- iDeCoの元本保証商品は基本的に値動きリスクがない。
- 超低金利の時代では、iDeCoで元本保証商品だけを選ぶと手数料に負けてしまう。
- 元本保証商品だけでは資産形成においては不利になる可能性がある。
公開日:
本記事はiDeCoの元本保証型の金融商品について考察します。
元本:自分が出したお金のこと。
元本保証型と聞くと「安心」という気がして、ついつい積み立てる割合を増やしがちですが、その行為は資産形成において実際はどうなのでしょうか。元本保証型のメリット・デメリットについて詳しく見てみましょう。
※元本保証型を元本確保型とも呼びますが、本記事内では「元本保証型」で統一させていただきます。
目次
iDeCoでは基本的に、毎月積み立てる形で掛け金を出していきます。そして掛け金は、次のいずれかの運用商品で運用することになります。
このうち投資信託(元本変動型)は、文字通り元本が変動します。変動幅は投資対象にもよりますが、株式主体の場合一年間という単位で見ると、50%程度値動きが上下にブレることがあります。投資信託(元本変動型)は一般的に「リスク(値動きの幅)がある」と呼ばれるものです。
iDeCoの運用商品は大きく「元本保証型」と「投資信託(元本変動型)」の2種類がある。
※投資信託については下記関連記事などをご覧いただければ幸いです。
それでは元本保証型とはどういうものでしょうか。こちらは先ほど見た投資信託(元本変動型)とは異なり、文字通り(基本的に)元本が確保されている、というものです。私たちの身近な金融商品で例えますと、銀行や郵便局での預貯金がそれに近いイメージです。
元本保証型は基本的に価格リスクがなく、元本の安全性が確保されている。
それではここで一例として、SBI証券のiDeCoにおける元本保証商品をチェックしてみましょう。執筆時点で次の4商品が確認できました。
商品名 | 商品分類 |
---|---|
あおぞらDC定期(1年) | 定期預金 |
スルガ確定拠出年金スーパー定期1年 →除外予定 | 定期預金 |
スミセイの積立年金(利率保証型) →除外予定 | 年金保険 |
第一のつみたて年金保険(5年) →除外予定 | 年金保険 |
除外予定とは簡単に言うと、「そのうち無くなりますよ」という運用商品です。
新しい法律の施行により、「iDeCoで選べる運用商品を35本以下にしましょう」ということになりました。そのため、近々無くなるという商品です。
上記のSBI証券の場合では、4本の元本保証型商品中3本が「除外予定」ですので、実質的に1本になる可能性があります。
筆者の個人的な意見としてiDeCoで元本保証型を選べることは「親切ではなく、初心者にとって不親切」だと考えていますので、とても良いことだと思います。
この理由については、資産形成において重要なポイントですので、後述させていただきます。
ちなみにiDeCoより新しい制度の「つみたてニーサ」には元本保証商品は最初からありません。
それでは先に、iDeCoの元本保証型商品のメリットについて見てみましょう。
ここでは引き続きSBI証券の元本保証型商品を例に挙げて見てみます。
削除予定の3つを除いて、残った1つについて考察します。
SBI証券HPの商品説明「運用情報」によりますと、2019年8月1日時点での適用利率は0.02%となっています。
複利で2倍になるまでの期間を単純に計算するとこうなります。
複利効果:利子など増えたお金+元本にさらに利子などがつき、雪だるま式にお金が大きくなる効果。
72の法則:72で利回りを割ると、複利で元本が二倍になるまでの年数や、インフレで物価が二倍になるまでの年数が分かる。
すなわち3600年で元本が2倍になる可能性がある、という計算です(コスト無視)。
資産形成においては、お世辞にも有利な利率とは言えません。
ちなみに仮に株式主体の投資信託(元本変動型)の期待リターンが5%の場合、
となり、およそ15年で元本が2倍になる可能性が計算上はあります(コスト無視)。
元本保証型では増えないので、老後の資産形成には不向きな一面がある。
もちろん元本保証型の商品でも節税効果はあります。
銀行預金の場合、運用益非課税と所得控除がありません。
例えば銀行預金では、増えた利子に対して20.315%の税金がかかります。
それがiDeCoだと非課税になります。
また、銀行預金にいくら預けても税金が返ってきませんが、iDeCoに掛け金を出すと所得がある人の場合は所得税が戻ってきます。
多い人では年数万円、四十年間では百万円以上(状況による)にもなります。
※節税メリットに関してご興味のある方は以下の記事をご覧いただければ幸いです。
日本経済新聞の報道によりますと、「2019年3月時点でiDeCo全体の資産において元本保証型の割合は6割を超える」となっています。
多くの人が元本保証型に対して良いイメージを抱え、最適な運用対象だと考えていることが透けて見えます。
しかし、果たして本当にそうなのでしょうか。
人によって(例えば20代~50代前半)は、元本保証型より投資信託(元本変動型)をメインに考えた方が、資産形成においては有利なのではないでしょうか。
次に元本保証型のデメリットを見てみましょう。
多くの人がiDeCoでは元本保証型を選択しているが、それはミステイクの可能性もあるのではないか。
私たち人間は基本的に「利得に対して損失が1.5倍から2.5倍ほど重く感じる(つまり損が嫌)」という性質を持っています。そのためiDeCoの運用商品においても投資信託(元本変動型)を嫌い、元本保証型を選びがちです。
しかし、一見すると有利に思える元本保証型には以下のようなデメリットが考えられます。
少し詳しく見てみましょう。
iDeCoではどんなに安くとも積み立てをしていると167円以上の手数料がかかります。
iDeCoにかかる手数料 | 金額 |
---|---|
加入時 | ※加入時のみ2777円 |
口座管理手数料 | ゼロ円~金融機関によって異なる(毎月) |
国民年金基金と信託銀行にかかる手数料 | 167円(毎月) |
原則60歳以降の受け取り時にかかるお金 | ※受け取るたびに432円がかかる |
ということは、元本保証型の金融商品を選択している場合、毎月換算の利子が167円以上(年間では2004円)ないと、実質的に目減りをしてしまう、ということです。マイナスになるのであれば、元本保証商品としては残念な一面です。
先のSBI証券の元本保証型商品の「あおぞらDC定期(1年)」では利率が0.02%でした。
それでは利率0.02%の場合で、元本がいくらあると、手数料分を相殺できるのでしょうか?
