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年金受給世帯の住民税が非課税になる基準とは?免除される条件をFPが解説

年金受給世帯の住民税が非課税になる基準とは?免除される条件をFPが解説

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竹国 弘城

竹国 弘城

RAPPORT Consulting Office 代表、1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP(R)、証券外務員一種

証券会社、生損保代理店での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。より多くの方がお金について自ら考え行動できるよう、お金に関するコンサルティング業務や執筆業務などを行う。ミニマリストでもあり、ミニマリズムとマネープランニングを融合したシンプルで豊かな暮らしを提案している。RAPPORT Consulting Office 代表。1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP(R)。

この記事のポイント

  • 住民税が非課税となる所得基準(非課税限度額)は、本人の年齢・扶養親族等の数・住んでいる地域によって決まる。
  • 住民税は個人単位で課税される。
  • 年金収入以外の所得がある場合には、その合計額で判定する。

住民税が非課税となる所得水準は、低所得者を対象とする給付金の支給や負担軽減措置などの基準として多く用いられています。最近でも、新型コロナ対策の給付金支給対象を判定する際の基準として取り上げられ、注目されました。

この記事では、年金受給世帯の住民税が非課税になる条件について解説します。

 

住民税とは

住民税が非課税となる所得水準は、低所得者を対象とする給付金の支給や負担軽減措置などの基準として多く用いられています。最近でも、新型コロナ対策の給付金支給対象を判定する際の基準として取り上げられ、注目されました。  この記事では、年金受給世帯の住民税が非課税になる条件について解説します。

住民税とは「市町村民税」と「都道府県民税」をあわせた税金のことです(この記事では、個人を対象とする個人住民税について解説します)。

 

住民税は「所得割」と「均等割」で構成されている

住民税の税額は、その人の所得に応じて計算される「所得割」と、住んでいる自治体ごとに一律に定められている「均等割」で構成されています。

 

所得割額の計算方法

住民税の所得割額は、次のように計算します。

(所得金額−所得控除額)×税率−税額控除額=所得割額

所得金額は、収入金額から必要経費を差し引いたもの。税額は所得金額から所得控除額を差し引いた「課税標準額(1,000円未満を切り捨て)に税率をかけて計算します。

 

所得割の税率は原則一律10%

所得割の税率は地方税法によって、市町村民税6%と道府県民税4%をあわせた一律10%と定められています。指定都市(政令指定都市)では市町村民税が8%、道府県民税が2%と割合は違いますが、「住民税」全体としては同じ10%です。

ほとんどの自治体の住民税は10%ですが、一部例外もあります。

 

均等割額の計算方法

住民税の標準税率は、地方税法により次のように定められています。東日本大震災の復興財源として、2023年度までは標準税率が各500円(合計1,000円)引き上げられています。

市町村民税
…年額3,500円(本則:3,000円)
道府県民税
…年額1,500円(本則:1,000円)

 

住民税が免除(非課税)になる条件は?

住民税が免除(非課税)になる条件は?

住民税が免除(非課税)になるケースには、「所得割のみ非課税となるケース」と「均等割・所得割ともに非課税となるケース」があります。

 

 

所得割のみ非課税となるケース

所得割のみ非課税となるのは、前年の総所得金額等が次の非課税限度額以下の人です。

2020年度分までの非課税限度額(所得割)
扶養親族等の有無 前年の総所得金額等
なし 35万円
あり 35万円×世帯人員数+32万円

※世帯人員数=本人と同一生計配偶者、扶養親族等の合計人数

同一生計配偶者・扶養親族
納税者と生計を一にする合計所得金額が38万円以下の配偶者や親族のこと。非課税限度額を計算する際の扶養親族の数には、扶養控除の対象にはならない16歳未満の子供も含まれます。

 

2021年度以降の改正点

税制改正に伴い、2021年度以降は給与所得控除や公的年金等控除が10万円引き下げられる一方、非課税限度額の基準は10万円引き上げられます。そのため、ほとんどの世帯では所得割が非課税になる年収自体に変化はありません。

