどでしょう。

一方で住宅ローンを完済している家では、住宅にかかるお金といえば、維持費・修繕費・リフォームローンなどです。実家など、家族が所有する家に住む場合も同様です。

 

医療費用の負担は、少し増える程度

高齢世帯の「保健医療費」
夫婦世帯 単身世帯
約15,000円 約8,000円

高齢になったら健康状態が変わって医療費がかさむのでは…?と心配になるところです。しかし、全世代の二人以上世帯で「保健・医療費」の平均額は約13,000円、消費支出のうち4.6%です。

高齢夫婦世帯では6.4%ですから、高齢になったからといって、医療費が2倍にも3倍にもはかかっていないようです。

 

健康保険で、高齢者の医療費負担は軽い

健康保険の高額療養費制度は、1カ月にかかった医療費が大きくなった場合、窓口で払ったお金の払い戻しが受けられる制度です。

同じ収入・同じ医療費の場合、70歳未満より70歳以上のほうが、医療費の払い戻しを受けられる金額が多くなります。高齢になると、その分、公的保険から手厚い保障を受けられるため、民間の生命保険(医療保障)で手厚い保障を準備する必要性は薄れます。

一方で、介護や認知症に備える保険が必要になるなど、保険の見直しによっても支出の内容は変わりそうです。

 

教育費はかからなくなるけど…イベント出費に替わることも

高齢世帯では「教育費」の支出はほぼゼロです。一方で「娯楽教養費」「交際費」そして「仕送り金」といった支出を合わせると、消費支出のうち20%を超えます。

 

子供や孫への援助

子供の結婚、住宅購入、孫の進学…そういった「子・孫費」の計画は立てられているでしょうか。イベントのたびに大きな金額を援助したり、きょうだいは平等にと援助をしていると、数百万、数千万という金額の支出になる可能性があります。

退職後「貯金を取り崩す」生活になると、手持ちの資金に余裕がある…と思ってしまいがちです。潤沢に援助をしたいのであれば、それが可能かどうか見通しを立てることが必要です。

一方で、子供たちが独立して生計を立てられているか、親頼みの生活になっていないか、援助すべきという思い込みから無理のかかるサポートをしていないか…親から子への援助は、必ずしも必要なものではないのです。

 

旅行、スポーツ、交際費…

「娯楽教養費」「交際費」に対しても同じような見方ができます。計画を立てないまま、手持ちの資金に余裕がある…と錯覚すると、数百万単位で支出がかかり、後から資金繰りが苦しくなってしまいます。

見栄を張って交際費がかさんだり、旅行の予定をたくさん入れていないか…。楽しみなイベントで思い切りお金を使いたいのなら、年ごと、月ごとに娯楽費の予算を立てましょう。お金の不安がないほうが、もっと楽しめるはずです。

 

自分で予算を立てることができればOK

支出の内訳を見ると、老後の生活設計は自分次第ということが分かります。自分の好きなことにお金を使って活き活き楽しむためには、現状に見合った予算を立てて、その範囲でやりくりすることが重要です。

 

結局、老後資金っていくら必要?

結局、老後資金っていくら必要?

老後資金はいくら必要でしょうか?と聞かれて、頭にパッと浮かぶのは”老後2,000万円”のキーワードではないでしょうか。2019年6月に、金融庁の審議会の報告書から引用されて、話題になりました。

老後の生活においては年金などの収入で足らざる部分は、当然保有する金融資産から取り崩していくこととなる。(中略)

収入と支出の差である不足額 約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取崩しが必要になる。

(金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」より引用)

 

 

「老後2,000万円」は平均でしかない

同報告書の中にはこうも書かれています。

この金額はあくまで平均の不足額から導き出したものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。

既に述べたように、収入が多い家庭、少ない家庭とそれぞれの支出は異なります。また、収入が多いからといってゆとりのある生活を送れるわけではありません。資産が底を尽きないかどうかの重要なポイントは、支出をコントロールできるかどうかです。

 

年代で違う取り崩し額。60歳代はマイナス11万円超

世帯主が60歳以上で無職の世帯では、平均47,000円の赤字(取り崩し)が発生していますが、この金額も世帯主の年代ごとにかなりの差があります。

世帯主の年齢ごとの赤字額
60~64歳 約116,000円
65~69歳 約58,000円
70~74歳 約60,000円
75歳以上 約28,000円

特に、世帯主が60~64歳の世帯では毎月11万円を超える赤字となっています。60歳で無職の世帯は、65歳になるまで原則として老齢年金が支給開始されません。60歳で退職すると、65歳までは資産の取り崩し額が大きくなってしまいます。

ただし、このデータでは、60歳を超えても働く世帯の収支は含まれていないことに留意が必要です。

 

毎月数万円でも働いて収入を得れば、資産寿命は伸びる

現在は、高年齢者雇用安定法の改正によって希望すれば誰もが65歳まで働けるルールになっています。70歳、75歳と働き続けられる企業も珍しくありません。企業に勤めるほかに、フリーランスとして働く選択肢もあります。

現役のときと同じようにフルタイムで働かなければ…と気負う必要はありません。月に数万円の収入を得るだけでも、家計の収支の改善に繋がります。

収支がプラスとまではいかなくても、毎月の取り崩し額を減らすことができます。例えば月3万円稼げば、月5万円の赤字も2万円の赤字に改善されます。その分、資産が底を尽きるのを遅らせることができます。

 

老後も楽しくお金と付き合うための3ステップ

老後も楽しくお金と付き合うための3ステップ

1.家計を知る

「今の我が家の状態」を把握しなければ、老後にいくら必要か予算を立てることはできません。先ずは現状を洗い出してみましょう。

  • 支出…いま、生活費がどれくらいかかっているのか?
  • 収入…年金はいくら貰える予定なのか?
  • 負債…住宅ローン、教育ローン、カーローン。借り入れがいくら残っているのか?
  • 資産…保険の満期金、貯金、退職金。取り崩せるお金はいくらあるか?

 

2.計画を立てる

現状を把握すれば、それぞれの家計に合った予算を立てることができます。

  • 毎月いくらの予算で生活していくか
  • そのために、準備しなければいけない不足額はいくらか

 

3.実行する

プランを立てることができれば、あとは実行するだけです。

  1. 使えるお金を増やす(貯める、増やす、働く)
  2. 支出を減らして、予算の範囲でやりくりする

 

資産を増やすこと、だけでは老後は乗り切れない

資産を増やし、支出を減らす。老後のためのマネープランは、この2つの方法を合わせて考える必要があります。

前述の金融庁の報告書から「老後2000万円」が話題になって以降、筆者の周りでも「老後の資産形成」に向けた機運が高まっているのを感じます。つみたてNISA、iDeCo、個人年金保険…など、資産を増やすための行動は、もちろん重要です。

一方で、どれだけ資産があっても「決まった生活費で生活する」ことができなければ、せっかく増やした資産もすぐに底をついてしまいます。

 

老後の収入減少に合わせて生活費を見直そう

定年後を楽しく暮らす、使いたいことに思い切りお金を使うためにも、老後の準備段階で「自分の生活を把握」することが重要になります。

また、既に老後生活に入っている場合にも「支出の見直し」はすぐに取り掛かれることです。一度計画を立てた後も、家計に大きな「ずれ」がないか、定期的に家族で見直しが必要です。

今回紹介した平均のデータと「現在のわが家の収支」を照らし合わせて、老後のマネープランを立ててみましょう。必要に応じて支出を見直し、コンパクトな生活に変更していきましょう。

 

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