答えはおよそ一千万円です。
つまり、現状の低金利ではiDeCoの元本保証商品では実質的に損をしていってしまいます。
そして、iDeCoでは原則として60歳以降にお金を引き出せることになります。
このとき無料では引き出せません。「毎回432円」がかかります。
iDeCoでは年金形式として5年~20年などの期間を自分で決めて、年に何回かに分けて受け取ることもできます。
もちろん、一括で受け取ることもできます。
そのため、元本保証商品を選んだ人によっては、さらに実質的に目減り(マイナスになる)をする可能性があります。
確かにiDeCoでは掛け金の所得控除があります。
そのため収入を得ている人の場合、税金が返ってきます。
これにより、元本保証型商品であっても手数料分を上回るメリットが得られる可能性があります。
しかし、それでいいのでしょうか。
インフレリスクとは、簡単に言うと「物価が上がった時に、預貯金は増えていないから、実質目減りしてて損だよね」というリスクです。
例えば、百円で買えたハンバーガーが二百円に値上がりすると、百円の価値は半分になってしまう、というものです。
iDeCoの元本保証商品の場合、積極的に増えていかないのでこのインフレリスクが考えられます。
これは仮の話ですが、仮に年間2%ずつ物価が上昇した場合、何年間で物価が2倍になるでしょうか。
計算式は簡単です。先ほど見た72の法則で、インフレにおいて物価がどれくらいで2倍になるかが分かります。
つまり、およそ36年間で物価が2倍になります。
つまり、元本保証商品の預貯金タイプでは、数十年後に「お金の価値」が減ってしまっている可能性があるのです。
「国内でそんなに物価上がらないよ」というご意見もあると思います。確かに今の仮の数字の2%はオーバーなお話です。
しかし、世界ではそうはいきません。世界の物価が上がっていく中では輸入品の物価も上昇していくことが考えられます。食品の価格や燃料費も上がり、全体的に上がっていく可能性があります。
その世界においては、やはり「お金の価値」が減るのではないでしょうか。乱暴に言うと何もしなくてもマイナスになる可能性があるのです。
上記まで見てきましたように、私たちは元本保証商品が好きです。
ところが低金利時代は、元本保証商品だと実質的に元本減少タイプになってしまう可能性があります。
では、どんな選択肢があるのでしょうか?それがiDeCoで買えるもう一つの金融商品の種類、「投資信託(元本変動型)」です。
未来のことは不透明で分かりませんが、いくつかシミュレーションをしてみましょう。
下記は「0.02%・1%・3%・5%」の運用利率(年率)で毎月1万円を積立投資した場合の、10・20・30・40年後の資産総額のシミュレーション一例です。
想定上の運用利率(年率) | 10年後 | 20年後 | 30年後 | 40年後 |
---|---|---|---|---|
0.02% | 120万円 | 240万円 | 361万円 | 481万円 |
1% | 126万円 | 265万円 | 419万円 | 589万円 |
3% | 139万円 | 328万円 | 582万円 | 926万円 |
5% | 155万円 | 411万円 | 832万円 | 1526万円 |
※図表は筆者作成 (万円未満は切り捨て)
上記はシミュレーション一例ですので、その通りになるかどうかは分かりません。未来を保証するものではありません。
ただ、利率を比較してみると、必ずしも元本保証商品が有利であるとは言えないのではないでしょうか。
当たり前ではありますが、どのケースであっても個人が出した元本は同額です。
今回はiDeCo(個人型確定拠出年金)の元本保証商品について考察しました。
誤解がないように言っておきますと、確かに元本保証商品は重要です。
例えば60歳手前の方で、来年リフォーム費用などでどうしてもまとまったお金が必要な場合、元本保証商品を選択するのは「あり」だと筆者も考えています。
しかし、そうではなくて、20代~55歳程度の方でしたら、老後のためにお金を増やすことを考えてみるのも良いのではないでしょうか。どちらにせよ60歳まで出すことができないのですから、大きくなる可能性を求めた方が良いのではないでしょうか。
本文内のようにシミュレーション一例を見ると、増える可能性を秘めている投資信託(元本変動型)もあります。元本保証商品の割合が多い方は、冷静に考慮してみてはいかがでしょうか。
本記事が読者の方の合理的な資産形成の一助になれば幸いです。
iDeCoを始めるには口座を開設する必要があります。銀行や証券など多くで投資信託の取扱いがございますが、おすすめはSBI証券か楽天証券です。業界屈指の格安手数料や、豊富なサービス・商品ラインナップを誇るネット証券業界最大手の2社です。