2021年度分以降の非課税限度額(所得割)
扶養親族等の有無 前年の総所得金額等
なし 45万円
あり 35万円×世帯人員数+42万円

 

均等割・所得割ともに非課税となるケース

  • その年の1月1日現在、生活保護法による生活扶助を受けている人
  • 障がい者・未成年・寡婦(夫)のいずれか、かつ前年の合計所得金額が125万円(135万円・2021年度以降)以下の人(給与収入のみであれば年収204万4,000円未満)
  • 前年の合計所得金額が市区町村の条例で定める金額以下の人

均等割の非課税限度額は、扶養する家族の有無や住んでいる地域(自治体)によって、次のように変わります。

2020年度分までの非課税限度額(均等割)
扶養親族等の有無 住んでいる自治体の級地区分 前年の合計所得金額
なし 1級地(1.0) 35万円
2級地(0.9) 31万5,000円
3級地(0.8) 28万円
あり 1級地(1.0) 35万円×世帯人員数+21万円
2級地(0.9) 31万5,000円×世帯人員数+18万9,000円
3級地(0.8) 28万円×世帯人員数+16万8,000円

※お住まいの地域の級地区分はこちらから確認できます:級地区分一覧(厚生労働省・2018年10月1日現在)

※世帯人員数=本人と同一生計配偶者、扶養親族等の合計人数

 

2021年度以降の改正点

所得割の基準と同様、2021年度以降は非課税限度額の基準が10万円引き上げられます。

2021年度分以降の非課税限度額(均等割)
扶養親族等の有無 住んでいる自治体の級地区分 前年の合計所得金額
なし 1級地(1.0) 45万円
2級地(0.9) 41万5,000円
3級地(0.8) 38万円
あり 1級地(1.0) 35万円×世帯人員数+31万円
2級地(0.9) 31万5,000円×世帯人員数+28万9,000円
3級地(0.8) 28万円×世帯人員数+26万8,000円

 

非課税限度額を計算する際の基準になる所得の種類

非課税限度額を判定する際、所得割では「総所得金額等」均等割では「合計所得金額」が基準になります

非課税限度額を計算する際の基準になる所得の種類

合計所得金額、総所得金額等は、いずれも社会保険料控除や生命保険料控除などの「所得控除を差し引く前の金額」です。

 

年金による所得は年金収入から公的年金等控除を差し引いて計算する

年金による所得は、年金収入から公的年金等控除を差し引いて計算します。公的年金等控除額は、前年の12月31日時点の年齢が「65歳以上」か「65歳未満」かによって、次のように違います

公的年金等の所得(雑所得)の金額(2020年度分まで)
年金受給者の年齢 公的年金等の収入金額(=A) 公的年金等の所得(雑所得)金額
65歳以上 120万円未満 0円
120万円以上330万円未満 A −120万円
330万円以上410万円未満 A ×0.75−37万5,000円
410万円以上770万円未満 A ×0.85−78万5,000円
770万円以上 A ×0.95−155万5,000円
65歳未満 70万円未満 0円
70万円以上130万円未満 A −70万円
130万円以上410万円未満 A ×0.75−37万5,000円
410万円以上770万円未満 A ×0.85−78万5,000円
770万円以上 A ×0.95−155万5,000円

たとえば、68歳で年間400万円の年金を受け取っている人の所得額は、次のように計算します。

  • 【受取年金額(400万円)】−【公的年金等控除額(400万円×0.75−37万5,000円)】=137万5,000円

 

2021年度以降の公的年金等控除引き下げ

2021年度以降は公的年金等控除が一律10万円引き下げられるほか、公的年金等の収入金額が1,000万円以上の人には控除額に上限が設けられます。公的年金等以外に1,000万円を超える所得のある人は、控除額の引き下げ幅が大きくなります。

公的年金等の所得(雑所得)の金額(2021年度分以降)
年金受給者の年齢 公的年金等の収入金額(=A) 公的年金等の所得(雑所得)の金額
公的年金等以外の合計所得金額
1,000万円未満 1,000万円超
2,000万円以下
2,000万円超
65歳以上 330万円未満 A−110万円
※110万円以下は0円
A−100万円
※100万円以下は0円
A−90万円
※90万円以下は0円
330万円以上410万円未満 A ×0.75−27万5,000円 A ×0.75−17万5,000円 A ×0.75−7万5,000円
410万円以上770万円未満 A ×0.85−68万5,000円 A ×0.85−58万5,000円 A ×0.85−48万5,000円
770万円以上1,000万円未満 A ×0.95−145万5,000円 A ×0.95−135万5,000円 A ×0.95−125万5,000円
1,000万円以上 A−195万5,000円 A−185万5,000円 A−175万5,000円
65歳未満 130万円未満 A−60万円
※60万円以下は0円
A−50万円
※50万円以下は0円
A−50万円
※50万円以下は0円
130万円以上410万円未満 A ×0.75−27万5,000円 A ×0.75−17万5,000円 A ×0.75−7万5,000円
410万円以上770万円未満 A ×0.85−68万5,000円 A ×0.85−58万5,000円 A ×0.85−48万5,000円
770万円以上1,000万円未満 A ×0.95−145万5,000円 A ×0.95−135万5,000円 A ×0.85−125万5,000円
1,000万円以上 A−195万5,000円 A−185万5,000円 A−175万5,000円

給与所得と公的年金(雑所得)の両方があり、その合計額が10万円を超える場合には、次の所得金額調整控除が給与所得控除に加算されます。

  • 所得金額調整控除額=年金所得額※+給与所得額※−10万円

※年金所得、給与所得が10万円を超える場合には10万円が上限。

例:給与所得150万円、年金所得180万円の場合、所得金額調整控除額=10万円(年金所得額の上限)+10万円(給与所得額の上限)−10万円=10万円)

 

個人年金保険や確定拠出年金などから受け取る年金の扱い

国民年金や厚生年金のほか、個人年金保険や企業年金、確定拠出年金などの年金にも住民税がかかります。

厚生年金基金、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金、個人型確定拠出年金(iDeCo)は公的年金等に該当するため、国民年金や厚生年金と合算した上で、受け取る年金から公的年金等控除額を差し引いて所得を計算します。

一方、個人年金保険から受け取る年金は公的年金等に該当せず、公的年金等控除の対象にはなりません。

 

源泉分離課税の対象となった株式などの売却益や配当金は所得に含まない

証券会社の特定口座において「源泉分離課税あり」を選択した場合、株や投資信託などで得た利益からは税金(所得税+住民税)が直接差し引かれ(源泉徴収)、課税手続きが終了します。

源泉分離課税の対象となった利益は、住民税非課税限度額を判定する際の所得に含みません。そのため、株の売却益(譲渡益)が1,000万円あったとしても、それが源泉分離課税の対象であり、そのほかの条件を満たしていれば住民税は非課税になります。

 

公的年金受給者世帯の住民税が非課税(免除)となる年収の基準

公的年金受給者世帯の住民税が非課税(免除)となる年収の基準

収入が公的年金のみの場合、住民税(所得割・均等割の両方)が非課税となる年収は次の通りです。

扶養親族等の数
(本人を除く人数)
居住地の級地区分 非課税限度額 公的年金収入金額(年収)
65歳未満 65歳以上
0人 1級地 35万円 105万円 155万円
2級地 31万5,000円 101万5,000円 151万5,000円
3級地 28万円 98万円 148万円
1人 1級地 91万円 171万3,334円 211万円
2級地 81万9,000円 159万2,000円 201万9,000円
3級地 72万8,000円 147万0,667円 192万8,000円
2人 1級地 126万円 218万0,001円 246万円
2級地 113万4,000円 201万2,000円 233万4,000円
3級地 100万8,000円 184万4,000円 220万8,000円
3人 1級地 161万円 264万6,667円 281万円
2級地 144万9,000円 243万2,000円 264万9,000円
3級地 128万8,000円 221万7,334円 248万8,000円

※非課税限度額は2020年度までの基準額

 

 

年金受給世帯の住民税が非課税となる例

年金受給者の住民税が非課税となるのは、次のような場合です(計算に用いた控除額は2020年度分までの金額)。

 

年金収入だけの夫婦世帯の場合の例

東京23区内(1級地)在住、年金受給者の夫(68歳)と専業主婦の妻(63歳)の2人世帯の場合、夫の年金受給額が年間211万円以下であれば住民税が非課税になります。

妻が65歳になり年金受給を開始した場合、妻の年金受給額が158万円を超えると(公的年金控除120万円を差し引いた所得が38万円超)、非課税限度額を判定する際の同一生計配偶者の要件を満たさなくなります。そのため夫の住民税が非課税となる基準は、年金受給額155万円以下になります。

 

年金収入のほかに給与収入のある夫婦世帯の場合の例

東京23区内(1級地)在住、夫(68歳)と専業主婦の妻(63歳)の2人世帯の場合、年金から公的年金等控除を差し引いた雑所得と、給与から給与所得控除を差し引いた給与所得の合計が91万円であれば住民税が非課税になります。

年金受給額が180万円であれば、公的年金の雑所得は60万円(=180万円−公的年金等控除120万円)であり、給与所得が31万円(=非課税限度額91万円−60万円)以内であれば住民税は非課税になります。

給与収入161万9,000円未満の場合の給与所得額は「給与収入−65万円」で計算でき、給与所得額が31万円以下となる給与収入は、96万円以下と計算できます。

(参考)給与所得金額の速算表(2020年度分まで)
給与収入金額(額面年収) 給与所得金額
65万1,000円未満 一律 0円
65万1,000円以上 161万9,000円未満 給与収入金額−65万円
161万9,000円以上 162万円未満 一律 96万9,000円
162万円以上 162万2,000円未満 一律 97万円
162万2,000円以上 162万4,000円未満 一律 97万2,000円
162万4,000円以上 162万8,000円未満 一律 97万4,000円
162万8,000円以上 180万円未満 A(※)×2.4
180万円以上 360万円未満 A(※)×2.8−18万円
360万円以上 660万円未満 A(※)×3.2−54万円
660万円以上 1,000万円未満 給与収入金額×0.9−120万円
1,000万円以上 給与収入金額−220万円

※給与収入金額÷4(1,000円未満切り捨て)=A

 

年金収入だけの単身世帯の場合の例

東京23区内(1級地)在住、独身者(68歳)の場合、年金受給額が年間155万円以下であれば住民税が非課税になります。

 

住民税非課税世帯に対する負担の軽減措置

公的年金受給者世帯の住民税が非課税(免除)となる年収の基準

住民税が非課税となる低所得世帯には、次のような負担軽減措置があります。利用できる制度がないか確認してみましょう。

  • 国民健康保険料の軽減
  • 高額療養費制度の自己負担上限額の軽減
  • 入院時の食事代自己負担分の軽減
  • 予防接種・検診費用が無料
  • 幼稚園・保育園等の利用料が無料
  • 大学等の授業料の減免
  • 給付型奨学金の支給
  • NHK受信料の免除
  • その他各種給付金の支給対象

 

年金受給世帯の住民税が非課税になる基準まとめ

年金受給世帯における住民税の非課税限度額は、本人の年齢と配偶者や扶養家族の有無、住んでいる地域によって変わってきます。収入によっては生活保護(生活扶助)の対象となる場合もあります。

詳細な内容や現状で自身が対象となるのかは、住んでいる自治体の役場に一度確認、相談してみるとよいでしょう。

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